第13話 涼介の過去

 沙耶香は、意を決し、良太に話し始めた。



「待ち合わせの場所に行ったら、何故か、涼介さんがいたの。 最初に、元太さんが 彼を紹介したわ」


 沙耶香は、一呼吸おいて続けた。



「雰囲気からすると、偶然、図書館に来て合流したみたい。 何故か、涼介さんは 私に積極的に話しかけて来た。 元太さんは、それを何も言わず聞いていた。 涼介さんは、イケメンだから、私も、話しかけられて悪い気がしなかったの。 その内、元太さん抜きで、涼介さんと2人で話しに夢中になってしまって …」


 沙耶香は、申し訳なさそうな顔をした。



「それで?」 



「涼介さんが、小学校の頃の、子ども会行事であった昔話をしたんだけど …」 


 沙耶香は、ここで口を閉ざした。



「早く言えよ!」



「うん。 実は、小学生だった彼が、私にプロポーズをして、今でも同じ気持ちだと言ったの。 私も、それを覚えていて、つい嬉しくなってしまって …」



「姉さん、それって」



「うん。 元太さんに酷い事をした。 だから、その話しの後、元太さんは用事があると言って、帰ってしまった」



「姉さんは、僕と違って頭が良いのに、人の気持ちが理解できないのか? 何で、そんな酷いことができるんだ? 元太は、姉さんを救ってくれた恩人の1人だぜ。 しかも、姉さんからデートに誘っておいて、その場に居合わせた男とイチャつくなんて、恥知らずもいいとこさ!」


 良太は、沙耶香を責めた。



「だから、席を離れて元太さんに謝罪の電話をした。 でも、元太さんから、さよならを告げられてしまった。 その言葉を聞いて、取り返しのつかない事をしたと思った」



「姉さんは、涼介と付き合いたいのか?」



「そうではないけど、でも、話しかけられると素敵だと思ってしまう。 この気持ちはどうしようも無いのよ」



「姉さんも、結局は、そこらの女子と同じか。 所詮は顔かよ。 イケメンに弱いんだな。 その気持ちが消えない限り、元太に近づくなよ。 姉さんが、涼介と付き合いたいなら勝手にすれば良いさ。 だけど、奴には黒い噂があるんだぞ!」



「えっ、噂って何?」


 沙也加は、興味深げに尋ねた。



「あいつは、自分が一番と思ってるから、自分より出来る奴を許さないって話だ。 中学の時だが、武闘派のカリスマと言われ、ある意味自分より目立つ存在の、神野を潰そうとして人を雇って襲ったそうだ。 でも結局、雇った連中を倒され、黒幕が涼介だと分かり、奴は、神野にボコボコにされたと言う。 神野は、言わないが、配下から漏れ伝わったんだ。 でも、涼介は人当たりが良いから、いつの間にか噂は消えてしまった。 もしかすると涼介の奴、神野に匹敵するくらい強い元太を、意識しているのかも知れない」



「本当なの? 元太さんは、その事を知ってるの?」



「元太は、神野と仲が良いから、知ってると思うけど、分からない。 でも、今の話しは神野に伝えるよ」 



「うん、分かった。 私も元太さんに謝る」



◇◇◇



 翌日、良太が通う、東中央高校での事である。



「おう、良太どうした?」



「この前は、姉を助けてくれて、ありがとう」



「綺麗な姉さんは元気か?」



「うん。 でも、実は、その件で相談したい事があるんだ」



「えっ、何かあったのか?」



「うん。 姉は、元太と同じ、上等学園高校に通ってるだろ。 元太が素敵な人って言うから、応援してたら、頑張って、デートするまでになったんだ」



「そうか。 元太は、女っけねえからな。 良かったぜ! それでどうなった?」



「初めてのデートから帰って聞いたら、元太とデートするはずが、何故か、そこに、涼介がいて、元太とのデートのはずが、涼介とばかり話してたと言うんだ。 呆れるよ。 姉を怒ってやったよ。 それで、涼介の黒い噂を姉に話したんだ」



「あの野郎、今度は、元太にちょっかい出しやがったか」



「神野、あの噂は本当だったのか?」



「涼介が人を雇って、俺を潰しに来た件か?」



「うん。 その話だ」



「本当さ。 別に隠してる訳じゃねえがな」



「元太は、涼介の裏の顔を知ってるのか?」



「別に内緒にしてねえが、言ってもねえ。 だから、詳しくは知らねえだろ。 でも、元太が、どう対処するか見たいぜ。 それにしても、涼介の陰湿で変態なとこは、変わんねえな! あの時、俺に泣いて土下座したのは、演技だったのか」


 神野は、ニヤついた。そして話しを続けた。



「でも、涼介は、元太には勝てない。 元太は、腕っぷしが強いし、顔だって眼鏡を外せばイケメンだ。 涼介が勝てるのは、軽口をたたく位か? でも女子には、それが大事か。 お前の姉さんも、そこらの女子と同じと言う事か」


 神野は、ニヤけた。しかし、顔が怖い。



「おい、良太。 元太に、涼介に裏の顔がある事を言うなよ」



「えっ、何で?」



「元太がどうするか見たいのさ。 まあ、俺より強いから大丈夫だと思うがな」



 神野は、豪快に笑った。



◇◇◇



 上等学園高校の昼時のことである。



「元太、昼良いか?」



 涼介が、訪ねて来た。いつも通り変わらない態度だ。

 

 俺が、睨みつけると、涼介は一瞬怯んだが、俺が睨むのをやめると、安堵の表情に変わった。



「ああ、良いぜ」



 涼介と学食に向かった。



「昨日は、悪かったな。 俺ばかり喋って」



「涼介は、沙耶香さんの事が好きなんだろ。 俺に遠慮する事はないさ」



「えっ。 元太も沙耶香さんの事が好きなんだろ。 違うのか?」



「涼介よ。 沙耶香さんにガキの頃、プロポーズして、その気持ちが今も変わらないんだろ。 ならば、俺に遠慮するな。 それとも振られるのが怖いのか? 超イケメンが自信を持て!」



「ああ、元太がそう言うなら、分かった」



 涼介の、戸惑う様子が伝わって来た。

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