第27話 話し合いの終わり
そろそろお開きだろうな。
さすがに今日はもうこんなもんで良いだろ。
そう思って拓哉はそそくさと残っている食べ物などの処理を始めた。
余るのはもったいないし、食べてしまおうという魂胆だ。
しかし、野村と唯志は残った飲み物をのんびりと飲みながら会話をしている。
光と莉緒は何やら女子トークで盛り上がっていた。
このままだとグダグダ長引きそうだ。
明日からのことも考えないといけ無し、そろそろお開きにしたいんだが・・・
そう思って口を開こうと思ったが、ふとさっき思ったことを思い出した。
「そう言えば岡村君、光ちゃんに過去の競馬の結果とか、上がる株とかそういうの聞かないんだね。」
拓哉はてっきりそういう話もあるものと思っていただけに素朴な疑問だった。
「あ、それ良いね。俺も知りたいかも」
野村も乗っかってきた。
ただ、唯志は呆れたように言った。
「お前な、100年も前のそういうの知ってると思うか?俺だったら知らんぞ。」
(言われてみたら・・・御尤もだ。)
「そういう話ならわかりませんよ!」
光が胸を張りながら答えた。こうやって見ると結構胸がある。
いや、脱線した。
胸を張るところじゃないだろ。
「な?だそうだ。」
唯志も追従した。
その会話が終わったところで莉緒が光に提案してきた。
「ひかりん、明日って何するの?暇なんだったらあたしの所に遊びに来る?」
どうやら遊びのお誘いの様だ。
「タク君明日は仕事でしょ?ひかりん一人じゃまだ色々不便じゃない?今日の続きで色々現代のことレクチャーするよ。」
確かに、明日から日中は光一人を残して仕事に行く必要がある。
合鍵を渡すつもりではいたが、まだ何かと不安がある。
それに日中自由に動き回れるほど光は現代に慣れていない。
スマホも今日渡されたところだ。操作もまだ慣れていないだろう。
この申し出は拓哉にとっても何かと助かる申し出だった。
「私はありがたいんだけど、タク君どうかな?」
光も拓哉に聞いてきた。
「良いんじゃない。明日の朝、俺と一緒に家を出て、莉緒さんのところ行ったら?駅までは案内するよ。」
「その後はこちらにお任せー。梅田で待ってるし、迷ったら連絡くれたら助けに行くよー。」
「じゃあ、お世話になろうかな。莉緒さん明日は何もないんですか?」
「うん、明日は休みの曜日。目的地は・・・ここら辺だよ。」
莉緒が地図アプリで明日の目的地を教えていた。・・・のだが。
「おい、それ俺の家じゃねーか。」
唯志が突っ込んだ。
「うん。だって今日泊まるんだし、唯志の部屋の方が広いし色々便利じゃん。」
唯志はやれやれといった表情で、それ以上は追及しなかった。
恐らく普段からこんな関係なんだろう、羨ましい。
「まぁ今日はこれくらいにするか。吉田も帰ってからもまだ色々あるだろ?」
「うん、まだやることいっぱいあるね。光ちゃんが良ければもう帰ろうか。」
拓哉の一言に、光もその他も皆がそれぞれ肯定的な動きをした。
こうして長かった話し合いが終わった。
帰る前に唯志が拓哉に、莉緒が光にそれぞれ何かあったら連絡する様に告げていた。
そしてそれぞれが帰路についた。
帰りの道すがら、明日の莉緒との待ち合わせ場所などを案内しながら阪神電車で尼崎まで帰った。
家に帰る途中のコンビニで明日の朝ごはんの軽食を買って帰る。
拓哉は朝食を摂らない派だったが、光がいるのでそういうわけにもいかない。
ついでに光の買い物の練習にもなるし、一石二鳥だとか思っている拓哉であった。
そうしてようやく自宅についた。
昨日今日と連日慌ただしかったので、全然休んだ気がしない。
連日こうやってプライベートで忙しくしていたのは学生時代以来かもしれない。
