第15話 唯志の誘い

状況は少しだけど唯志に伝わった。

後は相談をするところだけど、何から相談したものか。

拓也は色々と思考を巡らせたが、そもそも何を相談したものかも思い付いていない。

光のも見ている、少しでもスマートに事態を好転させる相談をしたいなどと考えていた。


[で、結局相談は何よ?]

しびれを切らしたのか唯志の方から催促してきた。

(せっかちなやつだな・・・考えてるよ。)

だが、拓哉は今のところ『スマート』な相談を思いついていない。


[とりあえずさ、その未来人さん横にいてみてるんだろ?]

[そうだよ]

[その人PC使えるの?使えるならタック代わってよ]

唯志は直接話をしようと提案しているようだ。

(こいつマジかよ)

[あ、それ良いね。俺も話したい。]

野村もノリノリな様子だ。

拓哉は光の顔色を覗った。

「こう言ってるけど・・・どうする?」

「良いですね!私代わっても良いですか?」

光は笑顔で答えた。こう言うだろうな、とは少し思っていた。


独占欲というのだろうか。

光を他人に晒したくないという気持ちが俄かにだが存在して、

拓哉は内心断って欲しかった。

この子を守っているという事実が欲しかった。

そんな雑念はあっさり打ち砕かれたが。


[こんばんわ。結城光って言います。未来人です。]

光が拓哉に変わって入力した。

キーボード操作は問題ないらしく、むしろ若い女の子にしては十分すぎる程使いこなせている。

(未来だとPCが復権しているのか?スマホが無いんだし、それもあるのかも。)


[おー、御本人登場だ]

[すごい、今未来の人と会話してる。]

それぞれが思い思いに感想を述べている。


[光ってことは女の子?]

[はい、そうです]

唯志と光が会話をしている。

現代人と未来人の交信だと思うと、とんでもない状況だが、

こんな状況でも嫉妬している自分がいることに気づいて、少し自分を嫌悪していた。


[歳は?]

[今年20になりました。]

[なるほどね。で、君の目的は?タックの相談事ってのもその関連でしょ?]

[そうです!よくわかりましたね!]

[俺は先に少し聞いてるから知ってるー]

野村はのんきに話に乗っかっている。

[ノキ君知ってるんだ?その上で解決してないってことはある程度察しが付くね。]

[実は私、気が付いたらこの時代にいて、帰る方法を探しているんです!]

[だろうね。そんなところだろうと思った。]

[わかったんかい!]

野村が突っ込んだ。

[なんでわかるんですか!?]

光は「すごい!なにこの人!」などとつぶやきながら打ち込んだ。

「岡村君察しが良いんだよ。」

拓哉は不本意ながら説明した。


[一応聞くけど、タイムマシンとかそういうので狙ってきたわけじゃないんだよね?]

[そうです。気が付いたらこの時代にいて。で、偶然出会ったタク君に助けてもらいました。]

[なるほどね。]

[なんとかなりませんか?]

光は無茶な質問をしていた。

これで「なるよ!」とか返ってきたら俺はひっくり返るだろう。

岡村君に今すぐノーベル賞を差し上げよう。


[さすがに無理―]

案の定の回答だった。

[そんなこと出来たらもっと金持ちになってる]

ごもっともだ。

[だよねー]

野村も同じように思ったようだ。

[そもそも聞くけど、自分でもどうやって来たのかわからないんでしょ?]

[わかりませんね。光ったと思ったらこの時代に・・・]

[なら未来人かも怪しいところだね。]

[どういうことですか?私嘘ついてません。]

[まぁ半分疑い、半分は違う可能性探しってところ。気にしないで。]

光は『?』って顔をしている。

(でも、半分の違う可能性ってなんだ?)


[とりあえず状況はわかった。で、今後のプランは?]

唯志が質問してきた。

(それが決まってたら相談しないよ・・・)

[今のところ、頑張って帰る方法を探す!という風に考えてます!]

