第20話 未来
「とりあえずさ、昨日の出会ったあたり詳しく教えてくれよ。細かい状況よくわかって無いし。」
唯志が拓哉に声をかけた。
「あーそう言えばそうだね。昨日の昼間だけど、梅田歩いてて、うちの会社の部長の不倫現場を見かけて~。」
と拓哉が話し始めたところで、莉緒が突っ込んだ。
「ちょ、なにそれ。まだ面白そうな話あるじゃん」
莉緒は満面の笑みだ。光も
「その話聞いてないよ?なにそれー楽しそう。」
とか言いだした。
「それは余談なんだって。順を追って話すから!」
と昨日の出来事を細かく話し始めた。
部長の不倫現場を見かけたこと。
謎の発光。
光と出会ったこと。
(光を探してうろうろしたのは内緒にしとこう。)
光と再会して、未来人だとわかって、困ってるので連れて帰る事になったこと。
「なるほどね・・・」
唯志がつぶやいた。そのまま何やら考え込んでる。こいつが考え込むってのは学生時代あまり見たことない。
何を考えてるのだか。
他の面々も「不思議なこともあるなー」とか「結局どうやって未来から来たかわからないなー」とか
まぁありきたりな疑問を各々に話し合っていた。
話がひと段落したところで、光が野村に話しかけた。
「ノムさん・・・で良いですかね?呼び方。」
「うん、いいよー」
野村は悩む時間もなく答えた。
「ノムさん、既婚って聞きました。恋愛結婚ですか?」
「そうだよ~。」
「そうなんだ!じゃあ唯志さんと莉緒さんもやっぱり恋愛から付き合い始めたんですか?」
今度は唯志たちに問いかけた。というか岡村君は唯志さんなのか。
「まぁそうだな。」
「私らラブラブやしねー」
(恥ずかしげもなく・・・バカップルめ)
拓哉は心の中で文句を言っていた。
「やっぱりこの時代って恋愛がまだ多かった頃なんですね。羨ましい。」
光が変なことを言っている。
「そういえば・・・未来は人口が今の半分以下って言ってたよね?」
「??そうだよ?それがどうしたの?」
光が首をかしげていた。
「いや恋愛が珍しいって、未来の人口も減ってるみたいだし・・・少子高齢化がやばいのかなって。未来。」
拓哉が言っているのは当たり前の疑問だった。
この時代に生きていたら誰もがそう思うだろう。
だが光は否定した。
「あ、そういうこと?違う違う。」
拓哉は予想が外れてがっかりした。
「ん?でも人口半分以下なのに少子高齢化のせいじゃないのか?」
「はい。むしろ少子高齢化ってのは私の時代で言う20年くらい前に解消されました。」
「解消!?そんなことあるの!?」
莉緒がびっくりしていた。
「ええ。教科書でしか知らないけど、多分この時代から比べると結婚率も出生率も高いですよ、未来。」
「凄いな。それは政策かなんかで?」
「はい。未来じゃ政府公認のマッチングシステムがあって。25歳くらいには半強制的に結婚することになります。」
「!!!」
全員があまりの事に言葉を失っていた。
「あ、でも色んな情報から最適な相手になるように計算されてるらしいですよ!」
「一応拒否権もありますし!まぁ拒否しても次の相手がすぐ出てきますが・・・」
誰しもがあまりもの答えになんと返したらいいか困っていた。
「へぇ。でもまぁ理には適ってるね。」
最初に口を開いたのは唯志だった。
「25歳くらいってことは、恋愛結婚も出来るってことだろ?」
「はい、そうですよ。実際のところ運用開始直後は人権団体とかうるさかったらしいですよ。」
光が話を続ける。
「それに恋愛したい層も一定数はいますから、そっちは急いで結婚って盛り上がったみたいです。」
(それはそうだろうなぁ。いくら政府公認とはいえマッチングで結婚って・・・)
拓哉は自分のことを棚に上げてシステムについての批判を繰り広げていた。頭の中で。
「でもそのうち、みんなそれに慣れるんですかね。マッチングシステムが最適な相手を選んでくれるんだからって、だんだん恋愛する人も減っていったみたいです。」
だろうな、と拓哉は思った。
自分にとってはこれほど都合の良いシステムは無い。
黙って待っていれば結婚相手を政府が選んでくれるわけだ。
恋愛に億劫な拓哉は早くその時代になって欲しいと思った。
「つまんないねー、そんなの。」
莉緒がほんとにつまらなそうな表情で感想を言った。
「そう?俺はどっちでもいいかな~」
野村は相変わらずのんきだ。
「俺は賛成派かなー。その方が色々管理が捗るんだろ多分。」
唯志はなんか違う目線で意見を言ってる。
そして続けて唯志が口を開いた。
「でも、それだと矛盾してるよね。なんで人口激減してんの?」
確かに、と光以外の全員が思った。
「もしかしてちょっと前まではもっと人口少なかったとか?」
拓哉がこれだ!とばかりに意見を述べた。
「いや、そんなことは無いよ。」
あっさり否定された。
「人口が激減したのは、元は少子高齢化のせいだけど・・・アレのせいだろうね。」
全員が?となった。
(アレってなんだ?)
拓哉以外もこう思っただろう。
「アレってなに?」
唯志は率直に聞いた。
「えーっと、私もあまり詳しくないんだけど・・・」
光は考えながら、何か気まずそうに話し始めた。
「私たちの時代で40年前だから、今から60年後くらいかな。物凄い事件があって。」
光がそう言ったことで、なんとなく拓哉は心当たりを思いついた。
「南海トラフ・・・?」
(これは当たりだろ!)
拓哉は内心だけじゃなく、外面もドヤ顔だった。
唯志より先に言えたのが嬉しかったんだろうか。
だが、まさかの唯志が否定した。
「南海トラフが来たとして、さすがにそこまでは減らないだろ。」
拓哉は内心ムッとしたが、言われてみたらその通りだった。
「ええ、違いますよ。南海トラフって私の時代でももうすぐ来るって言われてます。この頃からなんですね。」
光は笑っていた。
「アレってのは、世界AI同時自壊事件ってのがあって・・・」
「世界・・・AI同時自壊??」
莉緒が?顔で復唱した。
「私が生まれるより少し前は、自立した思考型AIがほぼ全てのことを代行してたみたいなんです。」
「でも、それらが全世界で一斉に自壊・・・要は自殺したんです。それも同時に。」
光はその詳細を話していく。
「それで交通機関から何から全てが同時に機能停止して・・・」
「あー、なるほどね。」
唯志が口を開いた。
「ガチで世界中の仕事がAIに置き換わっていたなら、その時の被害も2次災害もとんでもない事になるな。」
「そうみたいです。特に高度化が進んでた大都市は大混乱というか壊滅的になって・・・」
(なんかとんでもない話になってきたぞ。)
拓哉は何とか話についていけているって感じだった。
「当然なんですが、若い人とか働き盛りの人の方がAIへの依存度が高いですから、被害が集中して。」
「で、高齢者が残ったはいいがどんどん死んでいく、と」
「なーるほどねー。じゃあマッチングシステムで人口が増えるのはこれからってわけだねー。」
なんか急に重い話を聞いてしまった。
しかも60年後?下手したら生きてるな。
拓哉はその時自分はどうするべきか、そればかり気にしていた。
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