第25話
平田さんに呼び出されたのは藤井君と話をした次の次の日だった。
いつになく真剣な顔をした平田さんは「話がある。」と言った。
麻衣はそれをきいてなんだか嫌な予感がした。
「何ですか?」
「どうだ、仕事は慣れてきたか。」
「はい。・・・ぼちぼちっていう感じですかね。」
と麻衣は答えた。
「こっちに来てもう・・・三か月か。」
「・・・そうですね。」
「・・・望月は真面目にやっていると思う。しかしな、一部の社員からクレームが来ているんだ。」
「クレーム?」
「例えば、藤井。君はあの子のことが嫌いだそうだな。」
嫌い・・・?
あ
~~~
「望月さん、もしかして僕のこと苦手ですか」
「はい、、」
~~~
確か、そんな感じの会話をした気がする。
でも「嫌い」ではなく「苦手」なだけだ。
それに「俺は別に全然良いですけど。」って言ってたのに、後からこんな風に報告するなんて。そんなにショックだったのなら聞かなければ良いのに。
平田さんに言い返したかったが、とりあえず話をきくことにした。
「それだけじゃない、例えば牧田さん。君は彼女のことも避けているそうだな。」
「え、そうなんですか。」
「そうなんですか、って自分のことだろう。」平田さんは呆れたように言った。そんなこと言われても全く身に覚えがない。
「他にも、いろいろある。」
いろいろってなんだろう。分からないけど予想はつく。雫に愚痴ってたのを誰かにきかれたとか、何か噂になって広まったとか。そういう感じだろう。
「君は好き嫌いが多すぎる。この人が嫌だ、とか、これはやりたくない、とか。」
「・・・。」
「いいか、望月、人だから好き嫌いはある。しょうがないことだ。だけどな、仕事っていうのは大変なものなんだよ。こんな状況が続くなら、異動してもらうことも考えなければならない。」
なんで?
真面目にこんなに真面目に頑張ってるのに。
悔しいのに、「こんなのおかしい」とも「異動は嫌です」とも言えなかった。
小さな声で「気を付けます。」と言うのが精いっぱいだった。
ものすごく疲れた・・・。
忙しいのは全然良い。ただ、よく分からないもめ事に巻き込まれるのは一番疲れる。
麻衣はドラッグストアに来ていた。
「ねえ雫~~、疲れた~~~。」
「お疲れ様~。」
「もうやめよっかな。異動とか言われてるし。」
「良いんじゃない?だっておかしいもん。平田の言ってること。」
「・・・だよね。」
どっちにしろモヤモヤする。
「あ、私、下地買おうと思ってたんだった。」
雫はそういうと歩き出した。
麻衣は雫についていった。
「麻衣ちゃんはないの?何かいるものとか。」
「うーん。」
棚には様々なブランドの化粧水や乳液、下地、パックなどが並んでいる。
いつもなら欲しくなるものも、いまは興味が持てなかった。
「何それー?」と麻衣がきくと、雫が
「分かんない。謎のハンドクリーム。ココナッツオイルだって。」と言った。
「謎。笑
私も同じの買おっかなー。」
「買お買おー!お揃いにしよっ」
「うん!」
パッケージにプリントされたヤシの木のイラスト。手にクリームを出して匂ってみた。確かにココナッツのような香りがする。しかし、さすがドラッグストアクオリティ。どこか安っぽい匂いだ。
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