第19話 話し合い
「とりあえず、その辺の適当な居酒屋で良いだろ」
集合して早々にそう言い出したのは唯志だった。
「え、昼間から?」
突っ込んだのは拓哉だ。
「そう。カフェとか飯屋とかでも良いけど、その場合長居が難しい。それに騒がしい方が話しやすい話題だろ。カラオケとかみたいな個室でもいいけど。」
一応いろんなことを考えての選択だったようだ。
拓哉はてっきり酒が飲みたいだけだと思っていたので少し感心した。
「あと俺酒飲みてーし。」
前言撤回。酒が飲みたいようだ。
だが、拓哉には代案を出せそうにないので素直に従うことになった。
他に誰も反論しないようだし。
下戸の拓哉としては、居酒屋自体に抵抗があったが致し方ない。
「それよりも、こっちは莉緒。俺の彼女ね。色々とありそうだから連れてきた。」
(彼女連れてくるって聞いてないぞ。てか1年前の彼女と違うじゃん)
と内心拓哉は思っていたが、口には出さなかった。
「莉緒です。唯志の彼女です。よろしくー」
莉緒という女性が軽いノリで挨拶をしてきた。
「んで、そっちの可愛いのが光ちゃん?」
「あ、はいそうです!今日は時間を作って下さってありがとうございます!」
光が丁寧に返事をした。
「まぁここじゃなんだし自己紹介とか含めて店入ってからにしよう。適当でいいだろ?」
そう言って唯志は歩き始めたので、みんながそれに続いた。
拓哉は相変わらず強引なやつだなと思っていた。
だが唯志の様に引っ張っていくタイプがいると、拓哉の様な人種は助かるのも事実だったので何も口出しはしない。
そして雑談をしながら10分ほど歩いて、梅田にある雑居ビル内の居酒屋(?)に入った。
「ここなら個室だし話しやすいだろ。」
とか唯志は言っていた。
こんな店よく知ってるなぁと拓哉は考えていた。
昼間なだけあって、すぐに席に案内された。
かといって静まり返ってるわけでもなく、確かに今日の会話内容を考えるとちょうど良い感じだった。
席に着くと唯志が「俺はとりあえず生。他は?」と聞いてきた。
(昼間から飲まないって・・・)と思った拓哉だったが、
意外なことに全員生ビールを注文した。
ウーロン茶なのは拓哉だけだった。
「あとは適当に好きなもの頼んどいて~。」と唯志は莉緒と光にメニューを渡していた。
そして飲み物が来るまでの間に一行は一通りの自己紹介を済ませた。
自己紹介が一段落した頃にちょうどよく飲み物が来たので、「とりあえず乾杯!」と唯志の掛け声で乾杯した。
「で、早速本題。とりあえず光ちゃんは自称未来人なわけだよね?」
「自称って言うか、タク君の話を聞く限りそうだと思ってます。」
「未来人とかすごーい!私初めて会ったよ!」
「莉緒はちょっと待ってて。まぁ未来人かどうかの真偽は置いておいて・・・昨日も聞いたけど目的は帰る事?」
「そうですね。未来に帰る方法を探すのが一先ずの目的ですかね。」
「なる・・・まぁ方法があるかどうかは別として、とりあえず最終目標はそれね。」
「最終目標?」
拓哉は疑問を口にした。
「そ、最終目標。ぶっちゃけそんなんすぐ見つかる分けねーからな。」
「それはそうだろうけど・・・」
「それに、帰るのは諦めてこの時代で暮らすとか、他にも色々選択肢はあるだろうからな。」
「それはそうだろうけど、最終じゃない目標ってなに?」
「そこが問題。何をするにしてもとりあえず現代で生活する必要があるんだよ。」
「確かに。」
光も頷いた。
「最終目標が何かによって、その現代での生活方針も変わるからな。」
唯志が続けた。
「最終目標が帰る事だったら、とりあえずは衣食住の確保と帰る手段を調べる又は入手する方法を探すことだな。」
「唯志さんは帰る方法わかりませんか?」
「唯志で良いよ。帰る方法については期待しないでくれ。俺は一般人だ。」
唯志が答えると、光は少し落ち込んだ。期待してたのか。
「まぁでもそもそも、帰る場所の問題もあるけどな。」
「?」
光は頭に?が出ていた。拓哉も莉緒もそうだった。野村はのんきに肉を食べていた。
「光ちゃんはほんとに未来人なのかって話なんだが・・・まぁそれは今はいいか。」
「でも私、嘘ついてないですよ?」
と光は反論したが、
「それはわかってる。俺人を見る目には自信あるんだよね。光ちゃんは嘘をつくタイプには見えないね。」
と唯志は答えた。
「ならどういう意味ですか?」
「まぁもう少し情報が集まる事があれば話すよ。とりあえず今は未来人って事にしておこう。」
全員が唯志の言ってる意味が分かってなかった。
「とりあえずさ、光ちゃん未来から持ってきたものとか無いの?」
「あ、それなら・・・これとか!」
「あ、すごい、なにこれ!?」
光と唯志と莉緒で話が進んでいく。
拓哉と野村は蚊帳の外だ。
「ノムさん、どう思う?」
拓哉は野村に意見を求めた。
「俺にはわからんねー。ぶっちゃけ今日は奢るくらいしか役に立てる気がしねー」
野村はある意味自分の役割を理解していた。役に立たないなら金くらい出すかと開き直っている感じだ。
野村は自分の価値を正確に理解していた。
自分には金がある。自慢でも謙遜でもなく、自身の最大の特徴だと理解している。
それ目的で集まる人間も多いが、それも気にしない。
自分の最大の特徴は活かすべきだと理解しているからだ。
卑屈になるわけでもなく、偉そうにするわけでもない。
そういう器のでかい人間だった。
こういう人こそ人の上に立つべきなんだろうなと、唯志が言っていたほどだ。
一方光たちの方の話もひと段落したようだ。
「すげーね、これ。明らかにオーバーテクノロジーだ。」
「未来すごーい」
「でしょ?未来人っぽいでしょ!?」
あっちは物凄い盛り上がっている。
拓哉は若干の疎外感を感じていた。
しばらくは野村とのんびり食事をしながら光たちが話してるのをぼんやりと眺めていた。
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