[タックもそう?]

「タク君聞かれてますよ?」

「そうって返しといて。」

[そうみたいですー]

[OK。要するにノープランってことだな]

[えーっと、光ちゃんだっけ?それとタック。ついでにノキ君。]

唯志が改まって声をかけてきた。

[なにー?]

野村はのんきに返事している。

[なんでしょう?]

「タク君も聞いてますよね?」

「うん、見てるから続けてもらって。」

とりあえず唯志の続きを聞いてみることにした。

[明日空いてる?てかノープランなら暇だろ?ノキ君は暇?]

[俺は大丈夫だーよ]

「タク君、暇か聞かれてますよ?」

「俺は暇って言ったらあれだけど、とりあえず帰る方法を探す方法を探そうってくらいかな」

「私も居候の身なので同じで」

そう、こんな状況なのにノープランで明日の予定すらない。

それはそれでどうかという状況だ。


[こっちも空いてるみたいです]

光が返事をした。

[おーけー。お前ら梅田に集合。直接話しよう。俺も色々聞きたいことあるし。]

また唐突にこいつは・・・と拓哉は思った。

思い立ったらすぐ行動。前からこういうところが合わないんだろうなぁと思っていた。

拓哉は光からキーボードを奪い取って、

[明日って急すぎでしょ。なんか考えあるの?]

と打ち込んだ。

[ん?タックに変わった?未来に帰る方法についてだったら全くわからんよ。]

[ならなんで?]

[とりあえず、未来人ちゃんに会って話してみたい。それと、お前ら現実問題見えて無さそうだからその辺をな]

[どういうこと?]

[まぁどうせ暇なんだったら出て来いよ。お前阪神だったよな。阪神の改札に13時でどうよ?]

(相変わらず強引だしせっかちなやつだな・・・)

だが暇だったのは事実だし、何より光が・・・

「行きましょうか!どうせ明日じゃ何も変わらなそうだし!」

と言っていた。

(だけどこのままいくと・・・)

拓哉の懸念は、このままだと唯志主導で話が進むことだった。

要は男の小さなプライドの問題だ。

だが、光のはじけるような笑顔を見ていると無下にも出来ない。


[俺は大丈夫だよー]

野村はのんきに返事していた。

こいつはいつもこの調子で余裕がある。

これが金のある人間の余裕なんだろう。

[タックも、明日は日曜日なんだから大丈夫だろ?というか、明日を逃すとなげーぞ]

そう言われてようやく事の重大さに気づいた。

明日は日曜日だからどうとでもなると思っていたが、

逆に明日を逃したら1週間仕事があるわけで・・・

[確かに・・・じゃあ明日いけるように頑張るよ]

[おk。俺も準備とかあるし、後は明日で良いな。付近に着いたら連絡くれ。]

(準備ってなんだろ?)

「準備って何ですかね?」

光も同じように聞いてきた。

(俺が知りたいよ。)

[まぁ今日は今から色々困るだろうけど、経験だ。困っとけ。]

(困る?何が?)

拓哉は唯志の言っている意味が分からなかった。

[困るってなにが?]

[気にすんな。じゃあ、また明日な。あ、光ちゃん、そいつ人畜無害だから安心して泊まっていけ。]

最後に余計なことを言っていった。

(おい!事実だけど!・・・でも安心はさせれたか?)

「ははは。dadaさん面白いね。あ、タク君が無害っぽいのは雰囲気でわかりますよ?」

光は笑っているが、光にまで馬鹿にされたような気分だった。

その後、野村にも礼を言い、今日の会はお開きとなった。


結局、望んではいなかった思っていた通りの展開になった。

唯志が主導で全てを決め、明日の予定まで組まれた形だ。

自分一人では何も出来ないままだったであろうし、光の為と思えばいい方向といえる。

ただ、拓哉の心境は複雑なものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る