第45話 間宮からの相談2

間宮はカバンからたくさんの資料を取り出した。

「まずはこれ。」

そう言って差し出された資料に全員で目を通す。


「えっと、このリストは?」

拓哉は名前や年齢、市町村が書かれているリストに目を通したが、いまいち意味が分からなかった。

光も同じくと言った表情だ。

唯志はさらっと目を通して口を開いた。

「うん、こっちが行方不明者。こっちが身元不明者の保護・・・と言ったところですかね?」

と、唯志が答えた。

「その通り。さすがに察しが良いね。」

と間宮が手放しで唯志を褒める。

「まぁこれについては俺も多少調べましたので。しかしさすが記者さんですね。俺が調べられた範囲よりも明らかにデータが多い。」

「その辺は一応本業だから」

と間宮は言っていた。ちなみに調べた方法は『企業秘密』だそうだ。

二人の会話を聞きながら、光は「二人ともすごーい」とか呟いていた。


しかし拓哉が二人の会話に口を挟む。

「ちょっと待って下さい。行方不明者に身元不明人?二人ともなんでそんなもの調べてるんですか?」

これには光も同じ疑問を持ったようで、「あ、確かに!」とか言っている。


「ん?一応方針として『神隠し』の調査だったよね?特に『現れた方』がいないかどうかの。」

と間宮が当然の様に答える。

「神隠しって言ってもそうそう転がってないからな。こういうところから洗うしかないだろ?とりあえず消えた方候補と出てきた方候補がいないか調べるならこういうところからになる。」

と唯志も当然だろと言わんばかりに答える。

どうやらこの二人の方向性は一致している様だが、拓哉は全く理解が追いついていなかった。

光は「へー、凄い。」とか言ってる。


「で、だ。このリスト見てどう思う。ちなみにデータはここ五年分ね。」

と間宮が全員に意見を求める。

(どう思うって言われたって。意外と多いなぁとしか・・・)

「うーん、こんなにいっぱいいるとなると・・・全部総当たりは難しいですよね?」

と光は無理を承知で聞いてみる。

「まぁ難しいね。特に消えた方はね。簡単に見つかるならこのリストに載ってないわけだし。」

と間宮も答える。


「とりあえず、行方不明者の方は女児は削除。若い女性も消しても良い。」

と唯志が答えた。

「え、なんで?」「唯志君、なんで?」

光と拓哉が同時に口を出す。

「パターンから言って、その辺は多分誘拐事件だ。今までの解決した行方不明事件の例から言ってな。全部がそうとは限らないが、可能性が低いものは削除しないとキリがない。」

と唯志が私見を口にした。

「そうだね。僕もそう思う。」

と間宮も同調する。

「それと、身元不明者の方。こっちは見た目五十代以上は全部削除。多分痴呆老人だと思う。これだけで身元不明の方はほとんどが消える。」

そして唯志が更に続ける。

「そうなってくると気になるのは・・・これ。三十代記憶喪失者。場所も関西だし調査の足掛かりとしては手ごろ。」

そう言って唯志はリストから一人の男性を指さした。

その『答え』を聞いて間宮はニコッと微笑んだ。


「さすがだね、唯志君。実は僕もそこから始めようと思っていた所だったんだ。」

どうやら間宮の中で既に答えは出来ていて、意見を求めたのは悪い言い方をすれば『試されていた』様だ。

試されるのは嫌いだ。拓哉は内心そう思った。

そもそも間宮は拓哉を試すつもりなんて毛頭なかったと思うが・・・


「更に言うと、この『備考欄』。少し気になってね。」

そう言って間宮がリストを指でトントンと叩いた。

そこにはこう記してあった。


--記憶を失ったうえで時妻村で発見される。

その後二年ほどを同村で過ごした後、本市の施設に保護される。


「とき・・・つまむら・・・ですかかね?」

と、光が恐る恐る口に出してみる。

拓哉はだんまりを決め込んでいた。

「ときつむら、と読むらしい。人口千人にも満たない、本当に小さな村だよ。」

と、間宮が説明してくれた。

「聞いたことない村ですね。それのどこに気になる要素が?」

これには唯志も推測が出来ていない様子だった。


「この男性のことが気になったからね。ついでに村のことも調べたんだ。歴史とか。そしたらどうだったと思う?」

「えっと、どうだったんでしょう?」

拓哉はそのまま聞き返した。

「何も出てこない。歴史も由来も何も。調べられなかった。・・・一般的にはね。」

「一般的にはって事は、何か調べは付いたんですよね?」

今度は唯志が聞き返した。

「・・・ああ。ホラー絡みの関係者からね。ごく一部のホラー業界人では少しだけ知られれているらしいよ、この村。」

「知られてる・・・もしかしてオバケとか出るってことですか!?」

少し怯えた表情で光が聞き返した。

「いや、そういうわけじゃないけどね。なんでも昔からの由緒正しき霊能力者がいるとかなんとか・・・真偽は不明だけど。」

真偽は不明・・・。具体的な情報のわりにいまいちはっきりしない内容だった。


「なんか胡散臭いですね。真偽不明なのに一部で知られてるってどういうことですか?」

唯志も同じことを思ったらしく、間宮にくってかかっていた。本人的には質問しているだけのつもりだろうけど。

「噂程度ってことだよ。実際閉鎖的な村らしくてね。本当に確認できた人はいないみたいだ。それに心霊的な現象が起きたって話も無いから、首を突っ込む記者もいないのさ。」

と間宮が理由を説明し、更に続けた。

「でもこの村のこういう事情とこの男性・・・何か気にならないか?」

確かに偶然で済ますには出来過ぎているような気もするし、偶然だろうとも言える。絶妙なラインの情報だった。

何の手がかりも足掛かりも無い拓哉たちには、調べてみるべきと思える程度の薄いつながりだった。


「と、言うわけで。今度この村に行ってみようと思うんだ。」

間宮がそう言って全員を見渡した。

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