第25話 話し合いの続き
合流はスムーズだった。
唯志と莉緒は息が合っていて、気が付いたら合流できていた。
阿吽の呼吸とでも言うのだろうか。
そんなにやり取りしていたわけでもないのに、迷うことなく合流できた。
「もう買い物は十分か?」
唯志が莉緒に声をかけた。
「多分。足りなかったらまた買いに行けばいいよ。私も付き合うし。」
と莉緒が答えると、
「こんなにたくさんありがとうございました。本当に助かりました。」
と光も唯志にお礼を言っていた。
「気にしなくていいよ。それより次の店もその辺の居酒屋で良い?」
唯志はそう聞きながら、いつの間にか二人の荷物を受け取って持っていた。
何こいつ、マジ男前じゃね。
そのまま次の店も個室のある居酒屋になった様だ。
しかし本当に酒好きだな、こいつ。
しかも全くシラフと変わらないし。
店に入り、全員分の飲み物と簡単な食べ物がそろった段階で唯志から男性陣側の話について要点だけ説明があった。
要するに、今後の方針としてどこに帰るべきかまず考えるべきだろうって件だ。
「で、ひかりんにこれ埋めれるだけ埋めて欲しいんだけど。」
唯志はタブレットにトーナメント表の様なものを書きだした。
(なんだこれ?ベスト16?)
「これなんですか?」
光からも当然の様に質問が出た。
「ひかりんの家系図。覚えてる範囲で名前と、未来で生きてたとしたら何歳かがわかるといいな。」
「これが何になるの?」
今度は拓哉から質問した。
「俺の想定では、この8人の所。曾祖父母辺りならもしかしたら存命かもなって思ってんだ。」
「まぁひいおばあちゃんとか生きてても不思議じゃないね~」
野村が相変わらずのんきに言っている。
「存命ってのは、今この現代でな。」
「あっ!」
光と莉緒が思わず声を出したが、全員が驚いていた。
考えてみたらその通りだ。
光の時代と現代の年の差は99年。ということは生まれてから100年を超える人は、現代で既に生まれているのだ。
それも、現代では確実に存命している。
「更にその上の世代となると、この現代じゃ俺らと同世代かもな。名前と年齢、出身地がわかれば或いは・・・」
「確かに・・・それなら俺達でも調べられそうだし、光ちゃんと現代の繋がりも」
と拓哉が話していたが、唯志に遮られた。
「そう簡単な話じゃないぞ。」
と唯志は自分で言いだしておいて否定した。
「なんで?それだけの情報があれば今の時代ならもしかしたら・・・」
「『わかれば』な。ひかりん、どう?」
と唯志は光に問いかけたが、光の表情はあまりさえなかった。
光が言うには祖父母の代は名前も年も分かるけど、その上となると父方の曾祖母しかわからないとのことだ。
未来で存命しているのが曾祖母だけで、他は接点が無いからわからないと。
さらに上の代となると全く知らないとのことだった。
「だろうね。俺なんてばあちゃんの下の名前も年齢も知らんし。ダメ元で聞いただけだ。」
ただ、朗報もあった。
その曾祖母は御年102歳で存命だそうだ。
現代では3歳ということになる。
更に東京生まれ東京育ちで23区外らしく、名前は結城 夏美(ゆうき なつみ)というらしい。
残念ながら旧姓はわからないそうだが。
ついでに誕生日も分からないそうだ。
「せめて旧姓か誕生日がわかればなー。」
莉緒が言った。
「でも、東京23区外で今3歳の夏美って子ならまだ探せる余地はあるね。」
拓哉が少しやる気を出したようだ。
「せめて東京以外だったら良かったんだが。どっかの田舎がベストだったな。」
唯志がつぶやいた。
「なんで?」
野村が聞き返した。
「東京じゃ人が多すぎる。だが夏美か、まぁ7月か8月生まれだろ。」
そう言って、唯志は少し考え込んでいる。
「そこまでわかってればSNSとか使ってわかる可能性も少しだけあるねー」
流石に野村でも希望が見えてきたらしい。
何も手掛かりなし状態だったのだ。
光や莉緒もほんの少しでもやれそうなことが見えてきて、心なしか表情は明るかった。
険しい顔をしていたのは唯志だけだった。
「唯志、なんか問題ある?」
莉緒が心配して声をかけた。
「いや、とりあえずそっちは並行して進めよう。正直望みが薄い。探偵でも使えれば良いが、金がかかりすぎる。」
実際のところ、現状の情報で素人が調べられる可能性は皆無に近かった。
せめてその親世代の情報があれば希望も見えるのだが。
闇雲に調べるよりは幾分かマシな程度だ。
「で、ひかりん。次ね。近く出てくる名前の残る人間とか事件とか覚えがない?」
唯志が次の質問に移った。
(これは核心を突くやつだな。)
流石に拓哉でも質問の意味も目的も分かった。
他の面々も察したようで光の答えを待っていた。
むしろ何故こんな簡単な質問に誰も気づかなかったのか。
回答次第では一気に光と現代の繋がりを証明できる。
(岡村君も先にこの質問したらよかったのに。なんで後回しにしたんだろう。)
拓哉はそう思った。
だが、唯志は相変わらず険しい顔だった。
「うーん、正直あまりわかりません。」
光が答えた。
「だよな。俺もこの質問はあまり乗り気じゃなかった。」
唯志も納得したように言っていた。
「え、なんかないの有名人とかさ。」
拓哉は再度考えることを促したが、
「じゃあ吉田、99年前に名前を残す人物か事件って思いつくかお前。」
と唯志に質問された。
「・・・」
拓哉は何も答えられなかった。
「この質問は簡単そうに聞こえるけど、答えがムズ過ぎるんだ。」
と唯志が拓哉を代弁して答えた。
「事件にしても偉人にしても、ちょうどいいのが出てくるとは思えなかった。例えば3年後に大事件があったとしても、それを俺らが確認できるまで3年かかる。即効性が無さすぎる。」
と、唯志が続けた。
御尤もすぎてぐうの音も出なかった。
「あっ!」
だが、何かを思い出したように光が口を開き、全員が光を見た。
「そう言えば、確かさっき話した例の世界AI同時自壊事件。その発端と言われている研究発表が今の年くらいじゃなかったかな。」
「なんて人?わかる?」
少し間が空いて光が答えた。
「教科書にも載ってる人なので。確か須々木 久寿雄(すずき くすお)」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます