第36話 支持基盤(9)
「何を言っているの? エイナ」
「クララ様。差し出がましいとは思いますが、クララ様のことを思いますと、ハッキリと言わせて頂きます。先ほど、枢機卿が王太子殿下のことを聞いてきたという事は別段に問題ないと思いますが、枢機卿は王太子殿下の身柄確保が重要だと仰っていたことは聞いておられましたよね?」
「ええ。そうね」
「どうして、王国と取引をする上で王太子殿下の身柄が必要なのかを、枢機卿は話しておりませんでした」
「――え? でも、それって王太子殿下の身が危険だから、彼の身を案じているからこそって……」
「そこが不可解なのです」
「不可解?」
「普段のクララ様でしたら、枢機卿の言葉に惑わされるような事はないと思います。ですが、王太子殿下を救いたいという気持ちばかりが先行してしまい、些か周りの変化について鈍感になっておられませんか?」
「エイナ、いくら何でもそれは……」
言い過ぎよ! と、言いかけたところで、エイナは先に言葉を口にする。
「まず王太子殿下の身柄は、クララ様のお兄様のパトリック様が護衛しておられます。それは、クララ様のお言葉からも推察できます。つまり王国側としては、王太子殿下の身柄をすぐにどうこうするつもりは無いという事です」
「……それは……」
そこまで言われて、私は王太子殿下を救う為! という考えで動いていただけということを自覚してしまう。
そのために、枢機卿が王太子殿下を救う為という言葉に、違和感を覚える。
「枢機卿がどのような考えを持って王太子殿下に接触するかは分かりませんが、全面的に信用するというのも考え物かと思います」
「そうね……」
そこまで言われて、私は自分が視野狭窄に陥っていることをようやく理解する。
「そうね……。今、王太子殿下の身を守れるのは私だけですものね」
「はい。クララ様が下手を打てば――。最悪、教会側から梯子を外されることも視野に入れて動いた方がいいかと思います」
「不甲斐ない主人でごめんなさいね。もう少し考えれば分かることでしたのに……」
「いえ。大切な方を守りたいというのは当然のことです。クララ様をサポートする為に、私はディアナ様より、お傍にいるように仰せつかりましたから」
「お母様から?」
「はい」
「そう……なのね……」
私は、エイナの言葉に答えながら、馬車の外を見る。
馬車の窓越しの外は――、街路樹は夕日に照らされて赤く染まっていた。
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