第21話 現実的な話
凄い話を聞いてしまった気がする。
60年後には人口が半減するほどの大災害がある。
しかもこれは人災に近い。
なんとかならないものだろうか、偉い人よ。
拓哉は無責任にそんなことを考えていた。
そんな時、唯志が話を始めた。
「まぁ面白い話聞けたけど、それはそれ。今の俺らにはどうしようもないし、考えるのは後だ。」
御尤もだ。
「だから話を結構戻すぞ。最終目標の帰るってやつ。これは今すぐどうしようもない。地道に調査を進めるだけだ。」
確かに、今すぐ解決できるなら俺らは天才集団だろう。
ノーベル賞獲れるわ。
「それよりも目先にやることは他にある。」
と、唯志が言い出した。
「他って何ですか?」「他って何」
光と拓哉がほぼ同時に質問した。
「当面の生活基盤だよ。昨日は吉田の家に泊まったみたいだけど、今後どうするか、だ。」
「あー、確かにそれな。」
野村が珍しく声を上げて頷いた。
確かに言われてみればその通りだ。
光もなるほどといった表情をしていた。
「お前ら・・・そろいもそろって考えてなかったのかよ・・・」
唯志は若干呆れていた。
未来人が突然やってくるなんて非日常は想像してなかったし、多少は大目に見てほしいと拓哉は思った。
テロリストが学校を占拠するシミュレーションは何度も繰り返したものだが。
「未来に帰れるのがいつになるのか・・・というか帰れるのがわからない以上、なんか考える必要あるだろ。」
拓哉もしばらくは光を家に泊めるつもりでいたが、永続だとまでは思っていなかった。というよりは考えてなかった。
「まぁ吉田が帰れるまで何年でも養うって言うなら良いけどな。」
拓哉は正直なところ、光さえ良ければそれで良いかなとさえ思っていた。
「現代では生まれてない未来人ってことは、戸籍が無い。仕事にしても、賃貸にしてもかなり手間だぞ。」
唯志の言っていることは尤もだった。
「その上で聞くけど、今後どうする?」
唯志が改めて拓哉に問いかけた。
(俺に聞くなよ・・・)などと考えていたら光が答えた。
「まずは戸籍がなくても出来そうなアルバイトでも探そうと思ってます。」
「え、そうなの?」
拓哉が驚きながら聞き返した。
「うん。何するにしてもお金いるし。収入源は見つけないとかなって思ってる。」
「妥当だな。まぁそれは探せばなんとなるだろ。莉緒、いくつかアテある?」
「うーん、まぁ探してみる。」
「なんで莉緒・・・さん?」
「こいつまだ学生だからな。学生のネットワークの方が管理ザルなバイト探しやすいだろ。」
(なるほど。意外と考えてるな)と感心していた。
「それか吉田の名義で色々やるって手もあるけどな。その場合確定申告とかめんどいぞ?」
と唯志は続けた。
(めんどいのか・・・どうしよう)などと考えていたら、
「いえ、これ以上タク君に迷惑かけられないので!」
と光が断った。
「その代わり、タク君にはしばらく居候させて欲しいなって思ってます。ダメかな?」
と光は上目遣いで拓哉に問いかけた。
これは卑怯だ。断れるわけがない。
「えっと、俺は別にいいけど・・・光ちゃんはそれで良いの?」
拓哉は内心ガッツポーズをしつつ、一応気遣っているふりをしてみた。
「うん。むしろ断られたら路頭に迷っちゃうね。」
光が困り顔で笑っていた。
「それじゃあ当面の居住地は吉田の家で良いか。なんかあったり、襲われそうになったら俺でも莉緒でも良いから相談してくれたらOK。」
「襲わないって。てか連絡手段も考え・・・」
拓哉が言い終わるより早く、唯志が何かを取り出してテーブルに置いていた。
「ほれ。そういうと思って持ってきた。」
唯志が差し出した何かはスマートフォンだった。
「スマホ?どうするのこれ?」
野村が質問した。
(なんとなく察しないか?)と拓哉は思った。
「これ使ってないやつ。光ちゃんに持たせとけ。初期化してあるし、SIMロックも外してある。ついでにプリペイドSIMも入れておいた。」
「え、良いんですか!?やったー!」
光は喜んでいた。
「細かい使い方は後で吉田にでも聞いて。今はとりあえずyarn(モバイルメッセンジャーアプリ。メッセージのやり取りやスタンプ、通話などが出来る連絡用のアプリだ。)とか必要最低限の操作方法を教えようか。」
「ほんとですか。助かります。これどうやってつければ・・・」
「莉緒、教えてあげて。何かあった時とか女の子同士の方で連絡できた方が安心でしょ?」
「あいよー。莉緒ちゃんが操作方法を伝授しよう。」
「ありがとうございます、莉緒さん。」
「莉緒で良いよー。必要なアプリは唯志が入れておいたらしいから、とりあえずyarnからだねー。」
女性陣がスマホの使い方で盛り上がっている。
光が「すごいすごい」言いながらレクチャーされてる。
楽しそうだが、割り込みづらいし任せておこう。
「で、吉田さ。入れといたSIMは番号無し10GBまでだから後はよろしくな。」
「使い切ったら格安SIMでも入れたらいい?てか良いの、端末貰って。」
「お前にあげたんじゃなくて、光ちゃんにあげたんだよ。それに使ってない予備端末だし。」
「そっか。なんにしても助かるよ。」
「それよりも、この子お金ないだろ?あと着替えとか。」
「ないね。どうしようかと思ってた。」
「だろうな。莉緒と光ちゃんさー」
唯志は盛り上がってる二人に話しかけた。
「なにー?」「なんですか?」
ほぼ同時に二人が答えた。
「ちょい、服買いに行ってこい。特に下着とかないと困るだろ。莉緒にクレカ渡しとくから。」
「おー、リッチマン!いくらまで良いの?」
「常識の範囲で頼む。」
「りょー!」
軽いやり取りで話がまとまった。
(てか、いくら彼女だからってクレカ渡すのか。普通なのか?)
拓哉は驚いていた。
「って、服まで買ってあげるの?良いの?」
と、当然な疑問も聞いてみた。
「最初からそのつもりだったから良いんだよ。面白いもの見せてもらったし。話にしても貴重な体験だわ。安いもん。」
(昔からこいつの価値観はわからないなぁ。)
と拓哉は思っていた。
「それと光ちゃんにはこれ。」
と、唯志がカードっぽいものを差し出した。
どうやら交通系のICカードの様だ。
「ICカード?」
「そ。さっきお前ら待ってる時にノムさんもカンパしてくれたから5万入ってる」
「5万も!?」
「これなんですか?」
光はICカードがわからない様子だ。
「そのカードに現金チャージしてあるから。コンビニでも駅でもチャージできるし、当面困ったら使って。」
と唯志が説明した。
「え、これ私でも使えるんですか?」
「それは誰でも使えるタイプだから問題ないよ。」
「そうなんだ。認証とかいらないんだ。助かります!でも、こんなに貰っていいのかな・・・」
「まぁ今はひとまず自分のこと考えて、受け取っておきな。落ち着いたら礼でも言ってくれ。」
と唯志が男らしい事を言ってる。(こいつ神かよ。)と拓哉は素直に思った。
「莉緒、買い物ついでにこれの使い方もひかりんに教えておいて。」
「りょー」
いつの間にか光がひかりんになっていた。
そして、光と莉緒は買い物へと旅立っていった。
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