第31話

「望月ー、」平田さんが呼んでいる。「はい。」いつもと同じ光景だが、話の内容はいつもとは違った。「長崎にはもう慣れたか。もう、半年か。」「はい・・・」「大阪に戻りたいって言ってたよな。」「はい・・・」「戻って良いことになったから。」「え。」

ふと、後ろを見ると福山くんや杉本さんがこちらをじっと見つめていた。川端くんや牧田さんまで。何か言いたいのかな、と麻衣は感じて何となくみんなに向かってお辞儀をした。


私は長崎から生まれ育った、大阪に戻ることになった。ずっと大阪に戻りたいと思っていた。だから嬉しかった。しかし、一方で、ここまで頑張ってきたのに簡単に大阪に戻って良いのだろうか、という気持ちもある。丁度、色々なことに慣れてきていたところだった。知らない土地、長崎での一人暮らしや、新しい職場。そこにいる人たち、そこでの暮らし。「喜んで良いのかな・・・。」と麻衣はこぼした。雫はそんな麻衣の気持ちに気づいているのか、「良いでしょ。だって麻衣ちゃん戻りたかったんでしょ?」と言った。雫は優しい。



今日で終わりなのかあ。出社するのは最後だが、あまり実感がない。帰ろうとしていると杉本さんに呼び止められた。「望月さん。大阪に帰るって本当ですか。」「はい。」「そうですか・・・。」杉本さんは目を赤くして麻衣のことをじっと見つめてきた。「あの・・・。私、いつか大阪に遊びに行きますね。」みんな急に優しくなるのはなぜだろう。もう会えないかもしれない、と思うからだろうか。杉本さんたちとはいままでちゃんと話をした記憶がない。思い出してみても、分からないことをきいていたくらいしか思い出せない。麻衣は内心ちょっと驚いていた。皆がこんなに寂しがってくれるなんて。

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