第37話 探偵との対話3

混乱のあまり、光を問いただし始めた拓哉。

しかし割って入ったのは唯志だった。


「俺が昨日見せたんだよ。」


唯志が割って入ったことで、光はホッとしていた。

拓也は何が何だか分かっていなかったが、とりあえず落ち着いた。


「君は?」

突然隣の席からやってきた唯志に佐藤が質問した。


「こいつらの友人ですよ。念の為隣で話を聞かせてもらってました。」

そう言うと唯志は光の横に腰を掛けた。


「なるほどね。なかなか周到だね。」

そういう間宮は相変わらず余裕の笑みだったし、佐藤も同じだった。

「で、君が話をしてくれるのかい?」

佐藤は急に現れた得体のしれない若者に探りを入れてきた。


「はい、良いですよ。この子がテレポーターかどうかでしたっけ?答えはNOです。未来人なので。」

唯志はあっさり答えた。

「は!?」「え?」

最初に反応したのは拓哉と光だった。

唐突にカミングアウトする唯志に二人とも声をあげてしまった。

この反応がほぼ答えになってしまうのだが、相手の二人も突然の告白にさすがに驚いていた。


「未来人・・・?さすがにそれはちょっと信じがたいかな・・・」

ここまで終始余裕の笑みだった間宮も、顔を引きつらせていた。


「・・・証拠はあるのか?」

佐藤は信じられないのだろう。証拠の提示を要求してきた。

或いは急に出てきた若者に主導権を奪われない様に苦し紛れで発したのかもしれない。

しかし唯志は余裕のまま特に変わりはない。

「勿論、俺たちだって信じるのに根拠がいるので。でも出させませんよ?理由は察してください。なので、信じるか信じないかはあなた方次第です。」

唯志は少し和やかな表情で淡々と述べていた。

「それよりも、テレポーターだったとしたら・・・まぁ結果的に未来人なわけですが。どうするつもりだったんですか?」

唯志は更に佐藤と間宮に話の続きを迫った。


佐藤も間宮もあっけにとられ、真意を探っていた。

完全に唯志に主導権を奪われていたからだ。

先ほどまではケツの青い若者から話を聞き出すだけだったのに、こいつは何を考えているのかわからない。

どこまで踏み込んで良いのか、値踏みしていて、答えられずにいた。


「あれ?難しい質問でしたか?話を聞きに来るのが主題だった気がするので、元々プランがあったと思ってましたが。」

唯志は飄々と追い打ちをかけている。

どこまで本気で言っているのか、拓哉や光も分かっていない。


「いや、もしテレポーターだったとしたら・・・取材をと思っていた程度だよ。自由に場所を行き来できる能力者。夢のようじゃないか」

間宮が質問に答えた。


「それはどこまで本気で?まさか本気でテレポーターと思ってはいなかったでしょう?」

更に唯志は質問を重ねる。

「・・・」

間宮も佐藤も黙り込んだ。


「実際のところ、半信半疑だったのは確かだ。だがあの不思議な発光事件。それとそこの彼女が何らかの関係があるかもって程度で話を聞きたかっただけに過ぎないよ。」

「ああ、名前知らないんでしたっけ。そっちのはさっき呼ばれた通りタク君。この子は光って出てきたからひかりん。俺は唯志とでも呼んでください。」

と、唯志は虚実を織り交ぜて自己紹介をした。

「しかし、話が聞きたかっただけか。それは未来人だとしても?」

「そうだね。面白い話なら・・・だが、証拠がないと厳しいな。それに私はオカルト記者とは言ってもホラー担当でね。実際のところ興味本位だけで動いているようなもんなんだ。」

と間宮が正直に打ち明けた。

「で、俺はこいつの友人で、たまたま発光現場に居合わせた探偵。特に思惑とか無いよ。」

佐藤も正直に打ち明けた。

二人とも腹の探り合いでは何も得られそうにないと悟ったのだろう。


「なるほど。正直に言うと、未来人の証拠はありますが出させませんよ。それでも信じて話を聞きますか?」

「『出させない』ってのはどういう意味で?」

間宮の他意の無い素朴な質問だった。

「悪用防止です。絶対に出させません。それでも信じられますか?」


間宮はしばらく考えたが口を開いた。

「わかった。信じるかどうかは別として、話を聞く価値はありそうだ。それにさっきも言ったけど、記者と言ってもホラー担当でね。正式な取材でもなければ、余程のネタじゃない限り記事にもしないつもりさ。」

間宮の正直な答えだった。実際のところ、間宮は超常現象側の記事を作る気は無かった。

同僚に手柄を渡すのも癪なので、記事になる事は無いだろうと思いつつも興味本位で来たに過ぎなかった。


「おっけーです。ならこちらも正直に情報提供しましょう。その代わり条件というかお願いがあります。二人ともに。」

と唯志は続けた。

(お願いってなんだ?聞いてないぞ)と拓哉は思った。

(お願い?なんだろ?)と光も状況を呑み込めてない。


「一応聞こうか。」

佐藤が答えた。


「まず、ひかりんの状況を教えます。この子はタイムトラベラーではなく、タイムスリップしてしまった子です。未来に帰る方法を探しています。」

周知の通りの事実だ。

だが、佐藤と間宮には初耳だ。

「何らかの事情で過去に来てしまって、帰れない・・・ってことだね?」

間宮が確認した。

「そうです。ですが、帰る方法なんてはっきり言って見当もつかない。その前段階の帰る方法に繋がる情報を探しているのが現状です。」

これも周知の事実だった。

光もうんうん頷いている。

拓哉は少し不機嫌そうだ。


「それで俺らにお願いというのは?」

佐藤が続きを催促した。


「まず、佐藤さん。この子の先祖にあたる人物が東京にいるっぽいんですが、探偵として調べられませんか?」

唯志は初めからこれを狙っていたのだろう。

拓哉はやっと話が見えてきた。

昨日の時点で話し合いを押す理由はこれだったのだ。

(事情の分かる探偵を捕まえたかった・・・その為の値踏みに俺と光ちゃんを『利用した』んだ。)


少し悪意のある解釈をしているが拓哉の考えは正しい。

唯志の狙いは初めからそこにあった。

普通の探偵の場合、依頼金額もそうだが、依頼内容の説明にも「未来人」が絡むせいで難しい部分がある。

この飛んで火にいる探偵は絶好のチャンスだったのだ。


「それを調べてどうするんだ?」

唯志は佐藤に調べる必要性について、これまでの経緯を正直に説明した。


「・・・なるほどね。考え方はわかった。しかし正式な依頼なら高額になるよ?」

佐藤としても遊びじゃない。当然そうなる。

「ですよね。それに確率も高くない。だから片手間の出来る範囲で・・・ついでにこちらからも別の情報提供するって条件でタダでやってもらえませんか?」

「情報って・・・俺が欲しい情報を君が持ってるとでも?」

佐藤は少し呆れながら聞き返した。


「いえ、俺は持ってません。タク君。君が先日梅田で見た不倫上司、名前なんて言ったっけ?」

唯志は急に拓哉に話を振ってきた。

拓哉も予想外だったので、反応が遅かった。

「え・・・、え?えっと・・・朝田部長の話?」

(この話に何の意味が?)と拓哉は思った。

が、正面に座っている佐藤の反応は予想外のものだった。


「朝田部長・・・。もしや君は○×エンジニアリングの社員なのか!?」

拓哉も佐藤も、予想していなかった繋がりが線の様に繋がった。

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