第15話 恥知らずな男

「元ちゃん、どうする? 私はハッキリさせたいけど」


 貴子は、涼介たちがいる方向を見た。



「そうだな。 堂々と行くべきだな」


 俺は、貴子の手を引いて、まっすぐ歩いた。


 涼介は、俺たちに気付くと、案の定、話しかけて来た。



「元太どうしたんだ。 あっ、貴子さんも来てたのか! この前、観覧車に一緒に乗れなくて悲しませたな。 あの時は、安子さんの手前、ああするしか無かったんだ。 今日は、その分、埋め合わせをするよ。 貴子さんの気持ちは分かってるから安心して良いぜ。 一緒に勉強しよう!」


 涼介は、自信に満ちた表情で貴子を見た。



「嘘つきは、お断りよ!」


 いきなり、貴子に出鼻をくじかれた。



「えっ、何で俺が嘘つきなんだよ」


 涼介の顔が、一瞬、強ばった。



「涼介よ、沙耶香さんにも酷い事をするんじゃないぞ。 彼女の弟は、神野と知り合いだから、何かあると奴が黙ってないぞ。 神野とお前のトラブルの事を良くは知らんが、神野を怒らすと止められんぞ!」



「元太、何を言ってるんだ? 神野がどうしたって言うんだ?」



「元太さん。 私が此処にいるのは、貴方が来るって聞いたからなの。 桜井君、これはどう言う事?」


 沙耶香が言った。



「確かに、元太は来たじゃないか。 嘘は付いてない」


 涼介は、開き直った。



「元太さんと逢えなかったから、ここで待ってたの。 この前の事は謝ります。 だから、もう一度チャンスをください。 お願いします」


 沙耶香は、俺を見た。



「俺は、貴子と付き合い始めたんだ。 だから、ダメだ。 俺は、信頼できる人と付き合いたいと思ってる。 ところで、この前、涼介と楽しそうに話してたけど、彼の事をどう思ってるんだ?」



「正直、桜井君の気持ちは嬉しかった。 だけど、元太さんを傷付けて、深く後悔したの」



「それなら、心配ないさ。 そのおかげで、俺は、貴子と付き合う事ができた。 むしろ、感謝さえしてる。 沙耶香さんが涼介の事を信頼できるなら、付き合えば良いと思う。 俺への気遣いは無用だ。 だけど、俺は、今の涼介を、信頼できない」



「私は、桜井君とは付き合わない。 元太さんの前で、あのような態度が取れたのは、自分の気持ちが定まってなかったからだと思う。 今は、後悔しか無いけど、いつか、元太さんが振り向いてくれる女性になって見せる」


 沙耶香は、貴子を見た。



「何だよ、皆んなして。 俺が何をしたって言うんだ。 でも、勘違いは誰にでもあるからな。 俺は君たちを許す」


 涼介は、ひとこと言って、この場から逃げるように立ち去った。



「あいつ、頭は大丈夫なのか?」


 俺は、本気で心配になった。貴子と沙耶香も、頷いた。


 しばらく沈黙が続いた後、沙耶香が口を開いた。



「元太さん。 私は、もう少し勉強するから、気にしないで良いよ。 今回の事は、本当にごめんなさい」


 沙耶香は、俺を見た。



「その事は良いさ。 でも、これで、さよならだ」


 沙耶香は、寂しそうに下を見た。そして、ここで別れた。




 軽食コーナーに着くと、貴子が俺を見て言った。



「あいつ、私たち許すとか、変な事を言ってたね」



「ああ。 負けを認めたく無いんだろ。 涼介の奴、変な行動に出なければ良いが?」



 俺と貴子は、顔を見合わせた。



◇◇◇



 その頃、涼介の自宅での事。



「おい、陣内。 佐々木に俺の部屋に来るように言え」



「はい。 畏まりました。」


 執事長の陣内は、返事した。


 しばらくして、20代後半と思われる悪そうな男が入って来た。

 


「坊っちゃん、ご用ですか?」



「ああ、佐々木。 折り入って、お前に頼みがある。 3人を潰したい。 中学3年のときのような失敗は許されない。 今回は、暴力に頼るのでは無く、まずは、相手の弱みを握ることから始める。 3人の身辺を調査してくれ。 費用は出すから、優秀な探偵を雇え」



「分かりました。 それで誰を調べれば良いのですか?」



「同級生の、三枝 元太、鈴木 貴子、1年上の、細木 沙耶香だ。 それと、神野の取り巻きを、金で懐柔しろ。 分かったか?」



「でも、神野は危険では?」



「神野をどうこうする訳でない。 スパイとして、使える駒を増やしたいだけだ」



「承知しました」



 佐々木が居なくなると、涼介は、何処かにメールした。そして、不敵な笑みを浮かべた。



◇◇◇



 翌日の昼時、涼介は女子と会っていた。



「涼介さんからメールが来て、凄く嬉しいわ! ところで、私に話って何?」


 女子は、期待に胸を膨らませていた。



「実は、ある男女から、嫌がらせを受けてるんだ。 悩んだ末、優香さんに相談しようと思った。 だけど、負担に思うなら、聞かなかった事にしてほしい」



「ううん。 涼介さんの力になりたいわ」


 彼女は、涼介と秘密を共有する事で、彼を独占しているように思えた。 いや、それ以前に、話しに興味をそそられていた。



「優香さん。 ありがとう、嬉しいよ」


 優香は、顔を赤らめた。



「男は、この前、涼介さんに絡んでた、三枝なの?」



「ああ。 俺は人の悪口とか言いたく無いけど、優香さんが言う通り、あいつは不良なんだ。 最初は、三枝に友達が居ないと思って、同情から声を掛けたんだけど、それが、自分を脅すようになって …」


 涼介は、下を見た。



「酷い話だわ。 いったい、何をされたの?」

 

 優香は、興味ありげに涼介を見た。

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