第46話 間宮からの相談3

「村の方なんですか?記憶喪失の男じゃなく?」

そう聞き返したのは唯志だった。

「まぁ男性の方も気になるけどね。村の方はさっきの話に加えて、近隣にパワースポットも多いしね。村自体に何かあるんじゃないかと思ってるんだ。」

と、間宮は村の方に興味がある様子だった。

「パワースポットねぇ。さっきの話と言い、眉唾物ですね。」

この手の話となると一番乗り気になるかと思っていた唯志が、意外なことにあまり気が乗っていない様子で、拓哉は驚いた。

「意外だね。君には賛成してもらえるかと思ってたけど。」

間宮も同じく意外に思ったらしい。

「男の方に会いに行く・・・の方が俺的には有意義な気がしますけどね。」

と唯志は答えた。

拓哉としてはどちらも無意味な気がしていたが、光が真剣な表情で考えているようだったの黙っていた。


「もちろん男性の方にも会いに行くけどね。村の位置は・・・この辺だ。」

そう言って間宮はスマホで地図を出してきた。

大阪からはお隣の県でそこまで遠くは無い。

・・・問題は交通手段になりそうだが。

「そして、男が保護されている市がここ。」

車で行く前提にはなるだろうが、尼崎や大阪から向かうとちょうど通り道になりそうな場所だ。

「僕が車を出すからさ、来週の土日辺りで予定空いてないかな?ちょっと調査に行かないかい?。」

と間宮が提案してきた。


「あー。えっと・・・日曜日なら、良いですよ。」

と、拓哉が少し歯切れ悪く答えた。

「私も大丈夫です!」

光もそれに続いた。


「そうか、良かった。・・・唯志君は?」

と間宮が唯志にも答えを促した。

唯志は少し渋い顔をしていた。

「うーん・・・パスで。」

「え!?」

光が驚きのあまり声を上げた。

だが驚いているのは拓哉も同じだった。


「唯志君、来てくれないの?」

光は少し寂しそうに唯志に聞いていた。

光が寂しそうにしている事に若干嫉妬していたが、拓哉としてもあまりよく知らない間宮と一緒ということに不安があったので、唯志には来てほしかった。

「悪ぃな。ちょっとやりたいことがあってね。収穫があったら教えてよ。」

と唯志は光に謝りつつ、間宮にも断りを入れていた。

「うーん、しょうがないね。まぁ今回は様子見だから。何かありそうなら改めてって感じになると思うし。」

と、間宮も残念そうに言った。

光も「しょうがないかぁ」と渋々納得していた。

(俺は納得してないんだけど!元々お前の案だろ!)と拓哉は思っていたが口には出さない。


--その後は、四人で雑談しつつ、『記憶喪失の男性』に会った際に何を質問するか、村では何を重点的に調べるべきかなどを打合せしていた。

主に間宮と唯志主導で話は進んで行った。


ーーある程度話がまとまったところで間宮が『お開き』を宣言し、今日の相談会は終わった。

呼び出し主の間宮はというと、次の取材があるからとそそくさと退散していった。

(会計は間宮が支払ってくれた。)

記者ってイメージ通り忙しいんだなぁとか考えている拓也をよそに、光は何やら唯志と話し込んでいた。


「--前にも言ったけど、帰るにしても長期戦は必須になる。働くことも考えたら就籍許可の手続きを考えた方が良いと思う。」

どうやら前に話していた戸籍に関しての話の様だ。

「それに・・・最悪の場合も想定した方が良い。」

唯志の言う『最悪の場合』。つまり光は『帰れない』ってことだろう。

根拠も無しに帰れると励ましている拓哉でも、正直なところ帰れないんじゃないかと少しは思っている。

だからと言ってそんなにはっきりと本人に言わなくても・・・と思う。

希望は持たせてあげるべきだ、と。


実際のところ拓哉の考えと唯志の意見、どちらが正解と言うわけでもないだろう。

ただ、拓哉は光に良いところを見せたいという思いと、人に厳しいことを言えない性格だという部分はある。


「・・・そっか。そうだよね。うん、わかってるよ。」

光は落ち込み気味に答えていた。『帰れないかもしれない』と言う現実を考えてだろうか。

「最悪の場合じゃなくても、手続きは進めておいても問題ないさ。無駄にはならないし。」

「・・・うん、そうだよね。でも唯志君、私そう言うのよくわからなくて・・・」

「その辺は俺も手伝うから安心しな。とりあえず・・・ストーリー作りがいるなぁ。」

「ありがとう、唯志君!・・・ストーリー?」

光もだが、横で聞いていた拓哉も何が何だかわかっていない。

「そ。まぁその辺も俺が考えておくよ。出来れば良いシチュエーションを作れる環境が欲しいが・・・」


何のことだかはわからないが、とりあえず唯志に任せた方が良いと思ったのか光はそれ以上追及しなかった。


「あ、そうだ!」

そろそろ今日は解散かなと思っていた所に、光が思いついたかのように話し始めた。

「唯志君、今日は予定ある?まだ大丈夫だったら色々話したいな!」

光は唯志と話をしたいようだ。

「んー、今日はこれからやりたいことがあるんだ。すまんね。」

「うー、そっかぁ・・・しょうがないね!」

「俺もひかりんの話は色々聞きたいから、今度改めて頼むよ。今日は莉緒もいないしな。」

「うん、じゃあ今度!絶対だよ?」

「はいはい。今日は吉田にデートでもしてもらいな。」


唯志がそう言うと拓哉は焦って声を出した。

「ちょ、デートじゃないって!」

そう言いつつ光の方をちらっと見る。

(嫌がってはいない様だな。・・・喜んでもいなそうだけど。)


「タク君はそんなつもりないでしょ~。それよりも今度絶対だよー!」

どうやら拓哉はそもそも土俵にも立ってない程度の扱いの様だ。

拓哉は少しがっかりしたが、嫌がられてるよりはマシと謎のポジティブさを発揮していた。

光は光で別日に改めて時間を貰えるという結果に満足している様だ。


--唯志が二人に別れを告げてどこへやら消えた後。

「みんな帰ったけど・・・どうする?どこか行きたいところある?」

拓哉は先ほどの唯志の言葉がまんざらでもなかった。

光がどう思おうと、二人で梅田で遊ぶとなると『デート』の様なものだ。

既に同棲もどきをしているのに今更な様な気もするが、デートと言う響きに優越感を得ていた。


「うーん、でもあまり無駄遣いしてもだよね。それよりも帰って今日聞いた村とか調べようかなって!」

「え?でもその辺は間宮さんとかに任せた方が良いんじゃないかな?」

「うん、多分無駄にはなると思うよ。でも少しでも自分で何とかしなくちゃダメかなって・・・唯志君も間宮さんも協力してくれてるのに、私ばっかり遊んでたら悪いよ。」

拓哉の思いはあっさり打ち砕かれ、二人は家路へと着いた。

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