第44話 壊れた記憶(4)第三者視点

「おかえりなさいませ。パトリック様」


 マルク公爵家――、その邸宅まで王城から急ぎ戻ったパトリックは、息の詰まる思いをしながら口を開く。


「クララは?」

「クララ様は、自室で寝ておられます」

「無事なのか?」


 魔法を使い身体能力を底上げしていたパトリックは息を整えながら、マルク公爵家に代々仕えている執事へと問いかけると執事は「一命を取り留めることはできました」と、パトリックに返答していた。


「一命だと!?」

「はい」

「分かった」


 すぐに、クララの部屋へと向かうパトリック。

 彼の鼓動は高く鳴り、それは決して走って邸宅まで戻ってきたからというだけでなく、妹の身を案じているという意味合いを多分に含んでいた。


「私だ。パトリックだ」


 クララが滞在している部屋の扉の前に立ったパトリックは、何度か深呼吸したあと扉をノックする。

 すると室内から、クララ専属メイドのエイナが顔を出した。


「パトリック様。お待ちしておりました」

「クララの容態は、命に別状はないと聞いたが、本当に大丈夫なのか?」

「はい。ただ、早めに回復魔法をお願いします」

「そんなに大きな怪我を負ったのか?」

「見て頂ければ分かるかと」


 室内に案内されるパトリック。

 部屋の中は、魔法による灯りで照らされてはいるモノの光量が落とされているのか、少し薄暗い印象をパトリックは受けた。

 そんな彼は、クララの傍まで近寄り、ベッド横に置かれていた椅子へと腰を下ろす。


「パトリック様。こちらを治療して頂けますか?」

「これは!?」


 エイナが指差した場所を見てパトリックは驚愕の表情を浮かべる。

 彼の視線は、クララの胸元――、心臓部がある場所に傷があったのを見咎めたからだ。


「エイナ。この傷は、どうやってできた?」

「分かりません。ただ、こちらのナイフが落ちておりました」


 エイナが差し出してきたのは、果物ナイフ。

 室内には、果物がお皿の上に載せられていた。

その果物は、食事を摂らなくなっていたクララの為に用意されたモノであった。

そして、その果物を剥くために使われるのがナイフであった。


「まさか、自分で刺したというのか?」

「現場の状況から見ても、そうとしか……」

「馬鹿な…・・」

「それよりもパトリック様」

「分かっている」


 パトリックは、手をクララの胸元の上に翳し回復魔法を発動させる。

 すると、クララの痛々しい胸元の傷は綺麗に完治する。


「良かったです。私は回復魔法の方は、得意ではありませんので……」

「いや十分だ。クララを助けてくれて礼を言う。それにしても……自刃に及ぶとは……」


 深い溜息をつくパトリック。

 彼は、眠り続けるクララの表情を見る。


「エイナ。これからは、妹を一人にしないようにしてくれ」

「分かりました。では、邸宅のメイドのシフトなどを変更すると家令に伝えても?」

「ああ。クララの身の安全が最優先だからな」

「分かりました」



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