第50話 身元不明
日曜日。
前日は拓哉の無計画な作戦により、宮田によって散々な目にあわされた。
いつも明るい光だが、宮田の質問攻めや武勇伝披露に少し疲労の色が見え、昨夜は疲れた顔をしていた。
それでも拓哉を気遣い、「今日は私の為にありがとう」と言ってきたのが逆に辛かった。
故に尚更今日こそはと意気込む拓哉は朝から気合が入っていた。
朝の八時五十五分。
マンション近辺まで迎えに来てくれるという間宮の言葉に甘えて、拓哉と光はマンションの前で間宮の車を待っていた。
待ち合わせ時間の九時ちょうどに間宮が車で現れた。
車の車種は詳しくないが、結構いい車な気がする・・・と拓哉は思った。
なんとなくだが、自分の好きな女性が他の男の運転する車に乗る・・・と言うのは抵抗がある気がする。
なんでかはわからない。
とは言え今日の目的を果たす為、そんな小さなことを気にしてられない。
拓哉と光は挨拶を交わして、間宮の車に乗り込んだ。
二人とも後部座席に乗り込んだので、助手席が空いてしまった。
「おいおい、寂しいね」
と間宮は苦笑していたが、しょうがないことだと拓哉は割り切っていた。
少し見知った中とは言え、拓哉にとって間宮はまだまだ他人。
それでなくても話題を振って楽しく会話を盛り上げるタイプでもない拓哉は、黙って車に乗っていた。
基本的に間宮が話題を振りまき、光が答える形でコミュニケーションが成立していた。
間宮は拓哉たちの世代に合わせてと、新しめの音楽を流してくれていたが、拓哉は音楽も偏った趣味の為あまりわからなかった。
時折光が「これ良い曲ですねー」とか言っていた。
ふと間宮が拓哉に話しかけてきた。
「唯志君だけど、光ちゃんはともかく君は前からの『友達』なんだろ?」
こいつも岡村君か・・・。と拓哉は思った。
「ええ、大学の頃から。一回生の頃からの付き合いだからかれこれ7年くらいですね。」
「そうか。彼は昔からあんな感じなのかい?」
「あ、それ私も気になる―!」
あんな感じってのが抽象的でよくわからなかったが、光まで食いついてきたから答えるしかなかった。
「うーん。まぁ変わってないですね。昔から興味のある事にはとことん・・・って感じです。」
割とぼやかして答えた。
光の手前、これ以上唯志の評価を上げたくないという男心が働いていた。
そこからしばし唯志についての質問や話が続いた。
光も興味津々だったので、拓哉はぼやかしつつも思い出話を語る。
そんな (拓哉にとって) 若干気まずい中、約一時間ほどをかけ『身元不明、記憶喪失男性」の保護されているという施設に到着した。
----
「え、いないんですか!?」
声をあげて驚いたのは光だった。
「ええ、申し訳ありません。その男性は二年ほど前から『行方不明』です。」
と、担当者の女性が教えてくれた。
その男性は三年ほど前にこの施設に保護されていたはずだ。
つまり一年ほどで今度は行方をくらませたことになる。
「市の身元不明保護のリストに名前が載っていましたが・・・」
間宮が更に追及した。
「それは・・・えっと、恐らく情報の更新が遅れていて・・・」
と、女性は気まずそうに答えた。
「二年も遅れていてで済む問題ですかね?」
間宮は手厳しい追及を続ける。
匿っているなどの可能性も考えているのだろうか。
「本来このような場合は行方不明の方のリストに載せるべきなんでしょうが・・・なにぶん身元不明者なので・・・。捜索願も出ていませんし、こちらとしても対応に困っている・・・と言ったところです。」
担当の女性は申し訳なさそうに答えていた。
最後に間宮は万が一見つかった場合連絡を下さいと連絡先を渡して、一行はこの施設から退散した。
「うーん、無駄足になるとはね。」
間宮は残念そうに言った。
光も心なしか残念そうだ。
骨折り損とはまさにこの事だろう。
はるばる訪ねてきた対象者は身元不明に合わせて行方も不明なのだ。
ほんとに無駄な労力だったと拓哉は心底思った。
実際のところ、拓哉は調べてもいないし連れてきてもらっただけで、何の骨も折ってはいない。
「気を取り直して、次は時妻村の方の偵察に向かおうか。」
「はい!今度こそ何か手がかりを見つけましょうね!」
光は相変わらずやる気満々だった。
拓哉は若干やる気がそがれていたが、光の為にと気を取り直した。
「と、その前に小腹がすかないか?この先田舎になるし、近くで食事でもして行こう。」
間宮の提案に、二人とも同意し食事を摂る事になった。
--
某お子様から大人まで人気のファミレス。
簡単に軽食を摂りつつ、話でもしようかと入り注文を済ませたところだった。
ふと光を見ると、何やらスマホでポチポチとやっている。
「どうしたの?」
気になって光に聞いてみた。
「あ、さっきの報告を唯志君と莉緒ちゃんに。後は宮田さんからもyarn来てたから一応返事を・・・」
あんな奴に返事なんてしなくて良いと言いたい拓哉だったが、自分が蒔いた種だけに言いづらかった。
「しかし、身元不明が行方不明に化けるとはねー。」
「ほんとですね。何があったんでしょうか?」
と光も首をかしげていた。
「急に記憶が戻って、元いた場所に帰ったとかじゃない?」
と拓哉は自分の推理を披露した。
「まぁその可能性はあるね。」
間宮に同意され、拓哉は内心嬉しかった。
「とにかくいないものはしょうがない。この人の情報も含めて次の時妻村で調査をしよう。」
「はい!」
昨日の夜は疲れてきっていた光だったが今日は一転、元の元気な光で拓哉は安心した。
--
食事も済ませ、間宮としては本日のメインイベント時妻村へと向かった。
なお、道中の一時間超の社内の間、またも拓哉はだんまりを決め込んで、間宮と光が会話する状況となったのは言うまでも無い。
そして、山と山に囲まれ、当然電車すら通っていない。
形容するならザ・ど田舎と言える時妻村に到着した一行だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます