第22話 隠密同盟

 加藤に、塾に誘われた翌日のことである。


 学校の帰り、校門の前に差し掛かると、1人の女子が俺を待っていた。思わず貴子かと思ったが、良く見ると違った。


 

「三枝君、ちょっと良い?」


 田中 安子が、声をかけて来た。



「俺に、なんか用か?」



「貴子のことで、話しがあるの」



 俺は、安子と学校近くの喫茶店に入った。



「ねえ、大きな声で言えないけど、涼介って最低の人間よ!」


 安子は、俺に怒りをぶちまけた。



「何だよ、いきなり?」



「あなただって、悔しいはずよ」



「もう、貴子とは関係ないから、どうってことないさ」



「えっ、本当にそうなの?」


 

「ああ」


 ひとこと答えた。



「私は、ダメ。 許せない! あの2人がああなる前は、私が涼介と付き合ってたのよ。 突然、涼介から、貴子と正式に付き合うことにしたと言われ、私たちはどうなるのかと迫ったら、そしたら、俺たちは付き合ってない、勘違いさせて悪かったと開き直られた。 彼の父が権力者だから、我慢してのみ込んだけど、納得いかなかった …。 ねえ、聞いてる?」



「ああ」



「それでね、貴子に問いただしたの。 そしたら、彼女、何て言ったと思う?」



「涼介が、好きとか言ったのか?」



「ううん。 涼介の家から婚約を申し込まれてると言うの。 誰にも言ってないけど、私には嘘は付けないってさ。 それで、自分は逆らえなくてこうなったけど、私には、桜井と別れられて良かったと言うのよ。 バカにするなと怒ってやったわ。 でも彼女、泣きそうな顔をしてた。 このまま消えてしまいそうに見えたから、それ以上、言えなかった。 もしかすると、逆らえない弱みを握られているのかもしれない。 貴子のようすを見て、涼介が怖い人間だと思えた」

  


「それで、俺にどうしろと」



「あんた、貴子の元彼なんでしょ。 助けてやんなよ!」



「ちょっと待て。 貴子の口から、俺とのことは勘違いだった。 涼介が好きだと、ハッキリと言われたんだ。 どこに助ける理由がある?」



「普通なら、そうだけど、貴子は無理矢理言わされてるか、もしくは、言わざるを得ない何か理由がある気がする。 これは、女の直感よ。 間違いないわ」



「2人を別れさせて、また、涼介とくっ付くのか?」



「誰が、あんな奴と! あいつは、見かけが良いだけで、中身がない奴。 いえ、性格異常者よ。 付き合うなんて、まっぴらゴメンだわ」



「そうか、分かった。 じゃあ、田中も協力してくれ」



「涼介の仕返しは怖いけど、私も許せないから協力するわ。 今日が、隠密同盟の記念日よ!」


 安子は、目をクリッとした。



「おまえ、案外、ひょうきんだな!」



「今頃、気づいたの?」


 今度は、ニヤッとした。



「それはそうと、学校で俺と居るとハブられるぞ。 良いのか?」



「それは困る。 会う時は秘密裏よ。 普段は、電話とメールで連絡を取るわ。 隠密行動よ」


 なぜか、安子は、楽しそうに見える。


 俺は、安子と電話番号とメールアドレスを交換した。



「ところで、三枝。 あんた不良でバカだと噂されてたけど、頭良いんだね。 まさか、抜き打ち考査が学年1位なんて驚いたわ。 涼介が悔しがってるから、気を付けなさいよ」


 そう言って、安子は、俺の顔をマジマジと見た。



「ねえ、三枝。 メガネで分からなかったけど、良く見るとあんた、結構イケメンかも。 ねえ、メガネを外して見せてよ」



「うるせえ。 あまり付け上がるな!」



「お〜、コワ。 それだから、女子に気味悪がられるのよ」


 安子は、俺を恐れることなく、笑顔で言った。良く見ると、この娘も、かなりの美人である。



◇◇◇



 日曜になった。休日だが、父は勤務で、早朝から出かけていた。 だから、家には、母と2人だ。


 朝方、俺が出かけようとすると、母が話しかけてきた。



「元ちゃん。 日曜も学校があるの? それとも、デートかな? 母さんを1人にして、寂しいわ」



「ああ。 今日は、塾の全国模試を受けに行く」



「えっ。 元ちゃん、塾に行くの? 今まで、言わなかったから、行かせてなかったけど、行きたいなら、行って良いんだよ!」



「いや、そうじゃない。 全国模試で自分のレベルを客観的に把握したいんだ」


 俺は、抜き打ち考査の話しはしなかった。



「そうなんだ。 ところで、今の学校での成績は、どうなの?」



「母さん、普段から気にしてくれよ。 まあ、俺も気にしてないがな」



「ゴメン。 中学まで、常に上位だったから、気にしてなかったわ。 でも、上等学園高校は、レベルが高い学校だから、今までのようには行かないよね」



「まあな。 今は、時間がないから、その話しは、帰ってからな」



「しょうがないね。 元ちゃんの帰りを、ゴロゴロして待ってるよ。 帰りは何時くらいになるの?」



「夕方の6時には、帰るよ」



「分かった。 ご馳走作って待ってるわ!」


 母は、俺にウインクした。俺は、無視して出かけた。



「無視して行くなんて、母さん寂しい!」


 背後から、声が聞こえた。




 電車を乗り継いで、塾に着いた。待ち合わせ場所に行くと、加藤が先に来ていた。



「悪い、待ったか?」



「気にするな。 ところで、元太。 教室は違うが、桜井もいたぞ。 あいつ、この塾の講師を、家庭教師として自分の家に派遣させてるんだ。 恵まれた環境だよな」



「勉強は、1人でするものだろ。 そこまでする意味が分からん」



「えっ。 元太の発想も、桜井と違う意味で凄いぜ」



 加藤は、感心したように俺を見た。

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