第39話 探偵との対話5
その後は、唯志が中心になってこれまでの経緯を事細かに話していた。
いつの間にか合流している莉緒も含めて、6人でワイワイと話している。
だが、やはりというべきか、話の中心は光の未来話になっている。
拓哉は酒も飲めないので、一人隅っこで疎外感を感じていた。
そもそも大人数で飲んだり話したりが苦手だが、その上よく知らない人が3人もいる。
完全にアウェーな気分だ。
とりあえず話が落ち着くまで待つことに決め込んでいた。
ひとしきり経緯と未来の話が終わるまで、1時間以上経過していた。
ようやく話題が今後のことに移った。
「で、今後だけど、とりあえずタク君から朝田と不倫相手に関する情報提供からで良いかな?」
佐藤が拓哉に向かって話しかけた。
「え、ええ。そうなりますかね・・・」
なんとも歯切れが悪いが、拓哉も返事をした。
「君は朝田の件、どこまで知っているんだ?相手も知ってる人物なのかい?」
「ええ、別部署の川俣さんって女性ですよ。でも情報提供って何をすれば?」
実際のところ、拓哉はどんな情報を提供すればいいのかよくわかっていない。
「とりあえずは得られるだけの個人情報を・・・でもこういうのは最近うるさくて入手も難しいからね。本名と生年月日くらいでも十分だよ。」
「そんなもので良いんですか?」
拓哉は身構えていただけに拍子抜けだった。
「個人情報はね。あとは朝田の動向を教えてほしい。飲みに行く素振りがあるならすぐ教えてほしい。残業しそうとか定時で帰りそうとか・・・そういう情報は助かるね。」
「その程度で良いなら・・・何とかなると思います。」
拓哉はこれなら自分でも問題なくこなせると思い安心した。
元よりスパイさながらの動きも覚悟・・・というか妄想していたのだが、思っていたより地味な作業だった。
「並行して、夏美さんとやらも探しておくよ。でもあまり期待はしないでほしい。情報が少なすぎるから、望みは薄いよ。」
と佐藤は少し難しい顔をしながら言っていた。
佐藤が言う通り、期待しすぎない方が良さそうだ・・・と拓哉は思った。
情報が少なすぎるのは事実だ。
こんなの自分だったら断る案件だろう。
と、何故か拓哉は勝ち誇った様に胸を張っていた。一人で勝手に。
「こっちは色々調べて調査方針を考えておくよ。しばらく時間を欲しい。それと調査に行く際は同行をお願いする場合もあるかもしれないからよろしくね。」
今度は間宮が続けた。色々と準備をするようだ。
こっちの方が望みはありそうだ。
(だが、神隠し?そんなのから繋がるんだろうか。)
「だが正直なところを聞かせてほしい。神隠しからひかりんが帰れる手がかりがつかめると本気で思っているかい?こっちは記事になれば何でもいいんだが・・・」
間宮も拓哉と同じ疑問を持っていたようだ。横で頷いている佐藤も同様だろう。
光はハラハラした表情をしている。
「いえ、全く。正直あなた方二人を引き込むのが目的だったので。まぁでも何の手がかりも無いところから調べるよりはマシでしょ?」
唯志は全く動じてない様子だ。本当に最初から引き込むことだけが目的だったようだ。
「ぶっちゃけると帰る方法なんて俺らで見つけるのは無理です。これを解決するには情報量と人脈が足りなすぎる。その足掛かりとして理想的でしたよ、お二人は。」
唯志は何も悪びれることもなく言い放った。
少しは悪いとか思わないのか?と拓哉は思った。
実際のところ、この程度のことで悪びれる必要などないとは思うが、拓哉にとっては悪いことらしい。
「・・・一応現実は見えてるようだね。実際のところ君の言う通りだろうね。最後に聞きたいんだが、このタイムスリップは人為的なものか、自然現象かどっちだと思う?」
間宮は唯志と光に向かって話していた。
拓哉は蚊帳の外なことに内心憤慨していた。
「えっと、どういう意味ですか?」
光は質問の意図がわかっていない様子だ。
「自然現象だと思ってます。」
唯志はしっかりとした口調で答えた。
「そう思う理由は?」
唯志は少し沈黙していたが、ボソッとつぶやいた。
「・・・かぐや姫」
「?」
一同がぽかんとしていた。
「どしたの?かぐや姫が何かあるの?」
莉緒が心配したのか、唯志の顔をのぞき込んでいた。
「竹取物語ってみんなわかるよね?ひかりんもわかる?」
各々が肯定したり頷いたりした。
光も御存知なようで、どうやら未来でも一般的な話らしい。
「あの話って、今回の件と似てないか?光って人が出てきて・・・最後には月に帰るって。」
言われてみたら確かにその通りだと拓哉は思った。
(節々の細かい部分は違うけど、大筋の話は光ちゃんの件と近いかもしれない。)
周りを見るとそれぞれが頷いたり、なるほどとつぶやいたりと肯定的だ。だが・・・
「だけど、だからなんだい?」
拓哉が言うよりも早く、間宮が唯志に質問した。
(その通りだ。似てるからなんだってんだ?)
と拓哉も思っていた。
「竹取物語って作者不明なんだよね。」
「え?」
何人かが驚きの声を上げた。
拓哉自身、声は出さなかったものの知らなかったのでびっくりした。
言われてみたら作者については聞いたことがない。
(でもだからと言ってなんだというんだ?)
「俺はこの作者も未来人だったんじゃないかと思ってる。」
唯志が突飛な推論を言い出した。
そのまま唯志は理由について説明を続けた。
だが、拓哉は半分も理解していなかった。というか突飛な話過ぎて頭に入らなかった。
識字率がどうとか、当時の貴族がどうとか、現代に近い頃の人間だとしたらどうとか・・・
が、正直話を飛躍させすぎだと拓哉はあまり真面目に取り合っていなかった。
一方隣の光は真剣な表情で聞いている様子で、しょうがなしに『聞いてるふり』をしていた始末だ。
「というわけで、偶発的な自然現象じゃないかと思ってます。」
と、唯志はようやく当初の質問に回答を出した。
(根拠が薄いよ、根拠が)
と、拓哉はなぜか心の中で文句を言っていた。
自分は何も考えないのに、人には文句をつけるようだ。
「まぁ考察・・・というより妄想に近いですけどね。」
と唯志は締めくくった。
(ほんとだよ。与太話も良いところだ。光ちゃんもこんな話真剣に聞かなくても良いのに。)
と相変わらず文句ばっかりの拓哉であった。
だが拓哉とは違い間宮はまんざらでもなく、そして神妙な顔つきで唯志に向かい
「だが唯志君・・・だとすると・・・」
と、言っていた。
(だとすると・・・なんだ?)
拓哉は続きがわからなかったようだが、唯志が答えた。
「ええ、ひかりんが帰るのはかなり厳しいかと思いますね。」
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