第78話 学校での評価

 俺と香澄が歩いている姿を、3人の女子生徒が遠くから見ていた。


「あれって、2年の三枝じゃない? 桜井君を追い出した不良よ」



「本当だ。 絶対に許さない!」


 3人の女子は、口を揃えて言った。



「ねえ、手を繋いでる女子を見て! スタイルが良くて凄く綺麗よ。 あんなに美しい娘は、この学校にいない。 いったい誰なのかしら?」


 1人の女子が、指さした。



「三枝の奴、好き勝手して許せない! それに あの娘、騙されてるんじゃないの?」



「三枝が危ない奴だって教えてあげようよ!」



 3人の女子は、遠くから俺達に叫んだ。


「三枝、聞こえるか! 桜井君を追い出して綺麗な娘と手を繋いで良い気なもんだ! 責任をどう感じてるんだ? その娘のことは、鈴木 貴子のように、暴力で洗脳したんでしょ。 彼女、早く逃げて 〜。 ハハハ」


 3人は 大声で笑った後、一目散に逃げて行った。


 俺たち2人は、しばし呆然としていた。



「香澄さん、分かっただろ。 あれが女子生徒の、俺への評価さ」


 俺は、包み隠さずに話した。



「上等学園高校って偏差値が高い学校だと聞いたけど、バカが多いのね。 それにしても、何なの アイツら!」 


 香澄は、相当に怒っていた。



「俺は、気にしてないよ」



「ねえ、元太さん。 駒場学園高校に来なよ。 上等学園高校に負けない進学校だから、不足はないよ。 お父様に頼んであげるわ」


 香澄は、心配そうに俺を見た。



「心遣いは感謝するけど、俺は今の学校で頑張るよ」


 俺は、正直な気持ちを伝えた。



「残念だわ。 ところで、元太さんは 大学を決めてるの?」



「ハッキリと決めた訳じゃないが、両親と同じ大学に行こうかと考えてる」



「元太さんの父上は、東慶大学の法学部を卒業後、警察庁の官僚をしてるんでしょ。 母上も、同じ大学の同級生で官僚なんですってね」



「おっちゃんに聞いたのか?」



「ええ。 お父様に聞いたわ。 私も 東慶大学の法学部を目指してるのよ。 この大学は、私のお父様の母校でもあるわ。 元太さんも官僚を目指してるの?」


 香澄は、興味あり気に聞いた。



「いや、俺は官僚を目指してる訳じゃない」


 俺は、正直な気持ちを伝えた。



「そうなの。 私は、ゆくゆくは お父様の跡を継ぐつもりよ。 でもね、元太さんが旦那様になってくれるなら、社長は あなたに譲るわ」



「おいおい。 からかうなよ」


 俺は、つい ニヤけてしまった。



「えっ、本気よ。 お父様も言ってるのよ。 ねえ、ところで 全国模試の結果はどうなの?」



「俺は、塾に行ってないんだ。 全国模試は、1年の時に1回だけ、国語、数学、英語の3教科を受けた事があるが、東慶大学が合格圏内にあるか知らない」



「そうなんだ。 塾に行った方が良いと思う。 何と言っても東慶大学は、国立の最高峰だから、甘く見ない方が良いよ!」



「分かった。 考えとくよ」



「今度、一緒に勉強しようよ。 私は合格圏内にいるから、元太さんの勉強を見てあげるわ。 だから、安心して」


 香澄は、俺のプライドに配慮しながら優しく微笑んだ。



「そうか。 スマン」


 香澄の優しそうな顔を見ていたら、つい お願いしてしまった。



 話しに夢中になっているうちに、城東公園に着いてしまった。結局、ずっと手を繋いだままだった。



「なあ、観覧車のところまで軽く走らないか?」


 俺は、香澄を挑発した。



「えっ、スカートじゃないから …。 オッケー」


 そう言うと、香澄はいきなり走り出した。



「おい、待てよ! 軽くと言ったのに」


 俺は必死に追いかけた。外周路を走り、観覧車が見えて来た。正直、彼女は速く、着いて行くのがやっとだった。



「あそこの東屋に行こうよ!」


 到着すると、香澄が指をさした。


 そこは、俺と貴子と安子の3人で、最後に話した時の東屋だった。俺と香澄は、小さなテーブルを挟み、向かい合って座った。



「最初に、香澄さんに伝えておく事がある …」


 俺は なぜか、涼介とそれに関係した3人の女子のことを、香澄に話しておきたいと思った。



「深刻な顔をして、どうしたの?」


 香澄は、心配して聞いて来た。



「こんな俺にも、高校に入ってからなんだが、恋愛の真似事のような経験があったんだ。 その発端となったのは、さっき 3人の女子が桜井君と叫んでたが、その桜井 涼介が関係していた。 彼は、イケメンにして勉強ができスポーツ万能、さらに大会社の御曹司だ。 まさに、この学校のスターだった。 だが彼は、ある事件を起こし日本を去りアメリカに住んでる。 外面が良いが、実は心を病んでいて、裏で信じられない行動をしていた。 だから、必然的に事件を起こした。 アメリカでは、心のケアも受けている …」


 俺は、香澄の表情を注意深くうかがった。



「その人が、元太さんの恋愛にどう関係があるの?」


 香澄は、不思議な顔をした。



「奴は、俺にとって数少ない心を許せる親友だと思っていた。 しかし、実際は違ってた。 なぜか奴は、誰にも負けられないという強迫観念のようなものに囚われていて、自分を優越させるために、俺から全てを奪おうと企んでいたんだ。 それを教えてくれたのは、鈴木 貴子という女子だった。 実は、彼女は俺の初恋の人だったんだ …」



 俺は、桜井涼介とその両親のこと、俺の両親との関わり。 細木沙耶香のこと、鈴木貴子のこと、田中安子のこと、全てを話した。



「正直に話してくれてありがとう。 実は、お父様から、元太さんの両親との、大学時代の話を聞いたわ。 美しく優秀な母上なんですってね。 以前、元太さんの事をマザコンなんて言ってゴメンなさい …」



「まあな」


 俺は、ひとこと言った。



「元太さんが言ってくれたから、私も自分の事を話すわ」


 そう言うと、香澄は 俺を見据えた。

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