第40話 そして解散へ
その後は早かった。
誰が言うでもなく、なんとなく全員が今日はここまでという空気を感じたんだろう。
みんながそれぞれ帰り支度を始め、スムーズに会計まで進んだ。
会計は間宮が全て支払った。
「思ってた以上に面白い話だったお礼だよ」
とか言ってた。
正直酒を飲まない拓哉としてはこういう場面で1円も出したくないので助かった。
ただでさえ居候を抱えているし・・・などと考えてもいた。
一方光は・・・
唯志の帰るのが厳しい発言を聞いてから少し元気がなかった。
光は元々沈んだ気分を顔には出さない。
それゆえにか、拓哉が鈍いだけなのか。
拓哉は全く気付いていなかった。
だが、拓哉以外の全員が気づいていたし、気を使っていた。
唯志も莉緒もそれとなくフォローを入れていた。
だが光は「全然気にしてないよ~」と明るく振る舞っていた。
しかし内心は複雑だった。
唯志や莉緒が気を使ってくれるのはすごく嬉しかった。
でもやっぱり帰れないかもって思うと辛かった。
あくまで可能性の話と唯志は言っていたが、この数日で光の中の唯志の評価はうなぎのぼりだった。
それだけに現実を突きつけられた気がして、辛かった。
自分でも難しいことはわかっていた。
唯志が悪いとは思わないし、悪くも思わない。
自分が悪いわけでもない。
強いて言えば『運が悪かった』のだ。
だからこそ、なんで私だけ・・・という暗い気持ちになりかける。
だが持ち前のポジティブさで考えない様にしていた。
会計が終わり、全員で外に出た。
全員の情報共有も終わり、連絡先も全員で交換した。
明日からは拓哉の浮気調査ミッション(?)と間宮の連絡待ちといったところだろうか。
それに加えて自分でも調査を頑張ろうと拓哉は決意を新たにしていた。
「そう言えば、今後は君に連絡したらいいのか?」
間宮が帰る前にと、確認していた。
『君』というのは、もちろん唯志だ。
(は?なんで岡村君?光ちゃん本人か、保護者の俺じゃないの?)
拓哉はそう思って激怒していた。もちろん内心。
そして、そう思っているのは拓哉だけで、全員が似たような認識だった。
「いや、急ぎの連絡やyarn程度の連絡ならひかりんに直接で良いんじゃないですか?」
当の唯志本人は光に直接を推していた。
「ん?てっきり君がリーダーなのかと思っていたが・・・」
佐藤は率直な意見を言った。
間宮も同じ感想の様だ。
「重要内容や資料付はメールで複数人宛で良いと思いますけどね。直接の窓口はひかりん本人が良いと思いますが。」
唯志はそう言っていたが、当の光本人はそうは思っていなかった。
「私は唯志君がリーダー・・・というか、間に入ってくれた方が安心かな。」
光も唯志をリーダーだと思っていた様だ。
(なんで岡村君がリーダーなんだよ。むしろ部外者に近いだろ!)
大人気もなく怒っているのは拓哉だけだった。
怒っているのは拓哉だけ・・・だが、唯志本人と莉緒もリーダー唯志には乗り気ではなかった。
「いや、俺はそう言うの向いてないんだ。リーダーというか、窓口が必要なら吉田がいるだろ?俺は裏方側の方に回るよ。それに・・・いや、何でもない。」
唯志は何かを言いかけていたが、その後の言葉は出てこなかった。
ともかく拓哉を『リーダー』に推薦した。
(なんだよ、含みのある言い方だな。そんな言われ方だとこっちも引き受けたくないんだけど。)
と何かにつけて心の中で文句を言っている拓哉であった。
一度くらい口に出してみたら良いのだが、それは決してしない辺りが拓哉である。
唯志は光に向かって話しかけていた。
「ま、窓口なら同居してて動きがとりやすい吉田の方が良いよ。何かあれば相談でも遊びでもなんでも付き合うから。な、莉緒?」
「おうよ!」
唯志と莉緒の言葉に安心したのか、光も唯志提案の拓哉リーダー(窓口)で納得したようだ。
「吉田君もそれで良いかい?まぁ俺は君と頻繁に連絡を取る事になると思うが。」
と、佐藤がフォロー気味に言ってきた。
「ええ、まぁ・・・」
脳内と違って歯切れが悪い答えだった。
「タク君、ごめんね。やっぱり、私が直接連絡取合うようにするよ。」
と、心配になって光が拓哉にフォローを入れた。
「いや、大丈夫だよ。光ちゃんは自分が帰る事だけ考えてて。」
と、自分なりに男らしく答えた拓哉だったが、内心では岡村君は良くて、俺じゃ頼りないのか?と思っていた。
本人は気づいていないが、ここまでの成り行きを見ると拓哉では頼りなく感じるのは無理もない。
あとはそれぞれが別れの挨拶をして、駅の改札で散り散りになって行った。
「ねぇ、唯志。さっきなんて言おうとしてたの?」
唯志と莉緒の電車内。先ほど唯志が言いかけたことが気になっていたようだ。
「ん?ああ、あれか。吉田は俺の言うことは素直に聞かないだろってね。外面はともかく、内心はな。」
と、唯志は答えた。唯志は唯志なりに拓哉の内心を察しているようだ。
それがそれなりに付き合いが長いのに距離感のある二人の関係を象徴しているのだろう。
「気づいてたか?あいつずっと不機嫌だったぞ。何考えてるかは知らないけど、俺が仕切るのは嫌なんだろ。めんどくせ。」
と、唯志は心底めんどくさそうにいった。
「はは、気づいてたけどね。そもそも仕切るの嫌いなのにね、唯志。タク君も文句あるなら自分でやればいいのに。」
莉緒も唯志と二人きりだと辛辣だった。
一方、佐藤間宮サイド。
「信じてるのか?さっきの話。」
佐藤が間宮に問いかけた。
「信じるかはともかく、面白い話だよ。上手くやれば記事にするのも問題ないだろうね。まんまと唯志君にやられた感はあるけどね。」
間宮は苦笑していた。
「それだよな。あの若さで・・・うちに欲しいな、彼は。鍛えれば良い探偵になりそうだ。」
佐藤は唯志を評価しているようだった。
「それならうちにも欲しいけど。」
間宮も同じように評価しているようだった。
「にしても未来人ね・・・。これから大変だな。」
佐藤と間宮はお互い楽しみな反面、先が思いやられる思いだった。
そして、拓哉光サイド。拓哉宅。
「疲れたね~。今日はありがとう。」
帰宅してリビングに腰掛けて早々、光は拓哉にお礼を述べた。
「いや、大丈夫だよ。今日は割と有意義だったね。」
拓哉は余裕のある大人の男を演じていた。なんで今更かは本人しかわからないが。
「でもごめんねタク君。不倫調査の手伝いとかすることになって・・・リーダーもだし。」
光は心底申し訳なさそうにしていた。
「いや、それぐらい大丈夫。それに岡村君はああ言ってたけど、俺は帰れるって信じてるから。安心して!」
拓哉なりに光をフォローしていた。
光も拓哉なりにフォローしてくれているのがわかったので笑ってお礼を述べた。
全く根拠がないのはわかっていたが、気を使ってくれているというだけでも嬉しかった。
そして、改まって真剣な表情で光が言った。
「タク君、これからもよろしくね。」
この一言と、この美女の笑顔だけで拓哉は人生で一番のやる気に満ちていた。
(明日からも頑張ろう。これからだ!俺はまだ本気出してないだけ!)
決意を新たにした拓哉であった。
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