69 深まる謎
「あ、カ、カルロスッ!」
良かった・・・戻って来てくれたっ!カルロスの元へ走ろうとした。
「行かせるかっ!」
するとヘンリーが私の手首を掴み、グイッと強く自分の方へ引き寄せてきた。
「は、離してっ!ヘンリーッ!」
必死で振りほどこうとしてもヘンリーの力が強すぎて振りほどけない。
「やめろっ!テアを離せっ!」
「うるさいっ!」
するとヘンリーが大声を上げた。
「誰だ?お前は・・・。いいか?テアは俺の許婚なんだ。勝手に人の物に手を出すなよっ!」
物・・・?酷い。ヘンリーは私の事を物扱いするなんて・・。するとカルロスが叫んだ。
「テアッ!頭を下げてっ!」
「え?!」
だけど、一瞬カルロスと目が合った時・・何故かその目は信頼出来た。私はすぐに頭を下げた。するとジュースの入った紙コップを地面に置くと同時にポケットに手を突っ込み、ヒュッと何かを投げた。すると次の瞬間―。
「ウワッ!い、痛いっ!」
ヘンリーが私を離しておでこを押さえて悲鳴を上げた。
チャリーン!
コインが地面に落ちる音が聞こえた。それは銅貨だった。カルロスがポケットに入っていた銅貨をヘンリーのおでこに当てたのだ。
「テアッ!こっちへっ!」
「カルロスッ!」
カルロスが私に向かって手を伸ばして来た。
「ま、待てっ!テアッ!い、行くなよっ!」
ヘンリーはおでこを押さえて叫ぶが、カルロスは私を連れて走りながらヘンリーに叫んだ。
「あいにくお前にテアを渡す気は無いからなっ!」
そしてカルロスは私を見て笑った。その笑顔は・・・キャロルによく似ていた―。
****
人通りの少ない木陰まで私とカルロスは走って来た。
「ハアハアハア・・・。」
久々に走って息切れが酷い。一方のカルロスは涼しい顔をしていたけれども私があまりに息切れをしているのが心配になったのか、声を掛けてきた。
「テア?大丈夫かい?」
「え、ええ・・。ハアハア・・だ、大丈夫・・よ・・。」
「ごめん・・・テアの体力の事を良く考えずに走ってしまって・・・。」
申し訳無さそうに謝って来る。
「いいのよ・・おかげでヘンリーから逃げる事が出来たから・・・。」
無理に笑みを浮かべて言うとカルロスが忌々し気に言った。
「ヘンリー・・・あいつめ・・・。よくもテアを・・・。」
その言い方はまるでヘンリーの事を知っているような言い方に聞こえた。
「ねえ、カルロス・・・貴方、ひょっとしてヘンリーの事知ってるの?」
「勿論。あの男は・・本当に最低だよ。学校での評判も最低だし・・こんな言い方しては何だけど、テアはあの男と許嫁の関係を終わらせて正解だったと思うよ。最もあいつはまだテアの許婚でいるつもりみたいだけど・・・。」
その言葉にますますカルロスに対する謎が深まって来た。
「ねえ、カルロス。どうして貴方は私の事を知ってるの?私達・・・知り合い同士なの?」
すると私の言葉になぜか悲しそうな顔を見せるカルロス。
「テア・・・本当に僕の事・・分からないのかい?」
「カルロス・・・。」
私はカルロスの顔をじっと見つめて、必死で記憶の糸を手繰り寄せようとしたけれども・・・どうしても思い出す事が出来なかった。名前もまるで初耳だったし。
「ごめんなさい・・思い出せないわ・・・。」
首を振るとカルロスは溜息をつくと言った。
「まあ・・いいよ。今度会う時までの宿題にしておいてあげるよ。」
「え?宿題?」
「そう、次に僕に会う時までに思い出してみてよ。それでも分らなければ僕の正体を教えてあげるから。だから・・今は。」
カルロスは笑顔で言った。
「余計な事は考えずに・・・デートを楽しもうよ。」
そして私に右手を差し出して来た。
「え、ええ・・・。」
彼の笑顔を見ていると・・カルロスが何者でも関係ないと思えてしまった―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます