第79話 菱友家の事情

 香澄は、ゆっくりと話し始めた。


「元太さんの母上が京都の出身と言ってたけど、私の お母様も京都なのよ。 なぜか、両親が大学教授なのも一緒だわ。 不思議よね! 私の お母様は、国立の京西大学の文学部出身なんだけど、文部科学省の学生交流事業で、大学3年の時に お父様と知り合ったの。 同学年なのよ。 お父様から猛アタックを受けたと言ってたわ」


 香澄は、呆れたような顔をした。



「大学3年の時に知り合って、学生結婚したのか?」


 父と母の学生結婚に、才座が触発された気がした。



「在学中に周りを説得して、卒業したら直ぐに結婚したの。 お母様が美人だから、誰かに取られるかと思いヒヤヒヤしたって。 ああみえて、お父様は気が小さい所があるのよ」 


 俺は、母の前で小さくなる父の姿を思い浮かべた。



「次に、住菱の事を話すわ。 元太さんにも関係のある話よ …」


 香澄は、俺を見つめた。



「えっ、何で俺に関係があるんだ?」


 俺は、不思議に思った。



「知ってると思うけど、私の父は住菱物産創業家の血筋だから、祖父が引退するとグループの中核となる 住菱物産の社長になるわ。 私は、父の後継者として指名されてるから、大学を卒業すると、まずはグループ会社に入社して役員になるの。 父は住菱銀行の役員を経て住菱電気の社長になったけど、私は住菱銀行の役員を経て住菱重工の社長になる。 そして、最終的には住菱物産の社長になるわ。 これは既定路線なの。 でもね、正直に言うと気が進まない所もあるの。 お父様は、それを見抜いていて、元太さんを婿にして、跡を継がせようとしてるわ。 でも無理強いはできないから、私が元太さんを好きな気持ちが無ければ、諦めると言われた。 でも、私は元太さんが相手なら良いと思ってる」


 香澄は、顔を赤くした。



「何だよ。 それって、俺の気持ちは無視か?」



「そうよ。 お父様は、元太さんが応じてくれると信じてる見たい。 それに、元太さんの事を息子のように思ってるわ」


 香澄は、キッパリと言った。



「香澄さんが跡を継ぐのが嫌なら、妹の静香さんがいるじゃないか」


 俺は、彼女の顔を思い浮かべた。



「そう簡単じゃないわ。 跡を取る者は、文武両道である事が条件と昔から決まっていて、祖父は それを厳格に守ってる。 だから 私達 姉妹は、小さい頃より父から空手を教えられたけど、静香は長続きせずにやめてしまったの」



「なんで、経営に武道が必要なんだ?」


 俺は、不思議に思った。



「協力なリーダーシップが必要なのよ。 武道の経験が訳に立つわ。 それに、部下に負けない知識もいるから、歴代の後継者は、皆、国立最高峰の東慶大学に進学し学んでる」


 香澄は、自慢そうな顔をした。



「そうか、厳しいんだな」



「元太さんは、勉強が不安なら私が見てあげるわ。 こう見えても、私、駒場学園高校で学年20番以内なのよ」



「それは凄い。 模試で、東慶大学が合格圏内なだけはある」


 俺は、香澄をおだてた。



「元太さんも、有名進学校の上等学園高校に入学できたんだから、頑張れば東慶大学に合格できるよ。 駒場学園高校の場合、学年は500人位いるけど、100番以内じゃないと東慶大学に合格できない。 元太さんの学年順位はどうなの?」



「まあな」


 香澄の自慢げな顔を見ていると、自分の成績が、学年1位だと言えなくなってしまった。



「答えにくい事を聞いてゴメンね。 火曜のミーティングには、演習問題を持って来てよ。 分かりやすく教えてあげるわ」


 香澄は、ニッコリと微笑んだ。俺の成績が振るわないと思って気を遣っているようだ。



「それから、妹の静香の事だけど …」


 香澄は、言いにくそうな顔をした。



「どうしたんだ?」



「あの娘は、見た目と違い野心的な所があるから気を付けて …」


 香澄は、言葉に詰まった。



「ハッキリ言ってくれ」



「定食屋で言ったけど、あの娘の好みが 私と一緒なのは本当よ。 でもね、元太さんに気があるような事を言っても全てを信用しちゃダメ。 お父様が元太さんを良く思ってる事を知ってるから、それを利用して 跡目問題に加わろうとしてる気がする」


 香澄は、心配そうに話した。



「妹さんは、まだ 中学生だろ …。 もしかして、姉妹は 仲が悪いのか?」


 俺は、答えにくい事を、あえて聞いた。



「悪くはないけど。 仲が良いとも言えない …」


 香澄は、言いにくそうな顔をした。



「彼女は まだ中学生だから、付き合うとか絶対にない。 それに、前にも言ったけど、学生の本分は勉学だから、香澄さんとの事も同じさ」


 俺は、キッパリと言った。



「それは聞いたけど …。 私は努力して性格を改善したのよ。 それを正当に評価してほしいわ!」


 香澄は、不満をあらわにした。



「俺達は、友人になれたじゃないか。 何事も、これからなんだよ! お互いを知る事から始めよう」


 俺は、正直な気持ちを伝えた。



「う〜ん。 しょうがないか」


 香澄は、悔しげな表情をした。



 話し込んでいたら、すっかり夕方になっていた。



「大変、今日は、塾の講師が来る日だった。 直ぐに帰らないと!」



 2人は、急ぎ駐車場に向かった。着くと、すでに車が待機していた。



「元太さん、家まで送るよ」



「いや、寄りたい所があるから歩いて行くよ。 ありがとう」



「そう、分かったわ。 じゃあ今度は火曜の午後6時よ。 必ずよ!」



 俺は、香澄と駐車場で別れた。

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