第38話 探偵との対話4

「朝田部長・・・。もしや君は○×エンジニアリングの社員なのか!?」

佐藤は予想もしていなかった事態に驚きを隠せなかった。

いや、正確には狼狽えさせられた。


(あ、会社バレた。良いのか、これ。バレても。)

拓哉は会社がバレたことによる身バレを心配していて、どう返していいものか決めあぐねていた。


「あのな、もう良いだろ。タク君には特に悪い影響ないって。」

唯志が拓哉にフォローを入れた。

唯志のフォローなのが少し癪だが、拓哉は認めることにした。

「ええ、そうですよ。朝田部長は同じ事業部内なので、それなりに知っています。」

「だ、そうですよ。先ほどのあなたの反応で確信しましたが、あなたの今のターゲットの一人は朝田部長さんのはずだ。」


佐藤は(こいつ何者だ?)と考えていた。

どうやったらそこまでの情報が得られる。

(同業者・・・?だが、朝田を狙っている件は恵くらいしか・・・いや妻の方から・・・)


何も答えない佐藤に、唯志は説明を入れた。

「ああ、俺のはただの推測ですよ。監視カメラ映像にあなたも映っていた。不倫現場目撃についてはタク君に聞いてたし。それにタク君を探し当てるにしては早すぎる。タク君が目的じゃなく、『たまたま』見つけたが正解だと思いました。もう後は説明いらないですよね?」


佐藤はしばらく考え込んでいたが、口を開いた。

「君はずいぶんと頭が回るようだね。多分想像の通りだ。そして情報提供というのは、タク君から朝田部長と不倫相手の情報を貰えると解釈していいんだな?」

「タク君、良いよな?」

唯志は拓哉に確認した。


拓哉は考えていた。

ここまで全て唯志のシナリオ通り。しかも会社の上司にあたる人物の情報を売れと言われているのだ。

素直には受け入れたくない・・・と思っていたが。

「タク君、ダメかな?」

光に上目遣いでお願いされた。

この表情はダメだ。ずるい。童貞には破壊力が強すぎる。

「大丈夫だよ!俺に任せて!」

気づけば拓哉は即答していた。


「ということで、交渉成立で良いですよね?」

唯志は改めて佐藤に確認した。

「情報の質にもよるが・・・まぁ手の空いている時に金のかからない範囲でなら協力しよう。」

一応だが、佐藤の協力は得られた。


「で、次は私だよね?私にはどんなお願いが?念押しだけどホラー担当だからね。超常現象の情報少ないよ。」

横で黙って話を聞いていた間宮が待ってましたと言わんばかりに話し出した。


「簡単な話です。帰る方法を取材して調査してほしいんです。」

唯志はあっけらかんとして言い放った。

「いや、それは無理だよ。言ったように私はホラー担当だ。超常現象側は取材の許可が下りない。許可が貰えないとなると個人的に調べることになるが、そんな時間も金もないよ。」

間宮は即答で答えた。


(そりゃそうだろ。何度もホラー担当だって言ってたし。)

拓哉は呆れながら思っていた。


「逆に言うと、ホラー的な要素なら取材許可も下りて、正式に調査できるんですよね?」

唯志は念を押すように間宮に確認した。

「そうなるね。上を説得するのにそれなりの材料はいるが・・・ホラー絡みなら会社経費と勤務時間で調査可能だ。」

間宮もそれなら、と答えた。


「神隠し。御存知ですよね。これはホラー側の話題かと思っています。」

と唯志が言った。

「神隠し?それは確かにホラー要素だけど、何の関係・・・そういうことか。」

間宮も何かを察したようだ。

「どういうこと?」

光は話についてこれていない。

それは拓哉も佐藤も同じだった。


ぽかんとしている他3人と、後ろで聞いている莉緒に唯志が説明する。

「ひかりんのタイムスリップは神隠しの可能性もあると俺は思ってる。」

続けて間宮も話をする。

「つまり、この子は神隠しで未来から消え、こっちに現れたってことだよね?確かに、神隠しは消える方ばかりが注目されるけど、出てきた方って考え方は面白い。」


「それだったら取材出来ますよね?とりあえず当面は、神隠しが起こった噂や、神隠しで現れた側の調査ってことで。」

「確かにそれなら不可能じゃないね。それに着眼点も面白い。成果は得られなくとも記事には出来そうだ。」

唯志と間宮の間では話は纏まった様だ。どうやら間宮も協力してくれそうだ。

だが拓哉はますます面白くなかった。全てが『唯志のペース』で進んでいる。

光を見つけたのも、光を保護しているのも、探偵に呼び出されたのも全部『俺』なのに。


そんな拓哉はさておき、間宮は話を続けていた。

「ただ、一つ疑問があるね。それを聞かせてくれたら協力しよう。」

と間宮は唯志に向き直った。今まで笑っていた間宮は、今までで一番真剣な表情だった。


「佐藤は予め来るのを知っていた。予想できたのも提案もわかる。だが、オカルト雑誌記者の私は来てから知ったはず。神隠しって考えは元々考えていたことなのか?」

間宮の質問に光も同調した。

「あ、それ私も思った!唯志君いつそんなの考えたの。」

(確かに俺も気になる。)

拓哉も気になってはいたようだ。


「そんなの、今考えながら話してただけですよ。」

唯志は涼しい顔で答えた。


「思い付きだけでここまでの話を?」

間宮は驚いた表情で聞き返した。

「そうですよ。あなたの協力は何としても欲しいですからね。」

「呆れたよ。でも気に入った。出来る限りの協力はしよう。」

「ありがとうございます」「あ、ありがとうございます!」

つられて光もお礼を言っていた。


結局・・・こいつか。

主人公なのは、俺じゃなく岡村君なのか。

大団円に向かっている、和やかな雰囲気となったテーブルで、拓哉一人が暗い気持ちでみんなを眺めていた。

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