第14話 dada
skypoネーム『dada』。本名『岡村 唯志(おかむら ただし)』。
拓哉たちの大学時代の友人で、よく一緒にいるグループの一員だった人物だ。
拓哉とも仲は良く、信用も出来る。
そもそも大学での拓哉たちのグループは、唯志ともう一人が中心となって形成されたようなもので、唯志はグループの中でも中心人物と言える人間だった。
リーダーシップもあり、決断力もある為、優柔不断な拓哉たちには欠かせない人だった。
拓哉たちのグループが大学カーストで上位の方に位置づけされていたのも、唯志が多方面のグループにも顔が利いたからと言っても過言ではない。
それでいて、たいていのことは人に頼らず自分で何とかしてしまう。
要するに、出来る人間だった。
少なくとも拓哉にはそう見えていた。
だが、拓哉は唯志のことが苦手だった。
趣味嗜好は近いし話も合う。
なのに明確な苦手意識があった。
そのため居住地は近いのに、卒業後はあまり交流が無い。
最後に会ったのは1年位前だった。
skypoのやり取りでさえ、数カ月前が最後だ。
唯志を苦手な理由は本人もわかっていない。
正確にはわからないふりをしている。
[どうした?dada君に話すのはなんか問題?]
拓哉がどう返答したものか考えていると、野村から催促された。
(問題・・・は無いけど・・・)
心配になって光も話しかけてきた。
「そのdadaさんには相談しないの?信用できない人?」
光の立場からしたら信用できる協力者は多い方が良い。
当然の疑問だった。
だが拓哉は内心複雑だった。
「いや、信用は出来るけど・・・」
「けど?」
「・・・なんでもないです。」
光の手前、苦手だから連絡しないなんて言えなかった。
なんとなく情けないし、協力すると宣言しておいてそんなこと言う男だと思われたくなかった。
[そうだね。dada君にも意見を聞いてみようか。]
ようやく絞り出した返事だった。
[おけー。このチャットに招待するよー。]
野村はそう言って、唯志にチャットを送った。
野村の方は唯志に対して苦手意識の様なものは無い様子だ。
拓哉が唯志に相談することを躊躇していた理由は単純だった。
そして苦手意識の原因も同じだった。
劣等感だ。
拓哉は本能的にも経験的にも、唯志より劣っていると認識していた。
それゆえに、もし相談を持ち掛けたらこいつは自分よりも有能。
光にそう思われる。
自分よりも出来る男を光に見せたくない。
何より、せっかく動き始めた自分の物語を奪われたくない。
そんな嫉妬心から躊躇していた。
くだらない男のプライドだが、誰しもが持ち合わせている当たり前の感情だった。
だけど光の為に頑張るところも見せたい。
そんな感情の狭間で揺れていた末に、相談することを決断した。
しばらくして、野村からメッセージが来た。
[dada君来るって]
[了解。招待お願い。]
言うまでもなくすでに招待を送っていたようで、
すぐに[dadaさんが参加しました。]と、
唯志がチャットルームに入ったことが通知された。
[よう、タック。珍しいな、そっちの方から話って]
すぐに唯志が話しかけてきた。
[おつかれー。今大丈夫だった?]
[問題ない。skypoログインするくらいには暇だった。]
[なんかタックが大変なことになってるらしいよ。]
[へぇ。結婚でもすんの?]
[出来たら苦労しない。]
他愛もない雑談から始まった。
「なんだー、仲良さそうだ」
光は、拓哉の歯切れが悪いので仲が悪いかと思ったようだ。
「別に仲悪くはないよ。信用もできるし。」
拓哉も返事をした。
(ただ少し絡み辛いっていうか・・・)
前述した通り、劣等感からきている苦手意識なんだが、本人はなかなか認めたくない様子だ。
「どんな人なの?」
光が興味本位で質問した。
「うーん、大学の頃は俺たちのまとめ役の様な感じだったかな。」
「へー、すごいね!」
光がぱぁっと目を輝かせた。
唯志を持ち上げるような発言をした拓哉は思わず(しまった)と思った。
「でも、言っても一般人だし、期待はしないでね。」
などと、対抗心からかよくわからないフォローを入れていた。
そんなやり取りをしながらも、skypoの方のチャットで世間話と近況報告が進んでいた。
[で、本題は何よ?]
ひとしきり近況報告が済んだ頃合いに、唯志が切り出した。
[それなんだけどね、タック本人から話した方が良いよね?]
と野村から話を振られた。
助け船ではあるけど、なんと説明したものか。
一から説明すると長くなるし、何より一個一個質問されると手に負えない。
(まぁ彼の場合は単刀直入でも良いか。察してくれるだろ。)
「まぁ簡潔に言うと・・・未来人拾った。]
[ちょwww何それwww]
[いやーそれがガチらしいよー]
野村もフォローをしてくれる。
[細かい説明は端折ったけど、結論を言うとそんな感じ]
間で光も「拾ったって何さー」と口を挟む。笑いながら。
[へぇ、なんか面白そうじゃん。どれくらいの未来人なん]
[そういえばそれ俺も聞いてないな。]
唯志も野村も興味があるようだ。
[約100年後]
[100年か―。ちょっと先過ぎるなー。]
[こういうのに先過ぎとかあるの?]
と野村が疑問を投げかけた。
[来年とか2,3年後の未来のこと教えてもらえるなら色々使えるかもだからな。100年後じゃ俺死んでるし]
唯志にそう言われて、拓哉も野村もはっとした。
確かにその通りだ。まぁ現実は厳しいもので、100年後の子なんだが。
[んで、未来人拾ったのがマジだとして、今どんな状況よ。その未来人一緒にいるの?]
特に状況の飲み込みが早くて助かる。無駄な質問も無しときたもんだ。
とりあえず話を聞いてから判断するって感じなんだろう。
[今一緒にいるよ。これも一緒に見てるからね。]
[マジか、面白いなそれ。]
唯志は興味津々な様子だ。
大学の頃からの付き合いだが、彼が自分の好奇心に忠実なのは良く知っている。
今回も興味を持ってもらえたようだ。
逆に興味のないものは頭からも消し去る様で、全くと言っていいほど無関心になる。
(さて、とりあえず食いついたけど・・・)
ここから何を相談したら良いのか。
拓哉は頭を捻らせた。
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