慌ただしくはあったが楽しかった。
社会人になって、日常生活で何も無かった拓哉にとっては充実した土日に満足感があった。
めっちゃ疲れたけど。
光に先にお風呂に入ることを促すと、買ってきたパジャマやら何やらを用意し始めていた。
そういえば唯志に光のものを纏めるスペースと棚か衣装ケースでも用意しろと言われていた。
光がお風呂に入っている間にカラーボックスか何かを空けておくか・・・
(明日は仕事か・・・)
いつもなら憂鬱で項垂れてるか、ネットで愚痴ってる時間だったが、今の拓哉にそんな余裕すらなかった。
人間時間に余裕があれば不満や不安など余計な感情が出てくるものだが、余裕が無ければ意外と精神面は余裕が出るものだ。
(それでも肉体的な疲労は計り知れないが。)
(そう言えば・・・)
無駄なものを押し込んでたカラーボックスを整理して、光用に用意しながら拓哉はふと思い出した。
(朝田部長の不倫現場、目撃したんだったな。すっかり忘れてた。)
まだ昨日の昼間の出来事だったはずだが、まるで数週間前の出来事の様だ。
それくらいこの2日間が濃密だった。
成り行きとはいえ、女の子と同棲しているのだ。
昨日の昼までには考えられない展開だ。
なんかあまりの展開に、少し大人になった気さえした。
もうすっかり『大人』な年齢だけども。
「とりあえずこんなものか?」
考えてる間に光用のスペースが出来た。
「出たよー!」
そう言ってる間に、光も出てきた。
「あ、ここのカラーボックス・・・」
言いかけて光の方を向いた時、拓哉は絶句した。
光はお風呂上がりで、パジャマだった。
ただそれだけなんだが、拓哉には刺激が強すぎたようだ。
(なにこれ、美人のお風呂上りパジャマってやばない?)
可愛すぎて声を失ったようだ。
「カラーボックスがどうしたの?」
当の光はそんな拓哉の考えてることなどいざ知らず、無防備ににっこりしながら聞き返してきた。
「あ、えっと、このカラーボックス。とりあえず光ちゃんの物とか保管できるように空けておいた。」
「おー、ありがとう!そういうの助かります!気が使える男子はポイント高いねー」
光はとても嬉しそうだ。まぁ唯志に言われたからやっただけだが、それは黙っておこう。
(岡村君、サンクス)
「あ、そうだ明日だけど、7時くらいに起きて仕事の準備とか朝食にするけど良い?」
「おっけー!」
「それから、8時くらいに家出るけど問題ない?」
「うん、いいよ~」
なんかあっさりと予定が決まった。
「一人で行けそう?」
「うん、大丈夫!慣れなきゃだし、いざとなったら莉緒ちゃん頼るよ。」
「うん、よろしくね。」
「あ、そうだ。タク君、yarn(注)のアカウント教えてよ。」
(注)前にも出てきた、この世界のLI〇Eみたいなやつ。
そう言われて拓哉は気が付いた。
色々ありすぎて忘れてたが、肝心の拓哉が光と連絡手段が無いのだ。
「あ、うん、忘れた。QRコード出すから読み取って」
「えっと、確かこれで読み取るんだよね・・・出来た!これでタク君とも連絡取れるし安心だねー」
「うん」
あっさりとした返事をしたが、拓哉は生まれて初めて女性の連絡先を登録したことで、何とも言えない幸福感を味わっていた。
拓哉は今が一番幸せな時間だと思うくらい有頂天になっていた。
中学生かよって思うかもしれないが、彼女いない歴=年齢の成人男性にとってはそれくらいの出来事なのだ。
その後は拓哉が風呂に入り、疲れ果てていた二人は、なんとなく早く寝ようという雰囲気になり、
22時ごろには二人とも就寝していた。
こうして拓哉にとっての激動の土日は幕を下ろした。
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