第17話 一日の終わり

2人でカレーを食べながら、拓哉は先ほどの2人の友人のことを簡単に説明した。

明日会うことになるわけだし、ある程度の事前情報は必要と思ったからだ。

ノキこと野村英樹は一番仲の良い友人で、当たり障りのない性格で金持ちだということなど。

dadaこと岡村唯志は今は少し縁が遠くなっていた、正直明日何を話すつもりなのか想像もつかない・・・など。

拓哉にとってはかなり久しぶりの自宅で2人の食事だった。

普段一人で黙々と食べるだけなので、これだけでも楽しかった。


食事も済ませ、光に使わなくてかつ割と綺麗なTシャツを渡した。

光には着替えたり、PCでもいじってもらっておいて、今度は自分がシャワーを浴びることにした。

「ごゆっくり~」と光が笑顔で送り出してくれたのが嬉しかった。


拓哉はシャワーを浴びながら考えていた。

光を未来へ帰すと約束したが、そんなことが自分に出来るのか。

そもそも帰してしまって良いのか。

少なくとも今日は楽しかったし、既に光に好意があるのも確かだ。

帰って欲しくないと本音では思っている。

でも協力しないならこの関係はここまでだろう。

(俺はどうしたらいいんだ・・・)

結局何の答えも出ないままシャワーを終えた。


シャワーを終えた後は、2人とも疲れ果てていたためもう寝ようということになった。

拓哉はどっちがどこで寝るか悩んだが、光がソファーで良いと押すので

拓哉は寝室、光はソファーで寝ることになった。


拓哉は寝室へと向かい、ベッドに入って今日の出来事を改めて思い返した。

梅田を歩いてたら部長が不倫してて、光って女の子が現れて、その女の子が未来人で、家に泊まる事になって・・・

普段何のイベントも起きない拓哉の生活からしたら、どれ一つをとっても大事件だ。

それが1日でこうも立て続けに起きたので、未だに少し興奮状態で、疲れているのにすぐ眠れそうになかった。


(あ、そう言えば今日イヌ娘やってないや)

ふと普段のルーティンワークなスマホゲーのことを思い出した。

イヌ娘とは、最近流行りのスマホゲームで擬人化した色んな犬種を育てるゲームだ。

いつもなら時間があればぽちぽちと遊んでいて、スタミナ(=ゲームをするためのポイントの様なもの)が余る事なんてなかった。


(とりあえずログインとデイリー分だけやるか)

この手のゲームの卑怯でもあり、上手でもある部分だが、毎日ある程度のミッションが課せられる。

たいていの場合そこまで時間のかかるものではないが、とにかく毎日続けさせようとする。

そして、1日でも逃したらもったいないという錯覚に陥らせて、ユーザーを離さない様に工夫されている。

拓哉も例に漏れず、なんとなくもったいない気がして惰性で続けてしまっている。

だがこの日は疲れていたので、ログインして育成しようとしたところで寝落ちしてしまった。


一方光の方は、リビングのソファーの上で今日の出来事を思い返していた。


結城光。大学生。本人は二十歳と言っているが、彼女は八月生まれだ。

今現在の月日は六月。この場合、次の誕生日で二十一歳になるのか、二十歳のやり直しになるのか・・・

前例がないのでよくわからない。

そう、光は確かに2120年の十一月にいたはずだった。

彼女が拓哉に話した話は作り話でもなんでもなく、自分の知っていることを素直に話していた。


その日、光は配達のバイトをしていた。

元々自分が請けていた仕事ではなかったが、友人からの頼みで代理でやっていた。

正規の様なバイトではなく、個人の頼まれごとの様なバイトだ。

内容はとある本を店から受け取り配達する。

現代でもありがちなバイトだったが、光のいる時代では少しいわくつきのバイトだった。


光の時代では配達などの仕事はドローンがこなす。

有人で対応するということは、『それなりに理由のある』荷物だった。

だから光はあまり乗り気ではなかったが、友人の頼みで仕方なく引き受けた。


配達物は本だったが、この本が問題だった。

そもそも光の時代では本は電子書籍が主流になっていた。

紙媒体もなくはないが、数としては減っていた。

特に今回の依頼物は既に販売中止されているどころか、政府から販売を禁止されている曰くつきの本だった。

とはいえ、持っているだけで逮捕されるような代物でもなく、閲覧に制限があり既刊分は処分されてはいるものの、完全な非合法物でもなかった。

それゆえに光もしぶしぶながら引き受けた。


店の場所は秋葉原。

かつては電気街として栄えていた辺りの一角にある古書店から品物を受け取り、とあるマンションまで運ぶ。

距離があるわけでもないし、曰くつきの品物でなければ簡単な仕事だった。


目的の古書店に行き、荷物を受け取る。

そしてマンションに向かうために駅に帰る途中に『それ』は起こった。


光は曰くつきのものを持っていることもあって、少し速足で歩いていた。

一瞬、世界が消えた。

正確には拓哉が見たのと同じ、激しい光に包まれて前が見えなくなっていたのだった。

光は直感的に何か起こった、危ないと感じ、急いで駆け出そうとした。

気が付いたら目の前に男がいて、ぶつかって尻餅をついていた。


「いったーい・・・」

目の前では若い男が混乱した様子でキョドっていた。

どうやらぶつかってしまったようだった。


「あ、大丈夫ですか!?」


目の前の男(=拓哉)に話しかけた。


「え、あ、えっと・・・はい」

目の前の男は歯切れ悪く答えた。


こうして拓哉と出会うことになった。

その後は拓哉と別れ、駅に行き東京に帰ろうとしたが、何故か電子マネーが使えず、駅員に聞いても話があまり通じない。

困り果てた光は、さっきの場所に行けば何かわかるかもしれないと思い立ち、元の場所に帰る事にした。

さっき色々と教えてくれた男の人がまだいたら話も聞けるかもしれない。

そう思って元いた場所に戻る事にしたのだった。


そして色々とあり、今に至る。


「ほんと、色々あったなぁ・・・まさか過去に来ちゃうなんて・・・」

光はつぶやいた。

「あたしちゃんと帰れるのかなぁ」

光は少し不安になったが、元々ポジティブな性格な光だ。

「まぁなんとかなるか!」

すぐに切り替え、そしてそのまま寝てしまった。


こうして長かった1日が終わっていった。

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