第16話

「お待たせしましたー。トマトラーメンです。」「わーい、先食べちゃって良い?」「良いよー。」「いただきまーす。」麻衣の目の前には真っ赤なスープのトマトラーメンが置かれている。今日は日曜日。雫と街まで遊びに来ている。トマトラーメンから立ち上る湯気で周りがぼんやりしている。トマト風味のスープの上には麺、ほうれん草、揚げナスが乗っている。麺を口の中に入れると、トロッとしたトマト風味のスープが麺にからんでおいしい。「うまっ」特においしいのは味付けされた揚げナスだ。じゅわっと口の中で溶けていく。麻衣はトマトラーメンを食べるたびに長崎に来てよかった、と思うのだった。いろいろあるけど、それでも長崎に来て良かった、そう思える。それほどトマトラーメンの功績は大きい。雫は担々麺を食べている。麻衣は「ここって担々麺もあるんだね。」といった。雫は「私はこっちのほうが好きだよー。トマトラーメンが有名だけどね。」と言った。麻衣は「そうだよね。私、まだトマトラーメンしか食べたことない。」と言った。雫は「とんこつラーメンもおいしいよ。よく食べる。」と言った。麻衣は他のメニューも今度食べてみたい。絶対美味しいじゃん、と思った。だってトマトラーメンがこんなにおいしいんだもの。日曜の昼間、お客さんはひっきりなしに出たり入ったりしている。麻衣はここのトマトラーメンが食べたくて一人で来ることもあるが、いつ来てもお客さんが多い印象だ。それこそ朝でも夜でも。「らーめん柊」は2店舗しかなく、どちらも長崎にある。麻衣はこんなにおいしいんだから全国にあって欲しいと思う。チェーン店になってどこでもこの味が食べられたら個人的に嬉しい。麻衣たちは銅座本店に来ていた。もう一つのほうの店は広くて綺麗だが、本店のほうは狭いし、どことなく薄暗い感じがする。でもそれはそれで本店という感じがするし、老舗のラーメン屋さんの雰囲気がある。隣に男の人が2人座った。年齢不詳な雰囲気で、話をよく聞いてみると、日本語ではなかった。長崎には外国の人が多い。留学生や、長崎で働いている人もいる。長崎にきてから麻衣はこのような怖そうな風貌の人に出会うことが多くなった。こういう人たちにはまだ慣れることができず、雫の方を見た。「ちゅうごくご?」「かな?」雫と小声で話し、目を合わせふふっと笑った。外国人男性にさっきから見られているような気がする。私たちは店をでて、電車通りに出た。私たちはバスに乗って、私たちの家がある住吉のほうへ戻った。

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