第41話 情報源

 翌日の昼時の事である。安子と定食屋で食事をしていると、突然スマホが鳴った。着信を見ると、神野からだった。



「よお、三枝。 今、電話良いか?」



「ああ、良いぜ。 どうした?」



「例の噂を流した奴だが、分かるかもしれない。 今日の夕方、ゲームセンター宝島に1人で来てくれ」



「ああ、分かった。 ところで情報源は誰だ?」



「来れば分かるさ。 じゃあな」


 電話を切った。



「元太、どうしたの?」



「俺たちの噂を流した奴が、分かるかもしれない」



「えっ、凄いね。 ところで電話は、誰からなの?」



「このまえ話した神野からだ。 俺は この学校では浮いてる存在で、しかも仲間がいないから、探ろうにも方法が無いんだ。 それで、神野を頼ってしまった」



「神野さんて、違う学校なんでしょ。 何で、私たちの学校内の事が分かるの?」



「奴は、この辺り一体を仕切る裏番長と言われてる。 その意味が分かるか?」



「ケンカで負かせて、この辺り一体の悪い連中を従えてるから?」



「ケンカが強いのもあるが、それだけじゃない。 人望があるんだ。 ほとんどの学校に彼の息のかかった者がいて、神野に情報を上げてるんだ。 非道な輩がいると黙ってない性分だから、違う学校でも乗り込んで解決に行ってしまう。 要するに、ガラの悪いお人好しといったところだな」



「面白そうな人ね。 一度、会ってみたいな」



「顔が、かなり怖いぞ!」



「オシッコちびっちゃうかも。 でも、なおさら見たい!」



「おまえ、本当に ひょうきんだな。 神野も気にいるかも。 実は、今日の夕方会うが、1人で来るように言われたからダメだ。 恐らく情報源となる人を連れて来ると思う」



「分かったわ。 それだと、今日の図書館での勉強はキャンセルね。 代わりに塾に行くわ」



「悪いが、そうしてくれ」



 安子は、少し残念そうな顔をした。




◇◇◇



 夕方になり、ゲームセンター宝島に来た。中を探したが、神野はまだ来ていない。俺は、麻雀ゲームで時間を潰していた。



「三枝さんですか?」



「はい」


 突然、店員に声をかけられた。



「神野さんがお待ちです。 こちらへ」


 不審に思ったが、店員の後をついて行った。奥の事務室の隣にある休憩室に案内された。



 中に入ると、大柄の男がいた。


「よお。 待ってたぞ」


 神野だった。



「おまえ。 何で、スタッフの部屋に居るんだ?」



「言ってなかったな。 俺の祖父は手広く事業をやっていて、この店にも影響力があるのさ。 あまり詳細は聞くなよ」


 神野は、ニヤけた。でも顔が怖い。



「何か良く分かんねえが、まあいい。 早速、噂を広めた奴を教えてくれ」



「その前に、約束してくれ。 これから情報源となる人に会わせるが、学校では一切関わるな。 いいな?」



「分かった」


 俺が承知すると、休憩室の隣にある会議室に入った。



 入ると、2人の男女が挨拶して来た。

 

「この前は、姉を助けてくれてありがとう。 昨日、神野から連絡が来て、三枝が困ってると聞いた。 だから、姉に分かるか確認したんだ。 そしたら、噂を流した犯人の目星が付くという。 だけど、姉が直接 三枝に話したいと言うから、神野に この場を設定してもらったんだ。 詳しい話しは、姉からするよ」


 そこには、細木 良太と姉の 沙耶香がいた



「元太さん、久しぶりです。 言いづらいんだけど、貴子さんと別れたのは本当なの?」



「ああ。 桜井の策略に見事にやられて、別れたよ」



「では、今、噂されてる、田中 安子さんと付き合ってるの?」



「ああ。 貴子の事があって付き合い始めた。 詳しく話すけど、ここだけの事にとどめてくれ」


 俺は、貴子と別れた理由や、安子と付き合うようになった経緯を説明した。



「変な噂を流されて、名誉を傷つけるなんて、男らしく無い性格だわ。 でも、桜井は、なぜ そこまでするのかしら?」



「分からない」



「私は、噂はデタラメだと思ってた。 元太さんの口から聞けて安心したわ」


 沙耶香は、意味深に元太を見た。



「それじゃ、犯人を教えてくれ」


 俺は、沙耶香を見た。



「分かったわ。 以前、元太さんと貴子さんの悪い噂が広まった事があったでしょ。 犯人は、その時と同じ人物よ。 それは、私と同じクラスの 金子 優香よ。 彼女、桜井君と親しくなれたってクラス内で言いふらしてた時期があったの。 その少し後から、噂を流すようになった。 前回は、元太さんに黒い過去があるとか、貴子さんが洗脳されてるとか陰で言いふらしてたわ。 今回は、元太さんと田中安子さんが ラブホに入るのを見た生徒がいると、前回と同じようにやってた。 彼女は噂好きで有名だから、女子から警戒されてる。 他のクラスにも、噂好きで手下のような友人がいて、手に負えないのよ。 変な噂を流されると怖いから、女子は、彼女に嫌われないよう注意してるわ。 でも、元太さんの件では、彼女の目的が分からないわ」


 沙耶香は、不思議そうな顔をした。



「彼女が噂を流したのは、涼介に頼まれたからさ。 本当にセコイ奴だ」


 俺は、皆に言った。



「ところで、沙耶香さん。 金子 優香の写真とかあるか?」



「あるよ。 必要だと思って、スマホに入れて来たの。 少し古いけど、入学式の時の写真よ。 これから転送するね」


 沙耶香は、まだ、俺のアドレスを消してなかったようだ。



「あっ。 コイツには見覚えがある。 校門の前で、貴子に絡んでいた女子3人の内の1人だ」


 俺は、メラメラと怒りが再燃してきた。



「なあ、神野。 角坂はハッカーもできる不良と言ってたよな。 手を貸してもらえるかな?」



「奴は、面白い事が好きだ。 三枝のプラン次第だと思うが、これから呼び出して見る」


 神野は、角坂に電話した。



「沙耶香さん、良太、助かったぜ。 恩にきる。 学校では、沙耶香さんに関わらないから安心してくれ」



「元太さん。 以前、助けてくれたから、持ちつ持たれつよ。 貴子さんと別れたなら、私が立候補したかったけど、先をこされちゃった。 安子さんと別れたら、必ず連絡をちょうだい」


 沙耶香は、赤い顔をして言った。



「おい、角坂はこれから来るってよ。 あっ、何か話してたのか?」



「いや、何でもない」



「何か、気になるぜ」



 俺が言うと、神野は少し不快な顔をした。

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