第27話

「それで、何もしてないの?」

「うん、一緒に寝ただけ。」


「エビドリアになります。」

「あ、はーい。」

「こちらレディースセットのデザートになります。」

今日のデザートはクレームブリュレだ。

ちょこんと小さなカップに入っている。

カスタードの上には焦げたカラメルが乗っている。

「わーい。」

日常の小さなときめき。

こういうものが麻衣の気持ちを軽くしてくれる。


「でもさ、門松くんは何で麻衣ちゃんと付き合ってるんだろうね。好きならなんかもっとほら、、こう、あるじゃん?」

「さあ。分かんない。」

門松くんがなんで私と付き合っているのか分からない。

私もなんで門松くんと付き合っているのか分からない。

門松くんは私のことが本当に好きなのだろうか。

だけど私も・・・分からない。

分からないけど、別に良いよね。

だってまだ・・・別れる理由ないし。

これでも別に良いよね・・・?

店内についているテレビの中では恋愛映画を紹介している。

誰かが、キュンキュンしちゃうーと言って明るい笑い声をあげた。


麻衣はなんとなくスマホを見ていたが、ぎょっとした。

「ねえ、福山くんから電話がかかってきてるんだけど。」

「え。」

昨日の夜だ。

「・・・こわ。」

いつもなら何も考えずに話せるのに、緊張してしまう。

平田さんから注意を受けたあとから、会社の人とはなるべく話さないようにしていた。



「望月さんは何頼む?」

「えっと、コーラで・・・」

「ソフトドリンク?僕はビールお願いします。」

なぜか福山くんと居酒屋に来ていた。

そしてなぜか福山くんは楽しそうだ。

「今日は、その、なんで誘ってくれたの?」

「あ、いや、、、望月さんいろいろ大変そうだなって、見てて思って。・・・何かできないかなって。」

「もしかして私が平田さんに注意されたの知ってるの?」

「あ、うん。それはみんな知ってるよ。」

そういうと福山くんは笑った。

「そうなんだ。」

みんな知ってるんだ。


「あ、でも・・・」

「ん?どーしたの?」

「その、、福山くんって彼女いるよね。」

福山くんたちは社内恋愛をしている。

らしい。

噂では相手は杉本さんだ。

福山くんは驚いた顔をしている。

麻衣はさらに「2人で飲みに行っていいの?」と続けた。

「まー、大丈夫でしょ。望月さんなら。」

私だから大丈夫・・・?

どういう意味だろう。

福山くんは「望月さんっていつも一生懸命っていうか。なんか面白いよね。」

と言った。

「そうかな。あの・・・やっぱり、連絡した方が良いんじゃないんかな。彼女に。」

そう麻衣がいうと、福山くんはクスっと笑った。

「ほんと、望月さんって真面目だよね。」

福山くんはきっと麻衣のことを朝ドラのヒロインか何かだと思っているのだろう。

真面目で一生懸命な女の子。絶対悪いことはしない。


私は全然そんなんじゃないのに。

福山くんが笑っていられなくなるようなことだって私はできるのに。


福山くんは麻衣がそんなことを企んでいるなんて気づかず。

揚げ出し豆腐を食べている。

「あ、ごめん、全部食べちゃった!食べたかったよね。」

「あ、いいよ。」

別にそんな揚げ出し豆腐好きじゃないし。

「望月さんっていっつも何してるの?」

「いっつも・・・。」

「趣味とか。」

「趣味・・・。ゲームしたりとかかな。あとはごろごろしたり。」

「へー、望月さんって意外と普通なんだね。」

福山くんはどこか期待を込めた目で話している。

「普通だよ。」






























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