第16話 夕食

拓哉と光はskypoでの会話も終わり一息ついていた。

(しかし直接会ってって、何するつもりなんだろ?)

疑問は尽きないが考えても無駄だろう。

拓哉は考えることを止めた。


(なんにしても今後どうするのか考えないと・・・)

と思っていたら、「ぐぅ~」という音が聞こえた。

どうやら光の腹の虫が鳴いたらしく、光が照れていた。

「ごめんなさい、お昼から何も食べてないもので・・・」

そういえば飲み物を飲んだりはしたが食事をしていたなかった。

時刻は20時に差し掛かっていたいたし、当然だった。


(いつの間にかこんな時間・・・)

体感ではまだ16時くらいなんだが、普段では考えられないほどの慌ただしさに、時間の感覚がおかしくなっていた。

光は色々と助けてもらっていた手前、言いづらかったようだ。

「俺もお腹減りました。夕飯にしましょうか。」

「本当に色々とありがとうございます。」

光が改めて深々と頭を下げた。

ちゃんとお礼の言える子で良かったと思った。

これが施されて当然といった態度の女だったら、警察にでもドナドナしていただろう。

拓哉にその度胸があればだが。


「夕飯作るんですか?」

光に尋ねられた。

しかし拓哉はチャーハンとカレーくらいしか作れないし、その腕前も自信がない。

それに今日は材料もない。

作るという選択肢は頭になかった。

「いや、何か出前でもとろうと思います。何食べたいですか?」

「出前?ってなんでしょう?」

(マジか、出前って死語なのか。)

「あー、食べ物の宅配を注文しようかと。」

「なるほどー。だったらタク君の好きなので良いよ。」

こういう振り方をされると、決めきれないのが拓哉という人間だった。

優柔不断というか、最近の若者にありがちな自分の意見が無いタイプの典型だ。

(えっと、何頼んだら・・・おしゃれな宅配なんてあったっけ?牛丼とかとんかつとかじゃダメだよな、パスタか?)

と、要らぬことを考えてなかなか決められない。

女性はおしゃれなものしか興味ないとでも思っているのだろうか。


「どんなお店があるの?」

なかなか決めきれない拓哉に気を使ったのか、光が助け舟を出す。

「あ、えっと、こんな感じ」

このエリアの配達可能店舗一覧を表示したスマホ画面を光に見せる。

スマホの画面とにらめっこしている光。

画面のスクロールなど、問題なくこなしている。

未来でも似たような構造の端末があるのだろうか。


「このカレー屋さんが良いな。」

光が選んだのは全国チェーンのカレーショップだった。

『カレーショップ ここが一番屋!』

いかにも関西資本ですよと言わんばかりの名前の店だが、味も質も良いしラインナップも多く、拓哉も御用達の人気店だ。

拓哉個人としては何の不満もなかったのだが・・・

「良いの?カレーで。」

と、本人が良いと言っているのにいちいち聞き返すあたりが優柔不断な拓哉らしい。

「お願いします!メニューって見れる?」

拓哉がスマホでメニューを見せると、光は楽しそうに選び始めた。

「これが良いー」

数分ほど悩んでいたが、決まったようだ。

拓哉の方はいつもナスカレーの辛さ2倍と決まっていた。

注文を入力し、注文完了した。しばらくは届くのを待つことにする。


今度こそようやく一息つけそうだ。

やっと落ち着いたことで拓哉は重大なことに気づいた。

(あ、風呂と布団どうしよう・・・)

布団は当然の様に一人分しか持ってないし、風呂に関しては入るのは構わないんだが・・・

(着替えどうする?岡村君が言ってた困るってこういうやつか。)

岡村君とは唯志のことだ。

拓哉は日常生活では岡村君と呼んでいた。

この辺りにも微妙な距離感を感じる。


「あのー、タク君」

拓哉が一人で悩んでいたら光が申し訳なさそうに話しかけてきた。

「私、冬服だったせいですっごい汗かいて・・・シャワー借りたいんだけど・・・」

(しまった!そりゃそうだよなぁ、こういう気づかいも必要なのか。)

「うん、いいよ。そこの部屋だから好きに使って。」

「ありがとう!」

光は一瞬で笑顔になって答えた。

「あ、タオルとか準備するね。他何かいる?」

「んー、あるもの使っていいかな?」

「うん、全部好きに使って大丈夫」

「ありがとー、行ってくるね!あ、覗いたらダメだよ?」

イタズラっぽい笑顔で光が言った。

(めっちゃ可愛い。)

こういう無防備で距離感の近い女性に童貞はめっぽう弱い。

拓哉もその例に漏れていない。

世の女性諸君は気を付けるべきだ。


(にしても疲れた。世の中のカップルはこういうやり取りを自然とやってるのか。)

(あまり考えてなかったけど、これ明日もやること山積みなんじゃ・・・)

拓哉は今更未来人(?)を拾ったことの重大さに気づき始めた。


「明日も休めないなぁ」

拓哉はぼそっとつぶやいた。

自分の物語にとんでもない非日常が降りかかったことは自覚していた。

自分の何もない、主人公がいるだけの人生が面白くなることにワクワクしていたほどだ。

たが、今まで通りのありきたりな日常は無くなることを理解していなかった。

いつでも自分は蚊帳の外で、いつでも周りが決める、何とかするそんな体質が染みついていた。

「まぁ明日岡村君の話聞いてから考えたらいいか。」

拓哉は何げなくつぶやいたが、既に無意識で唯志頼りになっている。


「おーい、タク君。ドライヤーとかってあるー?」

そうこうしている間に光があがった様で、拓哉に声をかけてきた。

ドライヤーは未来でも現役な様だ。

「引き出しに入ってるよー!好きに使って―!」

拓哉は返事をしつつ、(女の子って1時間くらいお風呂入るんじゃないの?)とか考えていた。

完全に偏見である。

そもそもシャワーでそんなに長い時間使えるわけがない。


「ふぃー、ありがとうございました」

光が笑顔で出てきた。

「あと、後で要らないシャツとか貸して頂けると助かります。」

「あ、ごめん、後で探すね。」

そんなやり取りをしていたら『ピンポーン』と音が鳴った。

「あ、カレー来たね。」

拓哉は手慣れた感じでやり取りを済ませ、食卓にカレーを並べた。


「人がもってくるんだ。凄いね。」

と、光が感心していた。

「未来だと違うの?」

「私の時代だとドローンって言ってわかるかな?空飛ぶロボットが持ってくるよ。」

「そうなんだ?ドローンは今もあるけど、そこまでにはなってないなぁ」

そんなことを話しながら、2人は夕食を摂りはじめた。

長い一日だったがようやく終わりが見えてきたと拓哉は考えていた。

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