第98話 不良仲間

「おまえは、根っからの悪人だろう」


 角坂は、わざと田所を挑発した。



「そんな事は無い。 俺だってみんなと仲良くしたいと思ってる」



「そんな事じゃねー。 強い者にへつらい、弱い者をイジメテ快感を覚える。 最悪の性格じゃねーかと言ってるんだ!」



「俺はお前らより、年上なんだぞ。 言い方ってものがあるんじゃないか?」


 田所は、角坂に食ってかかった。



「やけに態度がでかくなってきたなあ。 田所さんよお!」



「いや、そんなことは …。 すみません」


 神野に言われ、田所は我に返った。



「角坂が言う通り、田所さんはずる賢いところがあると思うぞ。 誰しもが大なり小なりあるが、あんたの場合、度が過ぎてんじゃねーのかい?」


 神野が、いつもより優しく言った。でも、顔が怖い。



「そっ、それは …」



「ハッキリしろ! いったいどっちなんだ?」


 神野は、我慢できずイライラしだした。我慢できる時間は短い。



「すみません。 反省してます。 今後は絶対にしません。 だから許してください」



「そのために、何をすれば良いか分かってるのか?」



「どうすれば?」


 田所は涙目で聞いた。



「被害者に直接謝りな。 それに、謝罪文も書きな!」



「被害者が誰か知らないんです。 アイディアを提供しただけですから」



「お前の仲間の、武井に謝罪させるから、そいつらと一緒に行け」



「分りました。 何でもします」


 田所は、諦めたようだ。



「おい、角坂。 奴らから取り上げたスマホの解析はどんな感じだ?」



「さっき、データを全て吸い上げた。 俺が作ったプログラムで情報を仕分けできる。 もちろん田所のスマホもな!」


 角坂は、楽しそうだ。



「なあ。 俺は、用がないみたいなんで、これで失礼するぞ」


 俺は、する事がなくて飽きてきた。



「え〜、三枝。 もう行くのか? 寂しいぜ」


 神野が、目をパチクリして俺を見た。表現できないほどの顔の怖さだ。



「あとは、俺に任せとけ! 情報を暴いて丸裸にしてやるぜ。 ウヒヒヒヒ!」


 角坂が笑った。不気味すぎて思わず目を逸してしまった。


 その後、俺はゲームセンター宝島を後にした。



◇◇◇



 翌朝の事である。校門の前に行くと田所が俺を待っていた。



「三枝君、待っていたんだ。 話を聞いて欲しいんだ」



「田所先輩、俺はあんたに用はない」



「神野さんと角坂さんを止めて欲しいんだ。 一生のお願いだ」



「さっき、三枝君と言ったが、何で神野さんと角坂さんなんだ? あの2人は俺と同じ歳だが、呼び方を使い分けてるじゃねーか。 俺を甘く見てるのか?」



「そんな事は、ありません。 お願いです。 あの2人を止めてください」



「いやだね」


 俺が即答すると、田所はなんとも言えない嫌な顔をした。



「本当にお願いします」



「俺が言っても聞かないさ。 だから無理なんだよ」


 俺は、正直に答えた。



「う〜ん」


 田所は、泣きそうな顔でうなった。



「田所さん。 悪いことをしたんだから、謝罪するのは当然の事だろ! 何で、それができないんだ?」



「俺にもプライドってもんがあるんだ。 どうしても頭を下げたくない奴がいるんだ」



「アイディアを提供しただけで、相手を知らないと言ってたが、あれは嘘か?」



「確かに知らない …。 だけど、中の数名は知ってる奴なんだ」



「ハッキリ言えよ!」



「中学時代に気に食わなかった奴らを懲らしめたかったんだ。 そいつらに謝るなんてできない」


 田所は、下を向いた。



「この後に及んで、そんなこと言ってる場合か? あんたがやった事が公になれば、この学校を退学になるかもしれないぞ。 生まれ変わったつもりで謝りなよ。 なあ、田所先輩」



「う〜ん」


 田所は、また下を向いてうなった。



「じゃあ、これで。 俺は、もう行く」



「待て三枝! 元はと言えば …」


 俺が行こうとすると、田所は俺を睨んで何か言おうとした。



「何だよ?」



「おまえが、俺の女を取ったから悪いんだ」



「はっ?」



「本来なら、田中 安子は俺になびくハズだった。 それなのに、ちょっかい出して俺から奪った」


 田所の目が泳いでいる。切れたようだ。



「ゲームセンター宝島で、女子生徒に振られた事を思い出したと言ってたが、その事と関係があるのか?」



「ああ、そうだ。 この野郎!」


 いつもの生意気な田所に戻った。



「その娘の彼氏は見た目がヤンキーで、モテない男に負けたと言ってたが、そのヤンキーは俺なのか?」



「ああ、そうだ」


 田所の顔が引きつった。よほど悔しかったのだろう。



「ふふーん、そうだったのか。 全く気づかなかったぜ。 それで、どうすんだ?」



「田中 安子の住所を教えろ。 おまえは、別れたんだろ」



「よく知ってるじゃねえか。 それで、俺が安子の住所を教えると思うのか? まさか、本気で言ってるのか?」



「ああ、本気だ。 彼女の住所を言え!」



「安子の件は、おまえには関係ない。 知りたければ力づくで来な」



「学校では、ケンカできない。 だから夕方に城東公園に来い。 一対一のタイマンでケリをつけてやる。 仲間に連絡するんじゃねえぞ!」



「それは良い。 しっかりと相手をしてやるよ」


 田中 安子の事がキッカケで、田所の威勢が良くなった。俺は、その態度を見て可笑しくなった。強がってはいるが、背伸びしている感が否めない。田所は、ある意味ひょうきんな男だと思えた。

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