第51話 閉鎖的な村

山々に囲まれて、辺りには広大な畑や田んぼが一面に見えた。

見渡す限り緑の空間に来るのはいつ以来だろうか。

騒音もなく、まだ日中ではあるがひぐらしが鳴いているのが聞こえる。


事前に下調べしてきたものの、スマホやPCの地図ですらまともな施設が載っていなかった。

となると必然的に村役場から手を付けることになる。

とは言え、まともな調査理由が無い。

いったいどうするつもりなんだろうか?


まともに舗装されていない上にナビでも地図アプリでもまともに道が出ない。

そんな中、一行はなんとか村役場まで到着した。

この場合どこの窓口かもわからないが大丈夫か?

とか、無駄なことを考えていた拓哉だったが、間宮は迷うことなく住民課の窓口に向かった。

間宮としてもよくわからないんだろうが、とにかく聞いてみろって考えなんだろう。


--

「こちらの方ではその様な男性の話は聞いておりません。」

住民課の窓口の人がわからないと言って他の担当者が出てきたが、答えはこの通りだった。

「そんなはずはないんですがね。これを見て下さい。」

そう言って、先ほどの市の身元不明者のリストを見せる間宮。

「ここには時妻村で二年間過ごした・・・と書いてありますよ。役場の方で把握していないということですか?」

「残念ながら・・・どちらかのお宅で保護していたとかじゃありませんか?」

「そうは言っても小さな田舎町だ。余所者の・・・しかも記憶喪失者がいたら噂になりませんか?」

「さぁ・・・少なくとも当役場ではその様な事実は認識していませんし、私もそんな噂聞いたことありませんがねぇ。」

「そうですか・・・では何か情報が入ったらこちらまで連絡を下さい。」


話は間宮が行った。

結果は見ての通りの『門前払い』だ。

いや、門前払いなのかもわからない。

少なくとも役場はそんな男は『知らない』ということらしい。

本当なのか隠しているのかはわからないが。


「さて、困ったね。思ってた以上に『謎の人物』だな、この男性は。」

と、間宮は独り言なのか拓哉たちに言ったのかわかりづらいトーンで言った。

「でも二年もここにいて、誰も知らないなんてことありますか?」

光がそう言ったが、拓哉も同じ疑問を抱いた。

当然間宮もそう思ったことだろう。

「考えづらいことだとは思うけど、『村ぐるみで隠してる』だけなら簡単さ。」

「簡単・・・なんですか?隠されてるのに。」

拓哉が思ったままを口にする。

「人の口には戸が立てられないからね。村人を見つけて手あたり次第調査すれば簡単に綻びが見つかるさ。」

と言う間宮に、拓哉は確かにそうかもと思った。


誰しもが経験上知っている事だ。

信用していた人間でも簡単に口を開く。

噂などが良い例だ。

本当に信用している人以外に余計なことを言わない方が良い。

拓哉は経験上そのことはわかっているつもりだった。

(先日の宮田の件は忘却している様だ。)


「だが問題は、本当に村人たちが知らない場合だなぁ。」

間宮はそう言って眉をひそめた。

「そんなことあるんでしょうか?」

拓哉はまたも思ったままを口にした。

「うーん・・・難しいとは思うけど、誰かが匿っていたりしたら無くはないよね。」

と、間宮は可能性を口にする。

「でも匿うにしても二年は長くないですか?普通の家だと見つかっちゃう気もします!」

光も自分の意見を述べた。

「そうだね。そうなると可能な家は限られてくるね。」

受け答えを見るに、間宮の中ではある程度の考えがまとまっている様に見える。

今の拓哉には見当もついてないが、間宮に行動を任せるのが良いのだろうと思い黙っていた。


「とりあえず、その辺で適当に話を聞いてみようか。手あたり次第で。」

と間宮は提案し、拓哉と光もその意見に賛成した。


--

「全然人がいないですね・・・」

光が悲しそうに呟いた。

時間にしたら十分ほどだが、車で走り回ってみても、しかし人がいない。

「小さくても良いからスーパーとかでも見つかれば、人くらいいるさ。」

間宮はそう言っているが、肝心のスーパーどころか、店らしきものがナビにもマップアプリにも出てこない。

「困りましたね。」

流石に拓哉もこの状況には困って頭を悩ませていた。

残念ながら拓哉から良い策が出ることは無く、ただただ悩んでるだけだが・・・


「あ、あれは!?」

光が声を上げた。

田んぼの脇に人影が見える。

ついに第一村人発見!


「すみませーん、ちょっとお話をお聞きしたいんですが。」

車を止め、道行く初老の女性に間宮がすぐに話しかける。

他人と話すのが苦手な拓哉はさすが記者だなと感心していた。

記者だからとかは関係ないと思うが・・・


「いやー、知らんなぁ」

「ですが、他所の市の報告でも確かにこの村だと・・・何かわかりませんか?」

「残念じゃが、覚えがないねぇ。そんな人間いたならすぐに噂になるじゃろうし。」

「そうですか・・・ありがとうございました」

第一村人への聞き込みは空振りに終わった。


その後--

「知らないねぇ。」

「聞いたことが無いな。」

「覚えてない。」

返ってくるのは似たような答えばかりだ。

そもそも村人があまり見つからない。

一時間ほどかけて十人ほどに聞き込みできたが、何の収穫も無かった。


(これは『ハズレ』だな。)

と拓哉は達観した、どの立ち位置なのかわからない思いを抱き始めていた。


「うーん、これは思ってたよりも厳しいかなぁ。少なくとも住民に嘘や隠し事の気配はなかったし・・・」

と、間宮もあてが外れた様子だった。


どうしようかと途方に暮れ、とりあえず見つけた小さなタバコ屋の前の自動販売機で休憩を取っていた。

帰りの時間を考えると、そんなに時間もかけていられない。

「あまり収穫はありませんね・・・」

光は落胆した様子で言った。

「うーん・・・ここまで何もないとなると、逆に何かありそうな気はするんだけど・・・」

と間宮はまだあきらめきれない様だ。


その時、一行に一人の少年が近づいてきた。

「あのー、あなた達が記憶喪失の男の人を探している人たちですか?」

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