第99話 策略

 田所は、焦っていた。喧嘩自慢の武井さえも敵わない相手だ。挑発した事を後悔していた。かと言って、逃げる事はプライドが許さなかった。


(女子から絶大な人気があった桜井 涼介は、三枝にハメられて転校したと聞いた。 だから、奴を良く思わない女子は多いはず。 俺が暴力をふるわれて怪我をすればどうなる。 女子たちが噂を広めてくれる。 奴は、学年一の秀才だから、停学とかになり学校の評価が下がれば落ち込むハズだ)



 田所は、思った。そして、桜井 涼介に熱を上げていた女子たちに、自分が因縁をつけられて呼び出されたと言って、噂が広まるようにした。



◇◇◇



 昼休みの事である。数少ない友人の加藤が俺に話しかけてきた。



「なあ、三枝。 今日の夕方、城東公園に行くのか?」



「何で知ってるんだ?」


 俺は、田所との約束を、加藤が知ってる事に驚いた。



「いや、俺も人伝てに聞いた話だから正確じゃないんだ」



「どんな話を聞いたんだ?」



「3年の田所って奴がいるんだが、そいつが、おまえに脅されて、今日の夕方、城東公園に呼び出されたと言ってるらしい」



「それは、逆だよ。 俺が呼び出されてるんだ。 タイマンで俺を叩きのめすんだってさ」



「三枝に喧嘩を売るなんて、田所という奴は強いのか?」


 加藤は、驚いた顔をした。



「強くは見えないが、自信があるんだろうさ」


 俺は、笑顔で言った。



「三枝、何か楽しそうだな」



「まあな」


 正直、俺はワクワクしていた。



「でも、相手に怪我をさすなよ。 噂が広まると、暴力事件として学校が取り上げる可能性があるぞ。 もしかして三枝を嵌めようとしてるんじゃねえのか?」



「そうかも知れないが、男たるもの売られた喧嘩から逃げる訳に行かない」



「じゃあ、俺が隠れてスマホで撮影してやるよ。 万が一の時に、拡散すれば真実が伝わるだろ。 ところで、タイマンは何時に呼び出されてるんだ?」



「あっ、時間を聞いてなかった。 午後の授業が終わったら、直ぐに向かうさ」


 俺の話を聞いて、加藤は呆れた顔をした。



「ところで、田所ってどんな野郎なんだ?」



「いわゆる優男だ。 女見たいな顔をしてる。 女子に人気がありそうだな」



「そうか。 女子が同情しそうなのか」



「見た目では、俺は不利さ。 でも、俺を良く思ってないのは、女子だけでなく男子も同じだと思うがな」


 俺は、少し情けなさそうな顔をした。



「奴の魂胆は、女子を通じて噂を広める事だぞ。 男子は興味ないと思う」


 加藤は、真面目な顔で言った。



「ああ。 桜井 涼介が転校した件で、俺が悪者になってるから、女子はここぞとばかりに噂するだろう」



「何だ、自覚があるんだな。 良く分かってるじゃないか。 気にしてるのか?」



「自覚してるが、そんなもんかと諦めてる。 気にはしてないさ」


 俺は、少し強がった。



「三枝は、強心臓だよな。 ある意味羨ましい。 そうだ、今日は学食に行こうぜ。 いつも学校の外で食ってるんだろ? たまには学内で食えよ」



「分かった。 久しぶりに行くか!」


 昼食は、いつも学校近くの定食屋で食べていたが、久しぶりに学食に向かった。


 学食に着くと、俺は、加藤とあい向かいに座った。



「なあ、三枝。 視線が気にならないか?」



「早速、注目されてるようだな。 まあ、慣れているから良いさ」



 何やら周りの女子たちが、こちらを見てヒソヒソと話をしている。



「三枝よ。 おまえ、ある意味有名人だよな。 桜井の件で女子に良く思われてないのに …。 でも、不思議だ」


 加藤は、思わせぶりに俺を見た。



「何が、不思議なんだ?」



「なぜか、美人にモテるよな。 本当に不思議な奴だよ」



「なに言ってんだか?」



「俺は、田中 安子に憧れていたんだ。 別れたとはいえ、三枝が羨ましいぜ」



「過去の話さ。 転校した彼女とは連絡もしてないんだ。 それより、学生の本分は勉学だぜ。 お互いに頑張ろうぜ!」



「おいおい、学年一の秀才に言われると嫌味に聞こえるぜ」


 加藤は、目を細めた。



「加藤、ありがとうな」


 俺は、加藤に素直な気持ちを伝えた。



◇◇◇



 夕方になり、加藤が話しかけて来た。



「三枝、先に城東公園に行ってるから、時間をずらして来てくれ」



「分かった。 手間を取らせて悪いな。 でもな、俺は正しいと思われる行動を取ろうと思ってる。 だから、その場の状況によっては、自分に不利な映像になるかも知れない。 それであっても構わないから、真実を写してくれ」



「分かった,そうする。 三枝は、男らしいよな」


 加藤は、笑顔になった。



「そんな事はねえけど。 それより、塾とかは良いのか?」



「城東公園の一件が終わったら行くが、もし遅くなるようなら、今日は休むさ」



「それで良いのか?」



「気にするな。 中学からの仲じゃねえか。 そんじゃ先に行くわ」


 そう言うと、加藤は向かった。


 俺には、心を許せる友達がいないと思っていたが、それだけに加藤の気持ちが嬉しかった。彼が困った事があったら助けてあげたいと思った。



◇◇◇



 城東公園に着いた。周りを見渡したが、まだ田所は来てなかった。加藤が木影に隠れているのが見えた。



 俺は、広場の隅にあるベンチに座った。しばらくしてスマホが鳴った。



「加藤だ。 桜の木があるだろ。 そこにいるからな」



「ああ。 でも遠すぎないか?」



「画像を拡大できるから大丈夫だ」



「そうか、分かった。 頼んだぞ」



 電話を切った。


 しばらく待ったが田所はまだ来ない。わざと遅れて、俺を焦らす魂胆なのかも知れない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る