第42話 壊れた記憶(2)第三者視点
――クララが、ラインハルト王太子殿下と王宮地下で再開した翌日の王宮の執務室。
執務室内のソファーには、険しい表情をした男が二人座っていた。
二人の男は扉が開き、部屋に入ってきた主を見た途端、立ち上がり頭を下げる。
「陛下――」
「よい。話しは聞いておる。――で、オイゲンよ。お前の娘が、愚息――ラインハルトと再会した後に、記憶を失ったというのは本当か?」
「はい。それは、間違いありません」
「ふむ。パトリック」
「はい」
「魔法師団団長として見て、聖女に何か呪いが掛けられているような事はないのか?」
「陛下、お言葉ですが聖女は、全ての呪いを無効化できる唯一の存在です」
「そうか……。では、記憶を失っている原因は、やはりラインハルトと再会したからと言う事で間違いはないのか?」
「それは確定かと」
パトリックの言葉に、椅子へ座り『なんということだ』と、深い溜息をつくイグニス王国の国王陛下クラウス・ド・イグニス。
「陛下?」
常に冷静沈着なクラウスを見て眉を顰めるパトリック。
「パトリック。それで、聖女は魔法を扱うことは出来るのか?」
「記憶を失っている為に、魔法を扱うことは出来ません。それが何かしたのですか?」
「うむ。じつはレゴリスがな……」
「レゴリスですか? 帝国が、どうかしたのですか?」
「マリーゴールドは知っているか?」
「帝国の第一皇女だということは――」
「うむ。その第一皇女が、死の病を罹っていて、我が国の聖女に治癒を打診してきたのだ」
「それは……、すでに承認してしまったと言う事ですか?」
パトリックの言葉に、眉間に皺を寄せ乍ら頷くクラウス。
二人の会話を聞いていたクララの父親でありマルク公爵家のオイゲンは口を開く。
「陛下。それは、かなり由々しき問題かと思われます」
「分かっておる。帝国との国力の差は30倍以上。時折、生まれる聖女により帝国の庇護を受ける事が出来ていたが、今回は、それが完全に裏目に出ている。パトリック、聖女の力をすぐに取り戻すことは出来ないのか?」
「それは難しいかと……」
「そうか……」
静まり返る執務室内。
「とりあえず、帝国の皇女が到着するのが一ヵ月先だ。それまでに聖女の記憶を何としても取り戻してくれ」
「――では、陛下」
「何だ? パトリック」
「一つ、妙案があります。以前から、内偵を進めておりました件も含めて」
「それは教会上層部と、エイゼル王国が繋がっている件か?」
「はい。どうやら、ユリエールは精霊神教で匿われているようです」
「それは、確かな情報なのか?」
「はい。かなりの時間を要しましたが、そして――、どうやら協力者は枢機卿のようです」
「ふむ……。――で、妙案とは?」
「ラインハルト殿下の影武者を仕立てたいと思っております。それにより黒幕を引き摺り出し処分をしようと」
「……そうか。だが、それだけではないのだろう?」
「はい。ラインハルト様の処遇の改善を提案したいと思います」
「それを儂が許可するとでも?」
「あくまでも妙案の一つです。ただ聖女が力を取り戻す為には――」
パトリックが言葉を言いかけたところで、執務室の扉が音と立てて開かれる。
「――陛下! 大変です!」
室内に入ってきたのは、文官の一人で。
「騒々しい。何かあったのか?」
「それが、聖女様が自殺を図られたと――」
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