第14話 暴かれた嘘

 涼介の態度を見て、鎌をかけてみた。


「ところで涼介」



「なんだ?」



「田中 安子のことだが、お前が告白したのか?」



「違う。 前にも言った通り、告白されたんだ。 何でそんな事を聞く?」



「まあ、気にするな。 じゃあ、鈴木 貴子に、告白したのか?」



「訳ないよ。 あの娘は、安子が連れて来ただけで、俺は話した事もない」


 これで、涼介の嘘が確定した。



「そうか。 涼介も知っての通り、俺は、中途半端な事が嫌いだ。 お前の気持ちが定まってないのに、沙耶香さんを口説くなら、俺は、お前を許さんぞ!」



「おい、元太。 自分がモテないからって、言いがかりを付けるなよ。 俺は、誰にも告白はしてないぞ」



「お前、沙耶香さんに、ガキの頃にプロポーズして、その気持ちが今でも生きてると言ったよな。 それは、告白したと同じ事だろうが!」



「まあ、そう見る人もいるが、俺はそこまでは、考えてない」



「おい、涼介。 ふざけた事、言ってんじゃねえぞ! テメーが中途半端だと、相手を傷つけるんだよ」



「まあ、そうカッカするなよ」



「俺が、涼介とこうして付き合ってるのは、信頼関係があっての事だ。 じゃなきゃ、これで、おさらばだ」


 俺は、真剣な顔で言った。



「そんなこと言うなよ。 たかが女の事じゃないか!」



「お前、何様だ。 ふざけるな!」


 俺が睨みつけると、涼介は下を向いてしまった。俺は、そのまま、席を離れた。



◇◇◇



「涼介さん、大丈夫? 私、2年の 金子 優香と言います」


 俺が去ってから、近くにいた女子が涼介に声をかけてきた。



「えっ、自分の事を知ってるの?」



「もちろん知ってます。 歳下だけど、涼介さんは、素敵だから …」



「ありがとう」



「さっきの男に、絡まれたの?」



「ああ、何でもないよ。 喧嘩でもしてるように見えたかい?」


 涼介は、爽やかに優しく答えた。



「ええ。 さっきの背が高い人、1年の三枝よね。 あいつ不良だって噂よ。 この学校に良く合格できたものだわ」



「まあ、そう言うなよ。 あいつなりに、良いところもあるさ」



「涼介さんて、心が広くて優しいのね。 あの〜、困った事があれば力になるわ。 アドレスを交換してください」



「いいよ」



 涼介は、優香とアドレスを交換した。

 


「あ〜、優香。 ずるい。 私たちも同席させてください!」


 女子の団体が来た。



「構わないよ」


 涼介は、最高の笑顔で迎えた。


 いつの間にか、涼介の周りには、女子たちによる、人だかりができていた。



◇◇◇



 教室に帰ってからのこと、加藤が、俺のところに駆け寄って来た。



「おい、元太。 さっき、2年の、細木 沙耶香が、お前を訪ねて来たぞ」


 加藤は、興味ありげだ。



「そうなのか。 まあ良いさ」


 俺は、受け流した。



「連絡しなくて良いのか?」



「ああ。 俺から用事はないからな。 必要なら、また来るだろう」



「余裕じゃないか。 あの、美人の、細木 沙耶香だぜ。 俺なら、直ぐに連絡するぜ。 元太は、大物だよな。 さすが、神野が見込んだ男だ」



「えっ。 それって、裏番長で武闘派のカリスマ、神野 鉄雄の事なのか? 俺は、神野に憧れているんだ」


 他の男子が、口を挟んできた。



「俺は、中学が一緒だから知ってるが、元太は、唯一、神野と対等に渡り合える男だ」


 加藤は、自慢げに言った。



「元太は、スゲーんだな」


 俺を、周りの男子達が、羨望の眼差しで見た。



「静かにしろ!」


 俺は、ひとこと言って、自分の席に移動した。



 加藤と男子の数人は、興味あり気に俺を見ていた。


 

◇◇◇



 学校の帰り、校門の前に行くと、貴子が待っていた。



「元ちゃん、待ってたよ。 勉強しようよ!」



「ああ。 俺の家でも良いが、何処に行く?」



「私は、図書館が良い。 元ちゃんとの事を、他の人に見せつけたいの。 でも元ちゃんの家も捨てがたいけどね!」



「そうなのか? 俺の事を見られて大丈夫か?」



「元ちゃんは、私の自慢よ!」


 俺は、貴子の言葉を聞いて、驚いて、次の言葉が出なくなった。



「元ちゃん。 どうかした?」



「いや」



 一言だけ、返した。



「じゃ、図書館へ行こう!」



「分かった」



 結局、俺たちは、都立図書館に向かった。

 


「元ちゃん、奥の席が静かで集中できるのよ。 私がいつも座ってる席なの。 そこで良い?」



「ああ、良いよ。 よし、勉強するぞ!」



「フフ、元ちゃん気合い入ってるね!」


 貴子は、嬉しそうだ。


 席に着いて、俺は、数学の問題と睨めっこしていた。



「元ちゃん。 何でいきなり、そんな難しい問題を解いてるの? それって、大学の授業で使う参考書でしょ。 解るの?」



「ああ。 俺は、自分が興味がある科目だと、どんどん先に進んでしまう。 でも、興味が無いと、一度教科書を読む程度で、それで終わりさ。 このやり方じゃダメか?」



「ううん、凄いよ。 でも、興味が無い科目こそ勉強すべきよ。 私が見てあげるからさ」



「そうか、どちらかと言うと、文系の科目は好きじゃない」



「よ〜し。 まずは、古典から行くわよ! 私も理系が好きだけど、でも古典は面白いと思うわ」


 俺は、貴子と一緒に問題を解き始めた。



「貴子は、教えるのが上手いな。 さすが、成績優秀者だな」



「フフ。 でも、元ちゃんの、理解力は凄すぎるわ。 次回の抜き打ち考査は、私とのトップ争いになるね!」


 貴子は、目をクリっとさせた。



「貴子、何かいつもと雰囲気が違うけど、何でだろう」



「やっと、気がついた見たいね。 さあ、言って見て!」



「何が違うのか、分からんが、さらに綺麗になってる。 眼鏡はいつも通り掛けてるから、髪型なのか?」



「正解! 少し前髪を垂らしたの」


 そう言うと、貴子は、はしゃいだ。


 俺は、周りに迷惑にならないか、見回した。 すると、貴子の事を男子達がチラチラと見ていた。



「貴子、席を移動するぞ」



「えっ、どうして?」



「お前が目立ちすぎて、周りの男子の目が気になるんだ」



「元ちゃん、私を独占したいのね。 分かったわ。 私は、貴方のものよ! 但し、元ちゃんは、私のもの! 分かった!」



「貴子の、言う通りにするよ」


 貴子は、満足げな顔をした。



「貴子、軽食コーナーに行くか?」



「うん、行きたい!」



 俺と貴子は、軽食コーナーに向かった。


 しばらく歩くと、貴子が言った。



「あれって?」



 貴子は、嫌なものを見たような顔をした。その視線を追うと、そこには、涼介と沙耶香がいた。

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