第二章 動き出した人生

第18話 集合まで

夜、野村宅

拓哉とのチャット終了後、野村は妻と食事をしていた。

「あ、そうだ明日出かけるよ。タクと久しぶりに遊んでくる。」

「あら、リアルで遊ぶの珍しいね。何するの?」

「んー、タクの恋愛相談的な?」

野村はにやにやしながら答えた。

「え、マジで!?タク君恋してるの!?」

野村妻も興味津々な様だ。


拓哉は野村妻とも面識があり、野村夫妻とは良く遊ぶ仲だった。

野村妻も拓哉のことは気に入っており、女っ気のない拓哉のことを気にしていた。


「まだわかんないけど、まぁとりあえず話聞いてくる」

「上手くアドバイスしてあげてよね」

野村妻も笑顔で答えた。

未来人の件については話さなかったのか、そもそも気にしてないのか。

あまり細かい事は気にしない野村らしい対応だった。

「あ、そういえば岡村君も来るよ。」

「へぇー、これまたずいぶんと久しぶりだね。」

「だねー。岡村君も来るならお酒飲むだろうし、夕飯いらないと思うー」

「りょー」


同時刻、唯志宅

唯志はチャット終了後からネットで調べ物をしていた。

「おーい莉緒(りお)」

唯志はリビングのテーブルでペンタブを走らせている女性に話しかけた。

朝倉 莉緒(あさくら りお)。大学生で唯志の彼女だ。

今は大学の芸術学部に所属している。


「どしたのー?」

「明日吉田と飲みに行くけど、莉緒もおいでよ」

唯志の中ではもう飲みに行くことに決まっていた。

「なんかさっきから楽しそうだったね。なんかいいことあった?」

「それがさー・・・・」

唯志は莉緒に先ほどまでの話をかいつまんで説明した。

「マジで!超面白そう!私も行くー」

莉緒は拓哉とも野村とも面識はなかったが、即決で行くことを決めた。

「だろ?真偽はともかく、面白くなってきた。莉緒には頼みたいこともあるし。」

「おけおけ。なんでもやるよー」

そういって唯志と莉緒は色々と準備に明け暮れていた・・・


一方その頃・・・

「すごい!これはすごいぞ。」

男は興奮していた。

「これは私への神からの贈り物だ!」

男は本を読みながら一人で叫んでいるようだ。

この男は須々木。今日の昼間、現場に居合わせた男だ。

須々木は昼間に入手したに興奮冷めやらぬ様子だ。

自宅に戻ってきてからずっとこの様子である。

「これなら・・・。だが環境を整えるのに・・・。」

この調子で大声を出してはぶつぶつとつぶやくことを昼から繰り返していた。

須々木はこの調子で、翌日も寝ずに本を読みふける事になる。


2021年6月13日日曜日

今は朝10時ごろ。

前日はあまりにも忙しすぎたため泥の様に眠ってしまった・・・

と言いたいところだが、元々拓哉はこの時間まで寝ている。

ようやく目が覚めた。

ぼんやりと寝ぼけた様子でリビングに行くと、光が元気にPCをいじっていた。

「おはようございます!」

拓哉はぼんやりとする頭で朝から元気だなぁと思った直後、光がいることにびっくりしていた。

(やっぱり昨日のことは夢じゃなかったんだよな)

先ほどまで寝ぼけていたので光の存在を忘れていたが、今頃思い出していた。

「ずいぶん寝てたね。朝は弱い方?」

「あまり得意ではないかも。」

あまりでもないし、弱いのは意思の方だ。

単純に寝れるから寝てるだけ。

起きる意思が強ければ起きれるものだが、人間やる事が無ければ必然的にこうなる。

三大欲求には勝てないものだ。

「あの・・・」

光が申し訳なさそうに声をかけてきた。

「朝ごはんって食べないタイプですか?」

拓哉は朝ごはんをあまり食べなかった。

というかこの時間に起きることも稀だ。

基本的に昼までは寝ている。

平日も食べずに出社している。

(しまった、朝ごはんとか全く意識してなかった。)

「ごめん、家に何もないからコンビニでおにぎりでも買ってくる!」

そう言って、拓哉は急いで身支度を始めた。

「あ、ごめんね。なんかお腹減っちゃって。」

「いいよ、何が良いとかあるかな?」

「何でもいいです。」

そんなやり取りをして慌ただしく朝が始まった。


元々他人同士が一緒に暮らすというのは大変なことだ。

気心の知れたカップルでさえ、同棲したら別れるなんて話がざらにある。

もちろん本人の性格や、当人同士の相性次第では何の問題もない事だってあるが、

昨日知り合ったばかりのほぼ他人の拓哉と光。

性格もほぼ真逆に見えるこの二人が、いきなり生活が合うはずもなかった・・・


同日13時。

阪神電車改札口付近。

野村は唯志に言われた通りの時間に到着した。

(着いたは良いけど、どのへんかな?電話してみるか)

野村がそう考えた時とほぼ同時に声をかけられた。

「よー、ノム!」

声をかけてきたのは唯志だった。

「おー、お久しぶり~」

電話をかける必要もなく、唯志の方が見つけてきたようだ。

その横には見知らぬ女の子がいた。

「これ、彼女の莉緒。面白そうだし、必要そうだから連れてきた。」

「そうなんだ、野村英樹です。よろしく。」

「朝倉莉緒です。噂は聞いてます。なんか金持ちって」

莉緒は笑いながら言っていた。

「ちょ。紹介のしかた!」

「まぁ事実だし。」

しばらくは世間話をしていた。

唯志は10分以上前にはいたようだ。

野村は定刻通りに来るタイプだ。

そして・・・13時10分。

「来ないね、タク。」

「あいつが約束の時間に来るわけないからな。」

「そうなの?ならもう少しゆっくり来ても良かったんじゃないの?」

「ノムが13時には来ると思ったから。吉田は多分30分遅刻じゃねーかな。」


唯志の予想は正しかった。

「ねえ、約束の時間って13時じゃなかったっけ?」

「そうだけど、しょうがないよ。こっちの都合もあるし!」

拓哉と光はようやく最寄り駅についていた。

これから電車を待って移動となると着くのは13時半くらいだろう。

「大丈夫なの?待たせて。」

「仕事じゃないんだし、大丈夫大丈夫」

何が大丈夫なのかはわからないが、拓哉は時間にルーズだった。

それが悪いと思っていないから質が悪い。


そして13時半。

「あ、吉田来たよ。予想通り三十分遅れ。」

「ほんと、困ったやつだねタクは。」

拓哉も二人を見つけたようで軽く挨拶をした。

「お待たせ。待たせてごめん。」

こうして三十分遅れで五人は集合を果たした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る