第36話 探偵との対話2

尼崎のとある駅前、雑居ビル内の大手チェーン居酒屋。

現在拓哉たちと佐藤・間宮が対峙している場所だ。

とりあえずと言い、佐藤と間宮もビールを注文し、届けられたところだ。


「あの!佐藤さん!良いですか!?」

拓哉が語気強めに佐藤に言ったが、佐藤は「とりあえず乾杯しようか」と余裕の表情だった。

完全に拓哉の勇み足だ。


「で、何かな?と、その前に二人も自己紹介してくれないか?」

ジョッキを机に置いた佐藤が拓哉と光に自己紹介を促した。

(げ・・・本名言わない方が良いって言われてたっけ。)

拓哉は内心焦っていた。なんと言おうか必死に考えていた。

光も内心ドキドキしながら無理やり興味ないフリを続け、拓哉の答えを待っていた。


「えっと、匿名希望・・・で。まだお二人のこと信用できる段階じゃないので・・・」

必死に考えて出した回答だ。これでこれ以上追及もしずらいはず、と考えた。

「じゃあ私も匿名希望で!」

光も続けた。

(これで良いよな?どうなんだ?)

「はは、まぁ良いか。適当に偽名使われるよりは十分な『答え』だよ。」

と間宮という男が笑っていた。

「そうだな。まぁ呼びづらいけど、問題ないよ。我々を信用出来たら名前を聞こうか。」


(『答え』?何のことだ?)

拓哉の選択した匿名希望は正解の様で、そうでもない。

察しが良いのか経験からか、『匿名希望』という単語だけで何か秘密があることが筒抜けだった。

拓哉はそんなことにも気づきもせずに話を続けた。


「佐藤さん、僕の家やこの子のことなんて何も知りませんよね?先日の話はカマをかけただけだ!」

拓哉は相変わらず語気強めで佐藤を一気に攻め立てた。めっちゃ早口で。

(どうだ?こっちはここまで察しているということが示せたはずだが・・・)


その時、唯志サイド。

「あーあー、いきなりそれ話しちゃったよ。てか、めっちゃ自分からしゃべるし。」

「タク君余裕ないね。まずそう。」

莉緒は言葉の反面楽しそうだ。

唯志もまんざらでもない様な表情であった。


場面戻って、拓哉サイド。

佐藤はあっさりと認めた。

「うん、そうだよ。君の動揺っぷりで十分答えてもらったけどね。」

佐藤はケロッとした表情をしていた。反面拓哉は引きつっていた。

(何?俺の反応でバレたの?こいつコ〇ン君か何かかよ!くそ!誘導尋問だ!)

顔は引きつり、汗だくで、更に頭の中では余計なことをごちゃごちゃ考えていた。

だが主導権を譲るまいと必死に抵抗(?)した。


「だからと言って、何かがわかったわけではないですよね!?僕の家や、この子の『正体』とかわかるわけがない!」

もはや焦りすぎで自分でも何を言ってしまっているのかわかってい無さそうだった。

一方で、隣の光は平静を装いながらも動揺しまくっていた。

yarnのグループチャットで唯志、莉緒に相談してはいるが、唯志が「大丈夫だろ」と言っているのでとりあえず様子見している状態だ。


そして拓哉の話は続いていた。

「そして僕たちはあなた方二人の正体を知っている!探偵と記者ということも、本名も!」

(そうだ。こっちのことはあまりバレてないけど、相手のことはわかっているんだ。優位はこちらのはず。)

何の優位に立っているのか、拓哉本人も分かっていないが現状はまだ優位だと自分に言い聞かせていた。

「ははは、君面白いね。そりゃあ二人とも名刺渡したんだから知っててもらわないと困るよ。」

一方で佐藤は相変わらず涼しい顔だ。

一方的に墓穴を掘っていく拓哉をしばらく眺めていた方が得策だと考えたんだろう。

好きなように喋らせて情報を聞き出そうとしている。

流石に光でもそれに気づいたので困っていたが、唯志の返事は「好きにさせて良い」だった。


実際のところ拓哉自身、今の自分の状況が良くないのは気づいていた。

頭がぐるぐる回ってまともな会話になっていない。これでは情報を引き出せない。

(ダメだ。俺上手くやれてない。)

拓哉は観念して相手の話を聞くことに方針を替えた。

「つまりですね・・・その上で・・・あなた方の目的、というか聞きたい事は何ですか?」

さっきまでの勢いはどこへやら。急に弱弱しい口調で何とか絞り出した。

「あ、こっちが話して良い番かい?」

間宮の方が笑顔で答えた。こちらも余裕がある。

拓哉は無言でうなずいた。そのまま下を向いて項垂れてしまった。

余裕があり、自分より一回りは年上であろう男二人組に拓哉は完全に萎縮してしまっている。


「じゃあ、直球で聞くよ。そちらのスマホいじってる彼女。彼女はテレポーターか何か、似たような事情があるんじゃないか?」

間宮が宣言通り、ど真ん中のストレートをぶち込んできた。

推測はテレポーターのようだが、何にしても光の正体を疑われている。

二人は動揺を隠しきれていなかった。

「な、なんでですか!!そんなわけないじゃないですか!?」

拓哉は動揺のあまり大声で反論した。


光も焦って唯志に連絡を入れた。だが、唯志からは「もう少し様子見でOK」と返事が来た。

(本当に・・・大丈夫?)

光は内心心配で心配でしようがなかったが、唯志に言われた通り様子見を覚悟した。


「そんな非現実的な!ありえないでしょ!」

(テレポーター!?未来人とはバレてないけど、光ちゃんのこと完全に疑われてる。どうしたら良い!?)

拓哉は自問自答するが、全くいい考えが浮かばない。


「はは、非現実的は確かにね。でもこの映像を見てもそう言えるかな?実際に現実で起こった映像だよ。」

間宮はノートPCを広げ、毎度恒例先日の監視カメラ映像を見せてきた。

拓哉以外の面子は全員一度は見ている映像だ。

だが、拓哉だけは初見だったので、拓哉は衝撃を受けていた。

(なんだこの映像・・・なんでこんなものが・・・これじゃ光ちゃんが突然現れたのが丸わかり・・・)

「何なんですか、この映像は・・・?合成とか・・・加工したものなんじゃ?」

拓哉は必死に否定の言葉を並べてみた。

しかし「残念ながら、全世界にライブ配信されてる監視カメラ映像だよ。加工技術もないしね、俺。」

とあっさり否定された。


「この光った現象と、突然現れた女の子のことを調べてる。明らかに怪しいからね。」

と佐藤が続けた。

「それにしても、そちらの彼女。この映像見ても全く動揺しないね。彼の方は明らかに挙動不審なのにどうして?」

間宮は光が動揺していないことが不思議な様だ。

だが光がこの映像で動揺していないのは当然だ。

「だって私、この映像見たことありますからね。初めて見た時は驚きましたけど。」

と光は答えた。答えた後に(あ、答えちゃった。)と気が付いた。

が、この答えに一番驚いたのが拓哉だった。

「え?なんで!?これ見たことあるってどういうこと!?」

拓哉は光の答えに理解が追いついていなかった。

理解できないから畏れ、自分を騙しているのかと疑い始めてしまった。

「どういうこと!?いつこれを見たの!?というかなんで気づいたの!?」

頭で考えるより先に光に問いただし始めた。

拓也のあまりの剣幕に光はたじろいでいた。

「タク君…ちょ、落ち着いて。」


拓也の代わりようと勢いに佐藤と間宮も慌てて止めに入ろうとしたが…


「俺が昨日見せたんだよ。」

割って入ったのは唯志だった。

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