第7話 帰路
-----視線が痛い。
光がコスプレみたいな格好だからだろうか。
それとも単純に不釣り合いな美女を連れてる拓哉に対するものだろうか。
周りの視線が集まっている気がする。
(チラチラみられてるなぁ。鬱陶しい)
普段あまり注目を集めるタイプではないため、余計周りの視線が気になった。
しかし連れているのが女性であり、美人ということもあって優越感も多少あった。
拓哉はひとり暮らしで、大阪市内ではなく隣の兵庫県尼崎市に住んでいた。
JRではなく阪神沿線ではあるが、梅田までも近く不便はしない。
「それにしても人多いですよね。」
光が話しかけてきた。
「そうかな?いつも通りの休日って感じだけど。」
「私の時代ではこんなに大勢の人、何かのイベントくらいでしか見ませんよ。」
忘れかけていた。
いや、忘れようとしていたがこの子は自称未来人だった…
真偽は不明だが、とりあえずその方向で会話は続けることにした。
「100年後ではあまり外を出歩かないの?」
「それもありますね。自宅とか屋内でだいたいのことが出来ますし。
でもそれ以前に人口が今の半分くらいなんじゃないかな。」
「半分!?6000万人くらいってこと!?」
「あ、今って1億2千万人もいるんですか?なら半分以下ですね。」
(半分以下!?・・・少子高齢化半端ねぇ。)
そうこう話しているうちに阪神梅田駅まで着いた。
「あ、切符買わなきゃですね。確かこっちの方に自動券売機が・・・」
拓哉でさえ自動券売機を使うのはかなり久しぶりだった。
「切符かぁ。あ、100円玉ならあるし使います?」
「それは止めた方が・・・僕が出しますので・・・」
永光なんて書いてある100円玉を使って、バレたら逮捕されそうだ。
切符を買って光に渡した。
「これが切符なんですね。これをどうするんですか?駅員さんに見せる?」
(マジか、この子。未来じゃ切符も使わないのか。)
「えっと、こっちの改札の方で、そこに切符を・・・あ、黒い方は裏で・・・あ、出てきたやつ取って下さい!」
なんとか改札は通れた。
「こっちの線です。あと5分ほどで来ますんで待ちましょう。」
「OKでーす!」
光は元気に返事した。
拓哉は内心焦っていた。
成り行きとはいえ、自宅に初めて女性が来る。
いや、成り行きだから困っている。
しかも泊まる予定だ。
何の準備もしていない。
(部屋は片付いてたはずだけど、念の為チェックしたい・・・)
(あとは何がいるんだ?わからない。)
経験が無さ過ぎて何をどうしていいかわからない。
(あ、そうだ!まだ時間あるし、この時間ならもしかして。)
拓哉はスマホのロックを解除し、skypo(スカイポ)を起動した。
スカイポはオンラインでチャットや通話が可能なアプリだ。
拓哉は普段からこのアプリだったり、PC版だったりで友人と連絡を取っている。
skypoのホーム画面を起動し、オンライン中のユーザーを探す。
(お、ノキ君いるいる。しかし、なんて相談する?)
ノキ君。skypoのユーザー名で、本名は野村 英樹(のむら ひでき)。
拓哉の大学の頃からの友人で仲も良く一番信用している人物だ。
そうこうしている時に、ノキの方からチャットが飛んできた。
[タック、おつーw昼間に珍しいね。]
タックというのは拓哉のskypo名だ。
[おつですー。ノキ君ちょうど良かった。ちょっと困ってた。]
[お、悩みごと?聞くよー。]
[とりあえず時間が無いので、質問とか説明は後でする。]
[うん]
[女性が部屋に来ることになった。てか泊まる事になった。]
[マジかwww]
[で、どうしたらいい?]
[どうしたらってなによー?どうやったらうまくいくかとか?w]
[成り行きなのでそういうのは無しとしてくれ。単純に何か準備要るかなって]
[エロ本とか片付けたー?w]
[いや、いつの時代だよw部屋はまぁこれから片付ける。他に何かあるかな?]
