第52話 村の地主

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「あのー、あなた達が記憶喪失の男の人を探している人たちですか?」


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一人の少年が途方に暮れていた拓哉たちに話しかけてきた。

恐らく高校生くらいの年齢だろうか。


「ああ、そうだよ。君は?」

間宮は気さくに返事をした。

いきなり現れた少年に警戒している拓哉とは大違いでフレンドリーな対応だ。


「えっと、この村の住民です。あなた達のこと噂になってました。」

田舎の噂は早いというが、もう村中に広まっている様だ。

「噂早い!凄いね!」

光は素直に驚いていた。

「僕たちはこの村にいたという記憶喪失男性の『知り合い』かもしれなくてね。大阪の方から調べに来たんだ。何か知っているのかい?」

間宮が平然と作り話を繰り広げた。

記者としては時としてこういう平気な顔をした嘘も必要なんだろう。

だが拓哉は唯志のことを思い出していた。

あいつも平気な顔をして作り話を話すときあるよなぁ、と。


「えっと、多分『御子(みこ)ちゃん』のところにいた人のことじゃないかなって。村の人にはほとんど知られていないので。」

「ミコちゃん?」

光がきょとんとして聞き返した。

「この村の大地主の西条家の現当主です。屋敷はすごく広い敷地があって、そこで三年前まで記憶喪失の男性を保護していました。屋敷の外にはほとんど出ていないので村の人も知らないんです。」

この少年によってあっさり答えが出てきた。

答えとしては村人ぐるみで匿っているわけでは無かった様だ。

単純に『知らなかった』と言うことらしい。

この少年曰くだが。


「・・・君はそれを僕たちに話して大丈夫なのか?大地主なんだろ?箝口令が出ているとかは?」

「いえ、そう言うことは無いと思います。御子ちゃんは村の人とも関わりが薄いので・・・」

どうやら要らぬ心配で、隠していたわけではない様だ。


「その人の家、訊ねられるかな?話を聞きたいんだけど。」

「御子ちゃんはいつも村の外の刺激を求めてます。あなた方が話を聞きに行ってくれると喜ぶと思います。」

拓哉は無駄に何か『裏があるんじゃ?』などと疑っていたが、間宮はさっそくと言わんばかりに『ミコちゃん』の家の場所などの情報を聞き出していた。


間宮はうまい具合に噂の『御子ちゃん』に関する情報を聞き出した。

結果、三人は更に頭を悩ませていた。

どうやら三人が考えている以上に『御子ちゃん』の家は名家で大金持ちらしい。

聞いた情報によると敷地は思っていた以上に広大だ。

これこそ門前払いを喰らうんじゃないか?

拓哉はそう思って不安になった。

が、間宮と光はやる気満々で向かおうとしていた。

大丈夫か・・・?


金持ち、しかも敷地が広大と来れば使用人とか執事とか門番みたいなのがつきものだ。

と、拓哉は思っている。

しかも『御子ちゃん』とかいう可愛らしい名前を聞いてるせいで忘れがちだが、その金持ち名家の現当主。

簡単に会えるとは思えない。

そもそも高齢のおばあちゃんじゃないのか?

拓哉の妄想にも近い想像は留まるところを知らず、まだ見ぬ名家とやらに恐怖していた。


だが、拓哉に決定権など無い。

そう思い込んでる拓哉は流されるまま西条家へと向かう間宮の車で黙り込んでいた。

嫌なら嫌で声を出してみたら良いと思われるが、その辺りは拓哉である。

光は「どんな大豪邸なんだろうねー」とか楽しそうに話していたが、拓哉は気が気じゃなかった。


--西条家。正面玄関。

でかい。めっちゃでかい。

敷地を取り囲んでいる塀がどこまで続いているのかもよくわからない。

なるほど、確かにこの中で保護されていたなら村人もわからないだろう。

間宮はさっそくとばかりに呼び鈴を押そうとしていた。


これ大丈夫か?

怪しいものとか言ってSPみたいな人たちに取り押さえられたりとか・・・

拓哉はまた要らぬ心配をしていた。

が、拓哉のこの心配は当たり前の様に杞憂で終わった。


ビビー

間宮が呼び鈴を押した。

拓哉の個人的感想だが、呼び鈴がピンポーンではなくビーとなる家は豪邸だ。

本当にしょうもない個人的な感想に過ぎないが。


「はい、西条でございます。」

呼び鈴を押すとすぐに反応があった。

「大阪で雑誌記者をしております間宮と申します。本日はお話を伺いたく御当主様に面会させて頂きたいのですが。」

間宮はここまでと打って変わって丁寧な言葉遣いで話をしている。

人によって使い分けているんだろう。

「・・・御当主は現在不在でございます。お引き取り願います。」

そう言って呼び鈴の先からの応答は途絶えた。

案の定答えは門前払いだった。


「うーん、取りつく島も無しって感じなのかな。困ったね。」

と間宮は苦笑していた。

「どうしましょう?次は私が押してみましょうか!?」

と光は意気込んでいたが

「アレを見てみなよ。監視カメラだ。三人組なのはバレてるよ、多分。」

と間宮が光を止めた。

「そっか・・・。じゃあどうしましょう・・・」

光もうーんと唸っていた。


「何やら困っているようじゃの!」


突如、背後から話しかけられた。

そこにはコスプレの様な格好をしたギャルっぽい女性が立っていた。

この村には明らかに合わない風貌だ。

いや、格好だけなら如何にもと言った巫女姿の様にも見えるが、顔と髪型がギャルっぽい。

もっと言うと少し前のギャルっぽい。

ついでに言葉遣いも浮世離れしている。


「面白い話が聞こえたぞ。大阪から来た雑誌記者らしいのう。面白そうじゃ。話を聞こう!」

とギャル巫女が言った。


「えっと、ここの御当主の西条御子さんって人に話を聞きに来たの。三年ほど前までいたっていう記憶喪失の男性について。」

あっけにとられる中、光が真っ先に返事をした。

歳が近そうなので、話しやすかったんだろうか。

「ほぅ。なら話をしよか。面白そうじゃ。」

「あ、いや、あなたじゃなくて、ここの御当主さんに--」

「じゃからうちがここの当主の西条御子じゃと言うとるんじゃ。」


「ええー!!?」

三人は驚きに声を上げた。

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