70 デートの終わりに
公園で私とカルロスはいろいろな事をして楽しんだ。2人でスワンボートに乗ったり、ちょっとしたサーカスが来ていたのでテント小屋を覗いてみたり、2人で屋台でホットドッグを食べたり・・・。気づけばすっかり夕暮れになっていた。
そして今私とカルロスは噴水前のベンチに座り、美しくライトアップされた公園の景色を眺めていた。
「あ~あ・・・楽しい時間はあっという間に終わってしまうな・・。」
隣に座るカルロスがため息をつきながら言う。
「ええ、そうね・・・。」
確かに今日1日、カルロスと一緒にいて楽しかった。まるで今日が初対面とは思えない程に、カルロスと話も合ったし。
「本当?テアもそう思ってくれるの?!」
カルロスはベンチの上に置いていた私の右手をギュッと握りしめると言った。
「ええ、勿論よ。」
「本当?!それじゃ明日も会おうよ!この公園でさっ!」
カルロスのいきなりの提案に驚いた。
「ええっ?!ちょ、ちょっと待ってよっ!多分・・明日は無理よ。
「え・・?何故無理なんだい?明日も大学は休みだよね?」
悲しげな顔でカルロスは言う。
「ええ、だけど実は今私の家に幼馴染が泊まりに来てるのよ。本当は今日1日・・・2人で一緒に出掛ける予定だったのだけど、突然彼女に用事が出来てしまって・・。だから明日は2人で一緒に過ごす予定だから・・ごめんなさい、カルロスとは明日は会えないわ。」
「ふ~ん、そうなのか・・。その幼馴染って・・テアにとって大切な人なのかい?」
「ええ、とっても大切な人よ。私にとってはかけがえの無い親友だもの。」
「そうなんだね・・・。」
その言葉を聞いたカルロスはとても嬉しそうだった。
「分かったよ。その親友がテアにとってどれほど大切な存在なのかは・・それじゃ明日はテアに会うのは諦めようかな?それにその気があればいつでも会えるしね。」
「え?」
何故か意味深なセリフを言うカルロス。そんな彼を見ると、彼は幸せそうに私を見てほほ笑んでいる。ガス灯の明かりに照らされた彼の髪はキラキラと金色に光り輝き、まるで天使のように見え、今朝見た夢の中の少年の事を何故か思い出してしまった。
「あ、あの・・・。」
するとカルロスは私の前髪をかきあげ、そっとキスするとおでこをコツンと当ててきた。
「あ・・・。」
カルロスの美しい顔が眼前にある。途端に私の顔が羞恥で真っ赤になってしまった。
「フフ・・・赤くなった顔もとっても可愛いね。」
そしてカルロスは私の頬にするりと触れ・・・。
「あ、あのっ!わ、私・・もう帰るわっ!」
耐えきれずにガバッと立ち上がった。
「ああ、そういえばそうだね。もう18時になるし・・辻馬車乗り場まで一緒に行こう。ついていってあげるよ。」
カルロスも立ち上がると自然に私の右手を握り占めてきた。
「あ、あの・・・。」
手を・・・。
「うん?何?」
屈託のない笑顔でカルロスは私を見つめてくる。
「い、いえ・・・何でもないわ。」
赤らめた頬を見られたくなくて、とっさに視線をそらせると私は言った。そんな邪気の無い笑顔で手を握り締められたら・・・何も言えなくなってしまう。
こうして私とカルロスは手をつなぎながら、2人で辻馬車乗り場へと向かった。
****
「それじゃ、テア。気を付けて帰ってね。」
馬車に乗り、窓から顔を出した私にカルロスが言う。
「ええ、今日はとても楽しかったわ。」
「僕もだよ、テア。あ・・そうだ、テア。」
「何?」
「ヘンリーは・・・テアを許婚という立場に縛り付けて・・次の手を打とうとしているけど・・大丈夫。安心して。」
「え・・?」
「必ず・・テアを今の立場から救い出してあげるからね?」
「カルロス・・・貴方、一体何を・・・。」
そこまで言った時、カルロスが御者に言った。
「それじゃ、馬車を出して下さい。」
御者は頷くと、突然馬車を走らせ始めた。
ガラガラガラ・・・
「ま、待って!カルロスッ!まだ話が・・!」
走り出す馬車から顔をのぞかせ、必死に叫ぶが、カルロスは黙って笑みを浮かべて私に手を振るだけだった―。
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