[ゴムは?]
[だからそういうのじゃないんだってw]
[じゃあ良いんじゃない?一応飲み物とか買って来たら?他は別に構える必要ないっしょ]
(構える必要ないって・・・こっちは童貞なんだぞ。これだから既婚者は余裕だな。)
[とりあえず飲み物は買って帰る。コロコロのファブリーズは念入りにする。
こんな感じで良いかね?]
[良いと思う―]
[ありがとう。とりあえず時間が出来たら夜か明日にでも報告するから!]
[おけー]
[あと、他の人にはまだ言わんといてね]
[りょー]
あまり得るものは無かったが、とりあえずノキ君のおかげで冷静にはなってきた。
「それって何ですか?さっきも見せてもらいましたよね。」
急に隣の光が話しかけてきて、ドキッとした。
(しまった、2人きりなのに放置してた・・・感じ悪いよな?)
「え、ああこのスマホですか?」
「そのスマホってやつです!」
「未来・・・だと、こういうの無いんですか?」
「うーん、そもそもそれが何なのか・・・画面みたいですけどこの時代のモニターですか?」
「いやこれは、ネットの出来る携帯電話・・・って言ったらいいのかな?」
「あー電話!携帯してるんですね、なるほどー。それでネットも出来ると。」
「未来だと電話は携帯しないんですか?」
「電話はテレビとかPCとか固定のものに付いてますね。基本デバイスで通話できますし。」
(あー、持ち運ぶやつは通話機能だけになってるのか。)
「そのデバイスってのは?」
「本体はこれですよ。」
光は腕に付いている小型のスマートウォッチの様なものを指さした。
「これ、スマートウォッチじゃないんですか?」
「時計型のデバイスです。未来では色んなタイプのデイバスがありますが、私は時計型にしてます。」
「これでネットとか通話とか出来るってこと?モニターとかは?」
「それは・・・あ、電車っぽいの来ましたよ。これに乗るんですか?」
いつの間にか時間が経っていたらしい。
ちょっと気になる話の途中だったけど、とりあえず電車に乗り込むことにする。
「これですね、乗りましょう」
阪神梅田駅は全路線の始発駅だ。
つまり、余程混んでない限りは座れる。
空いている席に光が座るように促した。紳士的に。
そこまでは良かったんだが・・・
(これとなり座っていいのかな・・・どうしたらいいんだ。)
紳士さのかけらもないほどキョドる事態に陥ってしまった。
そうこうしていると光の方から「座らないんですか?」と聞かれてしまった。
右往左往するわけにもいかず、あくまで冷静に腰を下ろした。
光とは、少し間隔をあけて。
(これくらいの距離あったら良いよな?混んでないし少し多めに席とっても良いよな?)
自問自答し、緊張しながら座っていた。
そのせいで先ほどの会話の続きを聞くことも頭からすっぽりと抜け落ちてしまっていた。
----沈黙
緊張のし過ぎで話題が出てこない。
かといってこの沈黙にも耐えられない。
何か話題が無いかと頭をフル回転させていたら光の方から話しかけてきた。
「そういえばこの電車にどれくらい乗るんですか?」
「あと・・・10分くらいですよ。」
「結構すぐですね。吉田さんの家って広いんですか?」
「1LDKなので・・・ひとりで住むには十分な広さですね。」
「あ、今更なんですけど・・・恋人とかいたりします?まずかったりしないですかね?」
「えっと、『今は』彼女はいないので、大丈夫です。」
何の見栄なのか、『今は』と付け加えた。今はではなく、今までなのだが。
「良かったー。今更だけど恋人とかいたら困らせるよなーって心配してましたー」
それから2,3他愛もない質問と回答を繰り返しているうちに拓哉のマンションの最寄り駅に到着していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます