第35話 探偵との対話1

2021年6月15日火曜日

時刻は18時。

場所は拓哉の最寄り駅近くの雑居ビル前。


唯志と莉緒が待ち合わせ場所で待っている。

拓哉に告げた待ち合わせ時間は17時50分だったが、案の定遅れている。

まぁ遅れることを想定して予定より10分早い時間を告げたわけだが。

遅れること10分。予想通りの時間に拓哉が来た。

しかし、こいつには危機感とか責任感は無いのかと唯志は思っていた。

付き合いは数年になるが、真面目そうな雰囲気を出してる癖に何故かルーズ。

唯志から言わせてもらえば真面目系クズの典型だと思っていた。

本当に理解に苦しむ感性だ。


拓哉と光が到着するなり、光が謝ってきた。

「遅れてごめんなさい!待ちましたよね!?」

時間にルーズで悪気もない拓哉と違い、光はその辺りの感覚はまともな様だった。


「いいよ、遅れる前提で考えてるから」

「らしいよー」

唯志は最初から計算しているようだし、莉緒はまったく気にしていない様だった。

怒った方が拓哉の為になるとは思うが、経験から唯志は諦めている。

無駄なことに労力を使いたくないんだろう。


「それにしても、18時半待ち合わせなのに、なんで30分も早く集合するの?」

拓哉が素朴な疑問を口にした。時間にルーズな癖に時間にうるさいから質が悪い。

「唯志君のことだし、なんか考えがあるんでしょ?」

光はこの短期間で唯志を信じ切っている様子だ。

・・・当然、この状態に拓哉は良い気がしていない。口には出さないけど。


「大して考えてるわけじゃないよ。でも一応作戦の打合せと、店には先に入っておきたかったからね。」

と唯志は説明した。

「先に?なんで?」

拓哉は気持ちムッとしている感じだ。

「お前ら二人が先に入って探偵を待つ。俺らはその横の席で様子見しながらスタンばっておく。雲行きが怪しかったら俺が割って入るか、莉緒が警察に通報。OK?」

「あーなるほど。」

「なるほどね。」

光と莉緒が感心している。拓哉は無言だ。

「相手の出方がわからないからな。ちょっと様子を見るさ。あと、ひかりんに頼みがある。」

「なんですか?」

「yarnで俺と莉緒とグループチャットしておこう。探偵との会話中。なんかあったらそっちでメッセージ送って。」

「ラジャー!でも、ずっとスマホいじってて失礼じゃないですかね?」

「今どきの女の子ならあり得るから大丈夫。その代わり探偵との会話に興味ない雰囲気だけ出しといて。」

どうやら光をメッセンジャー役にする様だ。


ということは・・・

「メインで話すのは俺ってこと?」

拓哉は納得がいっていない様子で唯志に聞いた。

「そりゃそうだろ。他に誰がいる?」

「マジかよ・・・」

拓哉は人との会話が苦手だった。慣れている相手なら良いが、初対面の相手と器用に話せるタイプじゃない。

一気に不安になった。

「なんで俺が・・・」

愚痴る始末だ。

「まぁ頑張れよ。ひかりんの為だ。」

唯志は拓哉を諭すように言った。

「でも、失敗したらどうしよう?というか何を話して、何を聞き出せば・・・?」

この通り、拓哉は当事者という感覚が薄い。

いや、未だに学生感覚で生きているといった方が正しいだろうか。

誰かがやってくれる。誰かが指示をくれる。

自分自身で何かを考えて、何らかの結果を出す。

そういう経験も無ければ、考えも希薄だった。


グチグチと言っている拓哉を見かねて唯志が口を出す。

「まぁとりあえず、吉田もひかりんも本名出すの禁止。それと未来人の件とかは話さない。たまたま発光現場に居合わせた友人同士って体で話を進めておけ。そしたらあっちからなんか動くだろ。動いた後はこっちで判断するわ。」

唯志の言い方は半ばあきらめた感じだった。

拓哉がこんな感じなのは多少予想はしていただろうが、光のこともあって少しは男らしく、大人な対応をするかと期待していたのかもしれない。

だが、拓哉本人は相変わらず学生の頃のままで少しがっかりしただろう。


「大丈夫!私も横にいるんだし、いざとなったら唯志君たちもいるよ!頑張ろう!」

光が笑顔で拓哉を鼓舞した。いや、見かねて励ましたのだろうか?

だが、さすがに拓哉も覚悟を決めなければならないとわかり

「わかった。やれる限りやってみる。」

と言って店に向かって歩き出した。

「あ、後から人来ることちゃんと店員に伝えておけよ。それと席番号探偵にショートメールな。」

唯志がそう伝えると、「わかった」とだけ告げた。

その後も唯志から何点か注意事項を聞かされた。

一応聞こえてはいたし、頭には入ったが、返事は「わかった」と上の空だ。


拓哉は『頼りになる唯志』に内心納得がいっていない。

自分だってそれぐらいのことはわかるってことが何個かあったこともあるし、

自分だって頑張れば唯志くらいの作戦や行動が出来る。

たまたまここ数日で出来ていないけど、そのせいで光の評価が「唯志>拓哉」になってしまっているのが納得いかない。

(たまたま岡村君の得意な話題が多かっただけなのに。俺だって・・・)

拓哉はそんな思いを胸に抱えながら店に入って行った。

光をそっちのけで。余裕がなくなりすぎている。

「ひかりんもきをつけてねー。」

「危なくなったらすぐSOSだせよー。」

そんな光を莉緒と唯志が見送った。


5分後、唯志と莉緒が店に入った。

席を選ばせてもらい、拓哉たちの横で且つ、探偵側の話が聞きやすく、入ってきた探偵を見える位置に陣取った。


18時半。

約束の時間だ。

探偵ともう一人来ると聞いているが、まだ現れない。

「呼び出した側なのに時間通り来ないとはね。社会人失格だね。」

拓哉が自分のことを棚に上げて言っていた。

「まぁ気長に待とうよ。」

そう言った光はというと、yarnのグループチャットで莉緒と会話していた。


その時、店の入り口側から二人組の男が現れた。

佐藤と間宮だ。

二人は唯志たちの横を通過して拓哉の待つテーブルへと向かった。

唯志は、すぐにタブレットを出し、先日の映像を確認した。

「へぇ・・・」

唯志はニヤリと笑っていた。


佐藤と間宮は拓哉から事前に連絡があった席へと腰掛け、拓哉と光に挨拶をしていた。

「やあ、時間を作ってくれてありがとう。こっちは雑誌記者の間宮だ。」

「雑誌記者の間宮です。主にオカルト関係を担当しています。」

そういうと間宮は名刺を差し出した。

こういう情報は逐一光から唯志に報告されている。


当の光はというと、必死に不愛想キャラを演じていた。


「雑誌記者さん・・・△△出版ですか・・・」

拓哉は名刺の名前を読み上げながら、頭をフル回転して考えていた。

(オカルト記者が出てくるってことは何か察されてる気がする・・・俺が情報を聞き出して有利に進めないと!)

拓哉は唯志への対抗心なのか、自分一人でも情報を聞き出すと意気込んだ。


拓哉と探偵、雑誌記者の対決(?)が始まった。

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