第44話 間宮からの相談1

日曜日。

前日土曜日は通販で買った光用の日用品の整理をしたり、周辺を案内して過ごした程度で特に何もない一日だった。


この日は、間宮の急な呼び出しで梅田まで来ていた。


間宮からの連絡は昨晩のことだった。

取材の許可が取れたこと、そして少し調査も進んだから報告と今後の動きの相談も兼ねて一度話がしたい--

拓哉にそういう主旨の連絡があった。

拓哉は光と相談の上、どの道予定は無いからと了承した。

そして今日である。


時刻は九時五十分ごろ。

待ち合わせ場所に到着した。

待ち合わせ時間は十時だったが、拓哉にしては珍しく予定より早く到着している。


・・・と言うのも、少し一緒に生活し拓哉の時間に対するルーズさを薄々感じ始めていた光が拓哉を急かしたからだ。

元々(ビビりな)拓哉は目上の人との待ち合わせにはあまり遅れはしない。

(それでも遅刻する時もあるいい加減さだが。)

だが、予定時間より早く着くという概念は拓哉には無い。

嘘でもいっぱしのサラリーマンなわけだから五分前行動くらい出来そうなものだが、出来ない人間はとことん出来ないものだ。

そんな拓哉でも光に言われたら別だった。

恋愛は人を変えると言うが、光に言われた拓哉は素直に十分前に到着出来ていた。


待ち合わせ場所に着くと、見知った顔があった。


目が合うと相手の方から声をかけてきた。

「よう、吉田にひかりん。おはよーさん。」

声をかけてきた相手は唯志だ。

「あ、唯志君!おはよー!」

光は元気に挨拶を返す。

「・・・なんで岡村君がここに?」

拓哉は少し怪訝な顔をして唯志に問う。

「間宮さんから昨晩声をかけられてね。少し相談したいから出来れば来てくれって。」

と唯志は答える。

どうやら間宮は拓哉に声をかけた後唯志にも声をかけた様だ。

拓哉だけでは荷が重いとでも言いたいんだろうかと思い、内心では少し怒っていた。


「てか吉田のくせに早いな。待ち合わせ時間まだだろ?」

「今日は私が引っ張ってきました!」

と光が胸を張った。

唯志は苦笑している。

「それよりひかりん、吉田に風呂覗かれたりとかしてないか?大丈夫?」

「してねーよ!」

拓哉は焦って答えたが、光は気にしてない様子でホッとした。


「今日は莉緒ちゃんは?」

光は莉緒がいないことに気が付き、?を浮かべたような表情で質問した。

「莉緒は用事があるからって今日はパス。連れてきた方が良かった?」

「いやいや、大丈夫だよ!なんとなく唯志君と莉緒ちゃんセットなイメージがあったから!」

拓哉も同じようなイメージを持っていた。

「そんなことも無いぞ。あっちも大学生で忙しいからな。」

「そうなんだ。なんか意外~。」


そんなことを話していた所に間宮が現れた。

「やぁお待たせ。みんな時間より早いとは今どきの若者にしては感心だね。」

到着した間宮にそれぞれがそれぞれに挨拶を交わす。


「とりあえずそこの喫茶店で良いかな?」

そう言って指を指された先は、『あの』喫茶店だった。

待ち合わせ場所を指定された時から薄々感じてはいたけど・・・


「間宮さん、もしかして狙ってここを選びました?」

と拓哉が間宮に質問する。

「うん、やっぱり現場には来ておきたかったからね。何か思い出したりもあるかもしれないし。」

そう、この場所は例の発光事件があった『拓哉と光が出会った』場所のビル前。

そして間宮が指さした喫茶店は、拓哉と光が話をした喫茶店だった。


「なんか数日前のことなのに懐かしいね、タク君」

楽しそうにしている光を見ていると何故か拓哉も嬉しくなる。

この場所が光との『思い出の場所』・・・って事になるからだろうか。


喫茶店に入ると、奥の方の広めの席に場所を確保した。

そして、とりあえず何か注文を・・・と、カウンターに向かい拓哉はメニューを見ていた。

とは言え頼むのはいつも通りアイスコーヒーなわけだが。

そう伝えると、唯志もそれに続いて注文を口に出した。

「俺もアイスコーヒーで良いかな。ひかりんは?この時代のメニューとかわかる?」

と、唯志は光に小声で質問した。

「えっと・・・、実はよくわかって無くて。口頭で注文するのってあまり慣れてないから。」

拓哉は全く気付いていなかったが、そもそも光は紙媒体でのメニューに慣れておらず、どれを選んでいいか迷っていた様だ。

拓哉はこの会話を聞いて、今まで全く気付いていなかったことに血の気が引いていた。

(言ってくれれば良かったのに・・・)

とか思っている始末だ。


「だろうなって思った。いつもならどんなの頼むの?」

「うーん、冷たくてさっぱりしてるのが良いかな。コーヒー実は苦手で。」

「ならアイスティーとかで良いんじゃない?これとかどう?」

「あ、じゃあそれで!」


その光景を眺めていた間宮は思った。

(これ、タク君は茨の道のりになりそうだなぁ)と。

間宮から見ても拓哉が光に惚れているのは一目瞭然だったからだ。

多分気づいていないのは光くらいのものだろう。


注文したものを受け取り、席に着いたところでさっそくとばかりに間宮が切り出した。

「さて、じゃあ本題ね。この数日で調べたことを伝えるからとりあえず聞いてほしい。」

間宮の話が始まった。

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