第22話 男性陣①

光と莉緒を見送って、店に残ったのは男性陣だけとなった。

色々と必要なものはあるだろうし、そもそも女の買い物は長い。

ある程度ここで時間をつぶすという唯志の計画だ。

その唯志はここぞとばかりに酒を飲んでいた。


「ありがと。正直助かった。」

拓哉が素直に礼を言った。唯志に対してだろう。

唯志も察して返事をする。

「良いよ別に。結構面白い話も聞けた。」

唯志の答えはあっさりしていた。

今日だけで結構な大金を使ったはずだが、何の後悔もないらしい。


(あ、そうか。お金の話も・・・)

そう思って拓哉が話を切り出した。

「俺も金出すよ。俺の個人的なトラブルに巻き込んだ形だし。とりあえず半分くらいは・・・」

「いや、俺は要らねー。」

拓哉が話し終わるより早く唯志が答えた。

「ノムさんは俺が巻き込んだ形で金出させたから、そっちには補填したって。」

「え?俺も要らないよ?」

野村も即答だった。


「でもそういうわけには・・・」

拓哉は若干の後ろめたさを感じていた。本来なら自分がやるべきことをこの二人(主に唯志)にやらせたのだ。

金まで出させて。

「いや、お前はこの後の事に金をとっておけ。」

そう言って唯志は紙を差し出してきた。

「なにこれ?」

「とりあえず近日中に必要になりそうな物ピックアップしといた。お前疎いだろ?」


そのメモを見ると、枕やらタオル、箸などの必需品や、化粧水、乳液なども書いてあった。

「それと、こっちはあのスマホ関連。とりあえず捨てアドとか俺のアカウントで補ってるから。」

こちらにはあのスマホを使えるようにした際の諸設定が書いてあった。

準備が色々って言ってたけど、ここまでのことを昨日のうちに全部やってんのか。

拓哉は素直に凄いなと思った。

こんなだからモテるんだろうか。

いや、それはなんか違う気がする。

もっと違う部分で根本的に何かが違う、そう思う。


「ひかりん、この時代には不慣れだろうから、お前が色々助けてやれ。」

「・・・そのつもり。」

拓哉はぼそっと答えたが、この言葉には力も入れていた。

これだけ色々とやってもらっておいてなんだが、なんだかんだで保護者は俺だって自負もあった。

改めて決意して2人を見たら、唯志はビールを飲んでるし野村は肉食ってるし・・・


ビールを飲み終わり、次の注文を済ませた頃に唐突に唯志が聞いてきた。

「で、これ重要なんだけど、お前はどうしたいの?」

お前ってのは拓哉のことだろう。

(お前って不適切らしいぞって突っ込みは無しだよなぁ)

と拓哉は思った。

女性陣がいなくなって若干余裕があるらしい。

「とりあえず、光ちゃんの未来に帰る方法を探す・・・」

「それで良いのか?」

言い終わるより早く唯志が問いかけた。


拓哉は少し考えて、

「良いも何も、本人が希望してるし。」

「俺はひかりんの方の希望聞いてねーよ。お前の希望聞いてんの。」

「俺の希望って・・・例えば?」

「質問に質問で返すなよ・・・」

唯志が苦笑したところでちょうどビールが来たので、唯志はビールを飲んでいた。


(何言ってんだこいつ?)

そんなこと考えてたら野村が口を開いた。

「タクさー、光ちゃん好きじゃん?帰していいの?」

野村がとんでもないことを言い出した。

(いや、確かに好意を持ってる。というかこの1日ですごく好きにはなってきている。でもだからって・・・)

と脳内でめっちゃ早口で考えていたら唯志も追撃してきた。

「つかさ、見てたらわかるぞ。わかりやす過ぎ。それでも帰すの手伝うんかって話してんだ。」


ぐうの音も出ない正論だが、拓哉は何とか反論をしようと思考を巡らせた。

人が人に好意を持つことは恥ずかしいことじゃない。

反論なんてする必要はないのだが、恋愛経験の少ない拓哉の思考回路は中学生レベルまで落ちていた。

「つか、否定する必要ないからな。帰していいのかYES、NO。二択だぞ。」

唯志がしびれを切らせて先手を打ってきた。


拓哉はしばらく考え、無理やり口を開いた。

「でも本人は帰りたがってるし、俺個人の意見で・・・」

「だから、お前に聞いてるんだって。ひかりんの意見聞いてねーよ?」

唯志は煮え切らない拓哉に若干イライラしだしていた。

答えは出てるはずなのに答えない。

こういうタイプは唯志が一番嫌いな人種だった。


(そんなこと言われたって・・・)

拓哉は迷っていた。

内心では帰ってほしくないというのが本音だ。

でも帰るための協力をすると言った以上、協力はしないといけない。

だが、じゃあ具体的に何が出来るかと言われたら

(俺だって何をどうしたらいいかわかんない。)

未来へ帰るのを協力するなどとカッコいいことは言ったものの、特に考えも計画もない。

何年かかるかもわからないのにその間ずっと養う必要性まで考えて言ったわけじゃなかった。

かといって残ってほしいことと好意を伝える勇気もない。

残ってもらったとしてもどれだけ大変な事か想像もできない。


拓哉は何にしても中途半端で覚悟が足りていなかった。

具体的に何を協力するのかさえ、自分でわからずに言っているのだ。

ネットでちょちょいと調べて、協力した感を出して好感度アップ。

拓哉の考えは別として、やっていることはそれと同じレベルだ。

そんな拓哉にどうしたいのかなんて具体的に聞いて、まともな答えが返ってくるはずが無かった。

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