第26話

行ったことは無いが、あの山の上には団地があるのだろう。綺麗に並んだ家が光っている。なんでだろう、山の上の家は全部同じような形をしている。


プルル、プルル・・・

「・・・もしもし。」

「あ、門松くん。」

電話かけるのにかなり勇気がいる。

彼氏なのに。

「・・・どーした?何かあった?」

「うん・・・。いや、特に何にもないんだけど。」

「そっか・・・。」

「今日、行っても良い?」

「いまから?日曜日会うじゃん。」

「そーだけど・・・だめ?」

「良いけど・・・。」

あまり乗り気じゃないのはなんとなく伝わってきた。


麻衣はバスに乗って門松くんのホテルに向かっていた。

目の前の座席には大学生っぽいカップルが座っている。

麻衣はイヤフォンをつけた。

queenの「somebody to love」

良い曲だな。

愛してくれる誰か・・・麻衣の今の状況に重なった。

彼氏のホテルに向かってるけど、歓迎されてない。

きっと、もうやめた方が良い。

帰って寝た方が良い。

そんなことは分かっているけど、麻衣は引き返せなかった。


クイーンを歌っている人は。彼は愛してくれる誰かに出会えたのかな。というより、彼は幸せになれたのかな。こんなこと歌っているけど。


トントン。

「はい。」

がちゃ。

「こんにちは。」

「こんにちはっていうか、こんばんは。」

そういうと門松くんはちょっと笑った。

「何してるの?」

「別に何も・・・テレビ見てた。」

「ふーん。」

「日曜日出掛けようって言ってたじゃん。」

日曜日の約束がそんなに大事か。

「来ても、何もしてあげられないよ。」

門松くんはそう言い放つとまたテレビに目を向けた。

「別に良い。」

なるほど、門松くんのことがなんとなく分かってきた。

土日は彼氏として営業しているが、平日は閉店しているのだ。

だから、いつもと話し方も違っていた。

いつもは早口で楽し気に話すのに今日はテンションが低い。

分かりやすい男である。


しかし、麻衣はちょっとかわいそうに思った。

会いたくない時に急に来られたら麻衣だって嫌な気持ちになる。


門松くんはテレビを見たままロボットのように動かない。

麻衣はとりあえずほっといて寝ることにした。

「もう私寝るから。」

「うん。」

営業停止しているロボットでも無いよりはマシだ。

少ししてからテレビの音が消えた。

門松くんが布団の中に入ってきた。

門松くんは小さな声で「おやすみ」と言った。

きいたことの無い低い声で、麻衣は本当は門松くんてそんなに明るい人じゃないんじゃないかと思った。
















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