第7話


「杉本さん、、」

麻衣が話しかけると相手は「私、杉本じゃないですけど。」と不満そうにいった。麻衣は、しまった、また間違えてしまった、と一瞬ヒヤッとした。杉本さんによく似た牧田さんという人だった。牧田さんは杉本さんと同い年で、性格も杉本さんに似て明るい。ロングヘアをまとめたポニーテールも、濃いめの目元のアイメイクもよく似ている。時々間違えてしまう。わからないことをきくと優しく教えてくれる杉本さんと違って牧田さんはあまり優しくはない。スルーせずに教えてくれるだけまだマシだ。牧田さんは私の話をきくと「あとは私がやっとくからこの書類作っといてくれる。」とぶっきらぼうに言った。牧田さんは川端くんと私との仲を疑っているようで、敵対視してくる。2人の空間になりそうになったら割り込んでくるし、大げさにこちらを見ながら川端くんと話していることもよくある。そういうのを目にする度、どっと疲れが出てくるような気がした。まだ川端くんと仲が良い状況なら分かるが、氷のような冷たい空気になっている今、牧田さんの行動は謎でしかない。この田舎特有の陰湿さにもうんざりしていた。麻衣は雫という友達がいてくれて本当に良かったといつも思うのだった。


麻衣は床に寝転んでいた。麻衣は仕事が終わり、家に帰ったあとの何もない時間はこうして過ごすことが多い。天井を見つめている。退屈だ。今日は特に退屈だ。ふと、窓の外を見た。もう外は暗くなり始めていた。家の明かりがちらちらと光っているが、田舎なので明かりが見えない場所にほうが圧倒的に多い。窓を開けると、夜の風がどこかから匂いを運んできた。その匂いを嗅ぐとちょっと切ないような胸がわくわくするようなそんな気持ちになった。風は麻衣に「まだ知らない世界があるよ」と教えてくれるようだった。暗闇の中には小さなビルや小さな川があり、時折車が通る。見えている景色はかなりしょぼかったが、小さな冒険心を持って麻衣は出かける準備をした。

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