第12話

物音がして目が覚めると、どうやら門松くんが仕事の準備をしているようだった。麻衣に気づいて、「おはよう。」と言って笑った。麻衣が「今何時?」ときくと、「5時半くらい。」と言った。頭元に時計が置いてあった。門松くんは「あの・・・仕事行かなきゃいけないから。麻衣ちゃんは全然ゆっくりして行って良いから。あ、ドアは鍵かけなくて良いから。」言った。照れているのか焦っているのか。早口でしゃべる様子を見てなぜか少しだけほえましい気持ちになった。しかし、門松くんがいなくなった瞬間、気分は最悪になった。まだ人がいるときは気がまぎれるが、一人になると、最悪だった。布団もシーツもガサガサしていて、枕のカバーもガサガサしていて寝ずらいし肌に当たると擦れて気持ちが悪い。一刻も早くおうちのふわふわした布団で寝直したい気持ちでいっぱいだった。しかも、何の優しさか分からないような大きな鏡がベッドの横に置いてある。嫌でも自分が目に入る。こんなときに見たくもないのに余計なお世話だった。私だったらこんなホテル一日で十分だ。とても何日も泊ることは出来ない。頭も重い気がする。会社に行くような気分では無かったが休む勇気もないので、麻衣は着替えて部屋を出た。エレベーターに向かう途中、客室清掃のおばさんとすれ違った。おばさんは麻衣に「おはようございます~。」とにっこりと笑って挨拶した。麻衣も「おはようございます!」と答えた。おばさんを見ていると恥ずかしい気持ちになった。朝からしゃきしゃきと仕事をこなしているおばさんに比べて、私は昨日飲んで騒いで、しかも朝帰りなんて。私も年をとったらこんな気持ちの良いおばさんになりたい。少し時間があったので、最悪な気分を紛らわそうとスタバに入った。スタバでワッフルとコーヒーのセットを頼む。丁度座った席の前方に、強面の外国人男性が2人座っていた。何か話しながらこちらを見てニヤニヤしている。麻衣は2人の視線が気持ち悪く感じて、ワッフルに集中できなかった。今すぐに店を出たい気持ちを抑えてワッフルを飲み込んだ。スタバから見える景色は良い感じで、晴れ渡っていた。麻衣のため息は透き通った空に溶けて行った。

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