第40話 涼介への対抗

 定食屋に入ると、店主の威勢の良い声が聞こえた。



「いらっしゃい」



「いつものを」


 俺は、店主に目配せした。



「あいよ、承知」



 俺と安子は、いつもの席に座った。


 安子は、待ちきれずに話し始めた。恐らくハブられて、心細かったんだと思う。



「少し前まで、元太と貴子が噂されてたけど、今は 私とだね。 でも、私は平気だよ。 話しかける人が居ないから返って気が楽なもんよ」


 安子は、強がっているように見える。



「俺は、昔からアウトローだったから気にならないが、安子が心配だ。 ラブホに入ったなんて、学校側に本気にされたらダダでは済まないと思う。 だから、俺と一緒じゃない方が良いと思うぞ」



「そんな事、言わないで。 元太と居たい。 絶対に嫌!」



「恐らく、今回の件は涼介が仕組んだ事だ。 俺は今まで黙っていたが、もう我慢の限界だ。 俺は奴と決着をつける。 その間、学校で会うのはやめよう。 昼も校門前での待ち合わせをやめて、ここに直接来る。 放課後もスマホで連絡を取り合って落ち合う。 後ろめたい事は無いが、慎重に行動した方が良いと思う」



「うん。 元太が言うなら そうするけど、条件があるわ」



「なんだよ?」



「まず、涼介に怪我をさせたらダメよ。 それから、会えない日は、必ずスマホで連絡をすると約束してほしいの」



「ああ、分かった」


 俺は、約束した。



◇◇◇



 放課後、南田に呼ばれた。例の噂の事だろう。俺は、安子にメールで図書館に行けないと伝えた。




「失礼します」


 個別指導室に入った。



「そこに座りたまえ」


 俺が座ると、南田は心配そうな顔をして俺を見た。



「例のカンニングの件といい、君は、誰かに恨まれてるのか?」



「自分と田中 安子が ラブホに入ったのを見た生徒がいるという、デタラメな噂の事ですよね。 なぜか、桜井涼介がやたら自分に干渉して困っています。 これまでも、例のカンニングの言いがかりや、俺が札付きの悪で、暴力により女子を洗脳したとか噂を流されました。 信じられない思考回路の持ち主です。 先生も知っての通り、彼は 大企業の御曹司で容姿端麗、スポーツ万能、見た目は 誰からも好かれる非の打ち所のない男です。 そんな彼に睨まれたら皆が敵にまわってしまいます。 たまったもんじゃないですよ。 でも、さすがに今回は腹にすえかねており、奴がした証拠を掴もうと考えています」


 俺は、真面目な顔をした。



「今回の、君と 田中 安子が不純な交際をしてるという噂だが、校長の耳にも入ってしまった。 校長には根も歯もない噂だと報告しておくが、君も行動には注意してほしい。 それから、困った事があれば言ってくれ」



「ありがとうございます。 でも、桜井興産が絡むと、先生のお立場が辛くなるのでは?」



「心配ない。 君にだけ言うが、転職する事にしたんだ。 ここも、あと数ヶ月さ。 最後に君の力になりたいと思ってる。 この事は、誰にも言わんでくれよ!」


 南田は、照れたような顔をした。



「分かりました」



 個別指導室を後にした。



◇◇◇



 俺は、神野に電話した。



「おお。 三枝どうした?」



「しらじらしいな。 加藤から聞いてるだろう?」



「ああ。 お前のことは知ってるぞ! 美人とラブホなんて、名誉な話しじゃねえか。 高校に入ったらモテ期が来たな。 おめでとう!」


 神野は、いつもの調子だ。



「バカ言ってんじゃねえ。 ラブホなんて行ってねえし、相手の娘が可哀想だろ。 俺は、涼介が悪意を持って噂を流した証拠を掴もうと思ってる。 でもな、今の学校では 仲間が皆無だし困ってるんだ。 率直に言う、手を貸してほしい」


 俺は、恥を忍んで神野に頼んだ。



「いくらでも手を貸したいところだが、他の学校での事だから難しいぜ」


 神野は、にべもなく断った。



「とぼけた事を言うなよ。 神野は、ここら一体を仕切る裏番長だろ。 それに、今まで どれだけケンカの助っ人をしたと思ってるんだ」


 俺は、強めに言った。



「ハハハ。 かの元太もお手上げか? 自分1人ならどうって事なくても、女がいると弱えな。 まあ良い、協力するぜ。 そういや 桜井の奴だが、人を使って角坂を懐柔しようとしたぜ。 角坂が言うには、俺に関する情報料が一回につき 5万円だとよ。 高えよな! ガセネタ流して金を巻き上げるつもりだぜ」



「お前、本当に高校生なのか? 将来が恐ろしいぜ」



「なに言ってやがる。 俺は、大学にだって行くぜ。 三枝と同じ大学かもな」



「そうか。 楽しみにしてるぜ」



 神野は頭が良いから、あながち嘘ではないと思えた。



◇◇◇



 夜、安子から電話が来た。



「南田先生の話しはどうだった」



「ああ、俺と安子の噂の事だった。 校長の耳にも入ってるってさ。 約束した行動で乗り切るけど、何か 嫌がらせを受けたら直ぐに連絡をほしい」



「うん、分かった。 ところで日曜に元太の家に行きたいな。 これもダメなの?」



「ダメじゃない。 ただ、貴子の家が近所だから、見つからないようにしたほうが良い。 俺の家の住所と位置情報をメールするから、GPS機能を使って そっと訪ねてきてくれ」



「オッケー。 隠密行動ね、任せてちょうだい。 午後一番に行くわ」



「ああ、両親に話しとくよ。 母さんがハッスルしそうで怖いぜ」



「ねえ、どんな感じの人なの? 少し不安だわ」



「会って見てのお楽しみだ!」



「なんか、元太のお嫁さんになるみたいね」



「変な事言うなよ」



「冗談よ。 じゃ」



 電話を切った。


 安子が来るのは嬉しいが、貴子の事を思うと 少し複雑な気分だ。俺は、まだ引きずっているようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る