第6話 朝田の行方

----佐藤は大量の汗を拭いながらたばこを吸っていた。

最近では数が減ってしまって喫煙所を探すのも一苦労する様になった。


1時間ほど走り回っただろうか。

ホテル街の方に真っ直ぐ向かったと仮定して追ってみたが、

朝田の姿は見つけられなかった。

その為周辺エリアをくまなく走り回ってはみたものの、

梅田は入り組んでいて死角が多い。建物内の通路や地下通路など、選択肢が多すぎる。

その上この人の多さだ。一度見失った時点でゲームセットだった。


「くそっ」

(上手くいけば証拠を押さえられたのに!)

缶コーヒーを飲みながらもう終わってしまった失態を後悔していた。

(なんなんだよ、あの時の光は。あんなの予想できないだろ。)


済んでしまったことはしょうがないが、このチャンスを逃した代償は大きいかもしれない。

「はぁ・・・また月曜から仕切り直すか・・・」

朝田妻からの事前情報で、朝田は日曜日にはほぼ家を出ないことを聞いている。

まぁ万が一外出しそうになったら連絡をもらう手はずだ。

明日は事務所で書類整理やら来客対応する必要があるし、切り替えることにする。

「とりあえず、事務所に帰るか・・・」

そう呟いて、佐藤はお隣福島区にある事務所へ帰る事とした。


収穫が無かったわけではない。

少なくとも浮気相手の可能性がある人物の確認に成功した。

まぁ浮気相手と決まったわけではないが、会っている時の表情や雰囲気から

恐らくクロだろうと佐藤の経験から判断している。

相手の方の調査もあるし、どの道来週も継続調査は必要だった。

ならポジティブに考えるべきか。

そう自分に言い聞かせながら環状線の内回りに乗り込んだ。


福島駅から徒歩で十数分、賑わっている繁華街から少し離れたところにある雑居ビルに

佐藤の探偵事務所がある。


「戻ったよー」

「おかえりなさーい」

女性の声が聞こえた。アルバイト兼見習いの八木恵だ。

「今日は早かったですね。上手くいったんですか?」

今は15時半頃だ。

この所朝田の調査で終電を超えることが多かった。

それでなくても浮気調査の類は夜が遅くなることが多い。

必然的に事務所の店じまいや戸締りは恵の仕事となる場合が多い。

「収穫はあったけど・・・まぁ今日は失敗だった。」

「今日も外れだったんですか?」

「いや、多分当たりだったんだけど・・・つけてる最中に撒かれた。」

「え、バレたんですか!?」

「いやーそれがさ・・・」

今日の経緯を恵に説明した。


「なんですかそれ。そんな不思議なことあります?」

そう言って恵はスマホをいじり始めた。

言われてみて気付いたが、結構な超常現象に遭遇していた気がする。


「それよりもめぐみん、今日は何かあった?」

佐藤不在の際の事務所作業は全て恵に任せている。

「めぐみんはやめて下さい。この間の橘さんから追加の依頼がありましたよ。」

「橘さん?報告書は渡したけど追加ってことはなんか問題?」

「いや、現場を押さえたいから突したいみたいですね。どうします?」

「橘さんの希望は?」

「こっちが良ければ明日打合せしたいらしいですよ。」

「おっけー。後で返事しておく。他には?」

「素行調査の見積り依頼もありましたね。そちらもお任せします。」

スマホをいじりながら恵が答える。

何を調べているんだか。


「あ、有りますね。梅田で謎の発光事件」

「なにそれ?」

「カズさんが遭遇したって言うやつですよ。Solitter(ソリッター)で少し話題になってますよ。」

恵にはカズさんと呼ばれていた。雇い主と従業員といった関係ではあるが、一応旧知の仲でもある。

仕事中くらいはちゃんと雇い主としての扱いをしてほしいものだが、とりあえずスルーする。

「そんなバズってるの?」

「梅田で謎の発光事件っていうハッシュタグもありますね。でもつぶやきの件数もそこまで多くないですよ。」

「そうか・・・」

まぁそりゃそうだろう。光っただけだもんな。

「あ、動画あげてる人もいますね!なにこれ、結構凄い!」

「ちょっと見せて。」

改めて見ると、結構な長時間、結構な光量。どうやったらこんなこと起こるんだ?


「これってガチの超常現象じゃないんですか?」

「言われてみればそうかもね。でも別に何かあったわけでもないしな」

「確かに・・・あ、でもこれあの人に見せたらどうですか?」

「あの人?」

「ほら、カズさんの数少ない友達にオカルト記者の人いたでしょ!」

「ああ、譲(ゆずる)か。」


間宮 譲(まみや ゆずる)。大学の頃からの友人で、未だに付き合いのある数少ない人物だ。


「せっかくだしこの動画を見せて、調べてもらいましょうよ!もしかしたら何か大事件かも!」

恵は楽しそうに言っている。

ただ光っただけだろうに、調べたところで何か出るのか?どうせ電気工事ミスとかなんかじゃないのか。

「どうかな・・・というかめんどくさい」

「良いから、ほら善は急げ!今すぐ連絡する!どうせ暇でしょ!」

暇ではないが。やる事いっぱいあるんだけど。

しかし恵のキラキラした楽しそうな目を見せられたら断る事も出来ず、

とりあえず譲に連絡してみるべくスマホを手に取った。

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