第6話

コピーをするためにコピー機のほうへ向かう。たまたま川端くんと杉本さんが話している。明るい杉本さんは声が大きく、目立つ存在だ。彼女は仕事を真面目にしていなくても、注意されない。それどころか、上司の平田さんとも楽しそうにお喋りしている。杉本さんは川端くんが言ったことに、「それ、絶対ない!ありえないからー!」といって笑うと跳ねるように去っていった。川端くんも杉本さんと同じように、明るく、男女問わず仲が良い人が多い。2人とも麻衣より年下なのだった。

麻衣は川端くんと初めて話したときのことを思い出した。仕事終わりに声をかけてくれたのを覚えている。「仕事、どんな感じですか。平田さん、厳しいですよね。あの人、小さいことで色々言ってくるんで。聞き流しとけば良いと思いますよ。」と爽やかな笑顔と共に言い、麻衣が「あ、、はい。えっと、お疲れ様です。」と答えると、「お疲れ様でーす。」と明るく返してくれた。そのとき、川端くんの周りには少女漫画のようなキラキラが舞っていた。そして、麻衣自身も少女漫画のような恋する乙女になっていたと思う。しかし、コミュ力が高く明るい川端くんは当たり前のように皆の人気者で、川端くんと仲の良い女性社員も何人かいた。その時点でもう麻衣は諦めていた。それに、平田さんに怒られまくっている麻衣に対して川端くんの接し方も変わってきた。麻衣があまりにも怒られているので引いているのか、呆れているのか。たまに低い声で「そんなにゆっくりしていたらまた怒られちゃいますよ。」などと有難いアドバイスをしてくる。コピー機のところにいると、川端くんが何やら用もないのにうろうろしている。川端くんは杉本さんたちと話しているときは和やかな笑顔なのだが、麻衣がいると深刻そうな表情になる。またボソボソとアドバイスをしてくるのかと思いきや、そうではなかった。平田さんから麻衣が見えない「死角」を作ってくれているのだった。このように最初は爽やかな2人であったが、最近はそれどころではなくなっていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る