第97話 田所への制裁

 翌日の朝、教室で加藤が話しかけてきた。



「三枝、何かいつもと雰囲気が違うな …。 怒ってないか?」



「えっ! なぜ、そう思うんだ?」



「なんか、殺気のようなものを感じるんだ。 怒ってるだろう!」


 加藤は、ニヤついた。



「まあな」


 実は俺は、田所に腹が立っていた。静香を襲った連中が仲間だったという事は、奴も同類なのだろう。だから、懲らしめたくてウズウズしていたのだ。


 そんな俺の気持ちを感じ取ったのだとしたら、加藤は只者ではない。加藤は武道の素質があるのかもしれない。俺は、加藤の顔をマジマジと見た。



「何だよ。 俺の顔に何かついてるか?」


 加藤は、不思議そうに言った。



◇◇◇



 放課後、俺は3年の教室の前にいた。しばらくすると田所が出てきた。


 写真では見ていたが、本人に会うのは初めてだ。背は俺より低く175センチ位で、女性のような顔立ちのイケメンだ。



「田所さん、待ちな!」


 俺は、大声で呼びかけた。



「何だ! おまえ …。 下級生が俺に何の用だ!」


 田所は、俺を見て驚いたような顔をした。



「昨夜、女子学生を襲った不良がいたが、田所 雅史が仲間だと言ってた。 そのことで話がある。 これから付き合え」


 そう言うと、スマホの画像を見せた。



「寝ぼけたことを言ってんじゃねえぞ。 何で俺がそんな奴らと関係があるんだ!」


 田所は声を荒げたが、手が震えていた。



「ここに写ってる武井 明が、田所が友人だと言ってたぞ! 連中に悪事を指図してたって言うじゃないか。 証拠もあるぞ!」


 俺は、田所が連中とやり取りしたメールを見せた。



「なぜ、それを? おまえは、本物の不良なのか?」


 田所は、不安そうな顔をした。



「バカ言ってんじゃねえ。 不良は、田所さん、あんただろうが!」


 俺は、心底思った。そして、可笑しくなり思わずニヤついてしまった。



「何、ニヤついてる! 俺は、不良じゃない。 頼むから言わないでくれ」



「なら、これから付き合え! 俺が後ろからついて行くから、このまま校庭へ出ろ」


 田所は、俺の言葉に従った。


 やがて、校庭に着いた。



「これから、どこへ行くんだ?」


 田所は、不安で泣きそうだ。周囲に人が居なくなったせいか、急に弱気になったようだ。



 俺はそれを見て、ドスの効いた声で話した。


「決まってるだろ。 ゲームセンター宝島に行くんだ!」



「おまえ …。 やはり、あのデカい不良の仲間なのか?」



ボスッ



「ウグッ」


 俺は、面倒くさくなり、脇腹に一発拳を入れた。



「痛い目にあいたくなかったら、さっさと歩け!」



「分かりました」


 田所は、勘弁したようで、後ろを振り向かず一心に歩いた。


 

 やがて、ゲームセンター宝島に着いた。中に入ると大柄の男が待ち構えていた。



「やあ、田所さん」


 神野が話しかけると、田所は下を見た。



「そう怖がる事はねえさ。 まあ、こっちに来なよ」


 神野は優しく言った後、いつものように奥の事務室に案内した。田所は、恐怖で声が出ない様子だ。



 部屋に入ると、神野は 田所に微笑んだ後、話しかけた。顔が怖いから、いっそう不気味さが増している。



「田所さんよ。 まずは、あんたのスマホを預かるから出しな! それから三枝も、預かっているスマホをくれ」



 俺は、不良から取り上げたスマホ3台を神野に渡した。田所も一瞬嫌な顔をしたが、スマホを渡した。神野は、スマホ4台を持って隣の部屋に入り直ぐに戻った。



「俺のスマホは?」


 神野の手にスマホが無いのを見て、田所は不安になり聞いた。



「うるせえ!」



「いや、何でもないです」


 田所は、唇を噛んだ。



「何で、不良連中に悪事を働くように指示したんだ?」


 神野は、ドスの効いた声で話した。



「それは …」



「聞こえねえぜ!」



「あの不良連中のリーダーは、武井と言って中学時代の同級生なんです。 高校が別になったから、会うこともなかったんですが、それが半年ほど前に突然電話があって …」


 田所は、下を見て黙り込んだ。



「おい、早く話せ!」


 神野に言われ、田所は覚悟を決めたようだ。



「武井から、教師とトラブルになり退学になったと聞かされて、それで会ったんです。 奴の話を聞いて、俺も凄くムシャクシャした気分になってしまい …」


 田所は、言葉に詰まった。



「早く、言え!」


 神野が睨みつけると、田所はビクッとした。



「2年の時、女子生徒に振られた事を思い出して …。 その娘には彼氏がいたんですが、そいつは見た目がヤンキーで、どう見ても俺の方がモテそうなのに負けてしまって …。 その屈辱の感情が巻き起こったんです。 俺は中学時代、武井と連んでヤンチャしてた時期があったんですが、一緒に息抜きをしようと誘われて …。 さすがにマズイと思い断ったんです。 そしたら、昔の悪事をバラすと脅されて …。 それで、捕まらない悪事のアイデアを出すから勘弁してくれと言って、了解してもらいました」


 田所は、真剣な目で神野を見た。嘘は無いように思える。



「その話、少し変だ」


 隣の部屋で話を聞いていたのか、角坂が乱入してきた。


 田所は、驚いた様子で角坂を見た。



「おまえが書いたメールの文面を見てみな。 罪の意識は、これっぽっちも感じられない。 むしろ文脈からすると楽しそうにやってるじゃないか。 それに、悪事のアイデアが次々と湧くもんだよな。 おまえが積極的に関わってた状況証拠だ。 さあ、どうなんだ!」


 角坂は、自信に満ちた表情で田所を見据えた。

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