第28話 月曜日

2021年6月14日月曜日

時刻は朝の7時。

スマホのアラーム機能で拓哉は目を覚ました。

本来なら7時半に起床するのだが、朝食を食べることと光を駅に送ること。

この二つのイベントがあるので、30分ほど早く起きた。


起きてリビングに行くと、既に光が起きて、着替えも済んでいた。

「おはよー!」

元気そうだ。

「おはよう。早いね。7時で良かったのに。」

と拓哉は何気なく言った。

「女子は色々あるんですよー。」

配慮が足りてなかったようだ。


よく見ると、昨日買ったコンビニのおにぎりやらサンドイッチやらが食卓(ただのテーブル)に並んでいた。

(起きて、多少化粧とかもしたのかな?それに着替えて、準備もしてくれてたのか・・・)

さすがの拓哉も自分の気が利かなさに気づいた。

光はそんなにがっつり化粧をする方でもないが、それでも男性の様に何もしなくていいわけでもない。

顔を洗って多少身だしなみを整えたり、色々あるだろう。

そういう部分を全く考慮していなかったことに情けなく感じた。


「朝ごはん食べよー」

当の光はまったく気にしてない様子で朝食をとるように促してきた。

拓哉はおにぎりを二つ。光はサンドイッチだ。

「こういうのって昔からあまり変わってないんだねー。味もあまり違いがわからないよ」

「未来でもおにぎりとかサンドイッチとかなんだ?」

「そうだね。包んでるやつがもっと簡単に外せるけど、中身は似たようなものだね。」

100年経っても食はあまり変わってない様だ。

そもそもこの辺の定番商品は100年前からあるやつばかりだし、そりゃそうか。


「でもコンビニは全然違うけどね。」

と光が続けた。

「コンビニが違うの?どういう風に?」

「未来じゃ商品なんて並んでなくて、端末がある個室が4個くらいあるだけだよ。端末で商品選ぶと、それが出てくるって感じ。当然無人。」

未来凄いな。と拓哉は素直に思った。

「でも商品見ないと選びづらくない?」

「そうかな?あまり思ったことないね。コンビニ用のアプリとかあってね、行く前から選んでおけるし、すごく楽だよ。」

そう言われると、凄く楽な気がした。

家で商品を選んでおいて、店に着いたら出てくる。会計のみ。しかも無人。

楽過ぎる。

早くその時代になればいいのに。

「それは良いね。そういうシステムってどれくらい先からになるんだろ?」

「どうなんだろうね。確か私の時代の大半のシステムってAIが開発したものだった気がするから、AI最盛期の頃じゃない?」

(それは具体的にいつなんだ?昨日の話でなんて言ってたっけ・・・)

昨日の話が具体的に思い出せない拓哉は、結局あやふやなままでこの会話を終えた。


8時前。顔も洗ったし、着替えた。光の方も準備はよさそうだ。

そろそろ家を出ようかと考えていた。

「タク君、スーツだと少しかっこいいね!」

光が褒めてくれた。

(これはお世辞か?判断に迷う。)

「ありがとう。初めて言われたよ。」

「またまたー。昨日までのタク君と見違えるようだよ。」

(お世辞か?お世辞じゃないのか?わからん!)

「・・・とりあえず、家を出ようか!」

これ以上会話を続けると精神的にもちそうになったので、そそくさと会話を切り上げ、家を出ることにした。

(こういうの慣れないとモテないよな・・・)

そういう自覚はあった。


光を駅まで送った。

というより、拓哉も電車通勤だ。

同じ駅まで一緒に入った。

拓哉は数駅なので各駅停車。光は梅田まで行くので特急に乗る。

光を特急のホームまで送って、自分は各駅停車側のホームに向かった。

途中会社の同僚や見たことある人が何人かいたので、細心の注意を払いながら見送った。

光の方の電車が早く来たので、あまり目撃された形跡はなかった。

・・・少しだけ目撃されたい衝動もあったが。


そして自身も各駅停車の電車に乗り込み、会社へと向かった。


会社に着くと、満面の笑みの朝田部長に出会った。

コミュニケーション能力の高い人で、月曜日の憂鬱な朝から色んな人と会話を繰り広げていた。

どうやら会話の内容は昨日の梅田での発光のことのようだ。

「なんか梅田で凄い光ってびっくりした―。あれなんやろ?見たことない光やったわー。」

大声で言っているのでこちらまで聞こえてきた。

よくもまぁ、不倫中に遭遇した出来事をべらべらしゃべるものだ。

リスクとか考えないのか?

リスク管理の大切さを普段プレゼンしてるのに。


そして拓哉の『つまらない』仕事が今日も始業した。


拓哉はエンジニアだ。

エンジニアって言うと、SEなどプログラマーを思い浮かべる人が多いかもしれないが、それは正しくもあり、間違いでもある。

本来の意味では技術者のことである。

拓哉はそちら側の人間であった。

詳しい話は割愛するが、設備などの設計を担当していた。

要するにデスクワークメインだ。

だが、設計したものを実際に動かしてみたり確認が必要な為現場に出る必要もある。

技術畑の何でも屋の様なものである。

決してプログラマーなどではない。

今日の仕事は設備の客先仕様に応じた設計を進めることだった。


案の定、全く身が入らなかった。

今光は何をしているのか。

無事に莉緒と合流できたのか。

今日はどんな会話をしたらいいのか。

そんなことばかりが浮かび、本日の仕事は全くはかどっていなかった。

いっそ本人にyarnでメッセージを送って聞けば良いのに、なぜかその度胸は無かった。

女性にメッセージを送るのを躊躇っているのである。

そんな風に悶々としながら定時までの時間が過ぎていった・・・

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